ハッピーエンド厨意報
コイに落ちるお年頃
私の名前は東新彩芽。バリバリ最強可愛い女子高生です。突然ですがここで問題です。今私はどこにいるでしょうか?
なんて、藪からスティックにそんな問題を出されても多くの人はわからないでしょう。わかるとすれば私の熱狂的なファンか偏執的なストーカーくらいですか。わかった人は自首してほしいな。切実に。
だから可愛くてなおかつ優しい私は特別にヒントをあげるのでした。しかも二つも。
大盤振る舞いですね。
これは私の株もうなぎのぼり間違いなしです。なんなら鯉の滝登りです。うなぎと言わず竜になります。
ヒント①!
私がいるところはとても風が強いです。今は女子高生の象徴とも言えるセーラー服を着ているわけですから、スカートが捲れてしまわないか内心ヒヤヒヤしています。
ヒント②!
優しい波の音が聞こえてきます。この音好きなんですよね、私。震える私に大丈夫だよって寄り添ってくれている気がして。
どうですかね? わかりましたかね? では正解の発表といきましょう。私が今いるところは雑居ビルの屋上でした。当然そこそこの高さがあるので風は強いですよね。因みに波の音は私のイヤホンから聞こえるヒーリングASMRというわけです。
おかしいですね。私の株が何故か大暴落した音がします。ガラガラと。
ノンストップ安です。
閑話休題。
さて次にどうして超絶可愛い東新彩芽――私がこんなところにいるかという話になるんですけれど。これは普通に教えちゃっていっか。何の捻りもないしね。
端的に言ってしまうと自殺の為です。特に何かいじめられたとか勉強が嫌になったとかそういった具体的な理由はありません。勉強はそこはかとなくそこそこ出来ましたしね。いじめも被害者になるほど弱くはありませんでした。もちろん加害者になるほども。
それでも何かドラマや理由を求める人のためなんとか挙げるとするならば生きる理由がない。これに尽きますね。死にたいんじゃない。別に生きたいと思わないだけ。これ以上人生を長引かせようにも実践する気概も実行する生き甲斐もないです。是非もない。
他人に生殺与奪の権を握らせないためには自殺が一番いい。あの人だって言っていました。風評被害ですか。何でもかんでも鬼のせいにしちゃいけませんよね。妖怪じゃないんですから。
反省反省。
この反省は次に生きないですけれど。というか次はないんですけれどね。
そんなこんなで私は雑居ビルの屋上にいるというわけです。今はもう靴を脱いでフェンスも越えてしまっています。足が震えますがそれは高い所に立った故の本能的感情でしょう。そもそも寒いし。
ところでどうして靴を脱ぐんですかね? 靴を履かない最後は儚い最後だったりして。こんなしょうもないダジャレなのか私の辞世の句。やっぱり少なからずハイになっているんでしょうね。素面なら死んでも吐かないですよこんなダジャレ……
まあいっか。
私は思考を捨て身体を宙へパスする。当然、大気は私を受け止めてくれません。代わりに地面から凄い勢いで引っ張られました。私の美貌はこの地球さえも魅了してしまったんですね。落下という感覚は初めてのことだったんですけれど結構気持ちいいですねこれ。バンジージャンプを好む人の気持ちが少しわかります。新たな知見を得ました。人生、経験ですよねやっぱり。若者は自殺を一回経験すべきだ。なんて笑えない冗談ですか。
あと数秒後、私は死ぬんですね。死んだらどうなるんでしょう。どこか知らないところで強制労働とかだったら嫌ですよね。自殺をノーカンにしたいです。よくよく考えたら私の場合両親ともに健在ですし賽の河原が確定しているわけです。なければいいな、死後の世界。
そんな考え事をしていると窓を挟んでおじさんと目が合いました。仕事中目が疲れて遠くの山でも見ていたんでしょうか。
嫌なもの見せちゃいましたよね。ごめんなさい。忘れてくれると助かります。
というか長くないですか? 死ぬ間際スローモーションになるなんて漫画やアニメの世界だけだと思ってたけれど本当にあるんですね。「事実は小説より奇なり」です。伏線も何もなく主人公が死んでしまうんですから「事実は小説よりいきなり」かもしれません。
時間があると人間悪いことを考えてしまうもので、やり残したことをついつい探しちゃいます。後悔先に立たずというのに。後にも絶たないんですけれど。私に後はありません。比喩ではなくそのままの意味で。役立たずですね。
パソコンのデータは消したし一応書置きもした。我ながら完璧です。伝えたいことがあったわけじゃないんですけれど。旅立つ不孝をお許しくださいってあれ書いてみたかったんです。
……あれ? 先立つ不孝じゃありませんでした?
うわ、最悪だ。やっぱり考え事なんてするだけ損ですね。まあでも、死後の世界に旅立つと考えれば間違いとは一概には言えませんしね。私は誰でもない、私自身に言い訳をする。見苦しいな我ながら。
そういえば恋愛とかもしたことなかったな。私は可愛いから引く手数多だったけれど全部断っていたんですよね。全国百億人のファンのみんなが悲しむから。
嘘である。一回しか告白なんてされたことない。断ったのは本当だけれどそれは嘘の告白だって知っていたからですし。(その後の展開は言うまでもない)
いじめられていたわけじゃないですから。決して。被害者がいじめられたと思ったらいじめであるという不文律が成り立つのなら、逆も然りです。いじめは被害者意識が生み出す妄想の産物にすぎません。
やめよう。考えるのは。
もしかしてこれが「走馬灯」でしょうか。だったら碌な思い出がありませんね。「おもひでぽろぽろ」ならぬ「おもひでぼろぼろ」です。走馬灯編集サービスとかあったら結構人気出そうですよね。好きな走馬灯をカスタマイズしよう。みたいな。新たなビジネスチャンスの匂いがします。そんなお金で出来た思い出が嬉しいかはさておき。思い出のmoneyですね。
でも恋愛をしていたら、最愛の人がいたなら自殺なんてしていなかったんですかね。そんな世界線もわたし、気になります。
あ、標識。
ということはあと少しで地面ですかね。思いの外長かった死までの時間もこれで終わりかと思うと名残惜しさがあります。というか、人影が見えるんですけれど。間違ってたら「ごめんなさい」でいいらしい。でも、ぶつかったらすみませんじゃ済みませんよね。
私の危惧は杞憂に終わり、その人が下敷きになることはありませんでした。しかし、やっぱりギリギリだったようで至近距離で目と目が合います。
かっこいい男の子でした。
目にかかる前髪は少し重ためであるものの野暮ったさは感じず柔らかな風采には幼さと美しさが同居していました。
長年完成しなかったパズルを完成させたような、そんな気分になります。
もしかして私、恋に落ち――――
瞬間、地面に激突しました。痛みが感情や思考を置き去りにしていきます。私に永遠の安息が訪れました。
ということはなく。
動けないまま激痛に苛まれ数秒が数時間――永劫に感じられます。さっきの落下時にあった比じゃありません。
ふと目を開くと、先ほどの彼が青い顔をして私に声をかけていました。正直耳鳴りが凄くて彼の言葉は聞こえませんが慌てているのはわかります。今の私は見るに堪えないでしょうに目を背けずになんとかしようと。顔もよくて性格もいいのか本当、罪な男の子ですね。
パパママ、丈夫な体に産んでくれてありがとう。最後の最後に人生が満ち足りたものになりました。
私はついに意識を手放した。
★★☆☆☆@エアエアコン
最低の作品です
変に奇を衒わずハッピーエンドにしたらよかったのにただただ気持ち悪かった。
★☆☆☆☆@四月一日嘘
端的に言ってゴミ
面白くない。主人公には報われてほしい。
[Ctrl]-[Alt]-[Del]
コイに落ちるお年頃(改訂版)
~前略~
かっこいい男の子でした。
目にかかる少し重ための前髪であるものの野暮ったさは感じず柔らかな風采には幼さと美しさが同居していました。
長年完成しなかったパズルを完成させたような、そんな気分になります。
もしかして私、恋に落ち――――
瞬間、地面に激突しました。
あれ? どうしたことでしょう?
いつまで経っても地面にファーストキスを奪われません。痛みもなく死後の世界に来たということでしょうか?
いや正直痛みはあります。身体中痛むんですけれど耐えられないほどではないんです。それならそれで万々歳なんですけれどなんだか少し味気ないです。死ぬほどの痛みなんて死ぬ時しか味わえないんですから。
恐る恐る目を開けると一面にはなんと花畑が広がっていました。
なんてことはなく、慣れ親しんだ街並みでした。なんなら現世ですよね、これ。というか冷静になってみるとさっきの少年にお姫様抱っこされてますよ私。どうして?
もしかしてとっさに腕を出して助けてくれたのでしょうか?
いやそんなことあります?
加速度なめんなよって感じです。
と、冷静に考えている風を装っていますが実のところ私の鼓動はBPM120でフル稼働しています。かっこいい、てか無茶苦茶いいにおいする。やばいやばいやばいやばい!
今私に彼が話しかけてくれましたね。波の音が邪魔ではっきりとは聞こえませんでしたけれど
「ごめんなさい」
こう言った気がします。もしかして、何も知らない自分が助けてしまってとかそういうことでしょうか。
ああ、もう、性格まで最高なんですねこの人。
「好きです。まずはお友達からでも始めてくれませんか」
命を捨てようとした私ですけれど、人生捨てたもんじゃありません。
★★★☆☆@流離の鞦韆乗り
なんか……
主人公に一切魅力を感じない。恋愛ものは好きなのにガッカリ
★☆☆☆☆@京風Hello注意報
どうしてこうなった
主人公が無理。消えてほしい
★☆☆☆☆@ピッキングパパ
主人公いるか?
一人称なのに主人公がここまで不快係数高いのは問題外
[Ctrl]-[Alt]-[Del]
コイに落ちるお年頃(最終版)
某月某日、某所の雑居ビルの屋上にて少女が遠くを眺めていた。
これといって特徴のない少女だ。ナチュラルボブに、高くも低くもない平均的な背丈。体型も一般的な少女のそれである。
強いて挙げるならば宿痾の如き隈と身に纏うセーラー服が印象的である。
群衆に紛れれば二度と出会うことはかなわないそんな平凡な容姿であった。百人にアンケートを実施すれば口を揃えて中の下と言うだろう。
しかし今は雑居ビルの屋上である。彼女――東新彩芽を除いてアンケートに答える百人どころか人っ子一人そこにはいない。しかも靴を脱いで転落防止柵をよじ登っているとなれば話は百八十度変わってくる。反転する。
今まさにこの町で一番センセーショナルな人間は東新彩芽、この人であると言っても過言ではあるまい。
一説によれば自殺前に靴を脱ぐという行為は死後の世界へ行く際土足では失礼だという、礼儀の側面があるという。令和を生きる少女、東新彩芽がそれを知っているかはまた別のお話になってくるのだが。イヤホンを付けっぱなしで礼儀も何もあったものじゃないだろう。
それは突然のことであった。彩芽は何の前触れもなくそれが当然のことであるかの如く迷いなく身体を宙に投げ出す。糸が切れた操り人形にも見える動きで身体は自然の摂理に従い自由落下していく。
そこから彩芽が地上に激突するまでものの数秒もかからなかった。頚椎が衝撃でもげ、痛みを感じることなく人生に終止符を打つことも十分あり得る状況であった。
しかし奇跡が起こったのだ。いや「奇跡」と表現するにはいささかその現象は陳腐すぎるかもしれない。幸か不幸か、はたまた無意識的な防衛本能か、下は生垣であるのに加えセーラー服という空気抵抗を強く受ける衣類を着用していたため、彩芽は骨折等の負傷、衝撃によるブラックアウトはすれど命に別状はなかったのだ。
意識を失っていたのはほんの数秒のことであり、目を覚ましたのは落下地点を偶々歩いていた学生服の少年に生垣から救出されている最中であった。「生垣から救出」ということはそれ即ち抱きかかえるということでありお姫様抱っこの形になる。
彩芽が目を覚ましたことに気付いた少年は有事の際とはいえ同年代の女子を横抱きしたことに罪悪感を覚え彼女に謝罪の言葉を投げかける。邪な気持がないことと下着が見えないよう配慮したことと共に。
しかし少年の憂慮とは裏腹に彩芽が気分を害することはなかった。むしろ、朗らかな笑顔で少年に対して言葉を返す。
「螂ス縺阪〒縺吶?ゅ∪縺壹?蜿矩#縺九i蟋九a縺ヲ縺上l縺セ縺帙s縺」