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もしも魔法が使えたら  作者: 競 かなえ
1/6

プロローグ

  やんややんやーー

  小さく響く声を聞き、目を開けると目下に広がっていたのは足首までの浅い湖。ゆらりと揺れる水面は内側から青白い光りを放ち、数メートル先も見えない闇を照らしている。

  生暖かい空気が身体にじっとりとまとわりつく。

「ここは……」

  辺りを見渡しても人影はない。コロコロと鳴る小さな声は私を取り囲み、鼓膜を揺らす。

  気味が悪い。早くここから出ないと。

  立ち上がろうとする私の腕や脚に、声の主達が絡みついてくる。

  振り払おうとすると、それらは小さな人型に形を変え、赤く瞬きながら私の腕の中に入ってきた。ズズっとゆっくり深く入り込んで全身を巡っていくのがわかる。

  寒気がし始め、ドッと冷や汗が出てくる。

  足下には文献でしか見たことのない魔法陣が施され、周りの空気は次第に温度を増し、熱風が吹き上がった。

  苦しい…気持ち悪い…助けて…助けて……!

  すがる思いで目を開けると、表面に水が打っているような滑らかな質感の人型の何かがいた。それはあっという間に視界を覆い、ゆっくりと吸いつくように私と重なった。

  それが中に入ってくると、身体が燃えるように熱くなり、心臓は痛いほどに脈打ち、視界が霞んでくる。

  誰に届く訳でもない手を伸ばし、助けを求める。

  しかし発した声は自分の意思とは異なる、低く唸るようなものだった。

「これでお前は私のものだ」

  伸ばした腕には炎が這い、水膨れができたあとすぐに火傷跡がついていく。赤く腫れた部分から小さい人型が生え、炎のように揺らめく。

  身体が異形のものになっていく様子を見ていることしかできず、このまま魔物に呑まれて死んでいくのだと直感した。

  身体の芯に何かがピッタリと引っ付くような感覚がした。それは水のような、いや、違う。餡のようにねっとりとしたものだ。

  ドクンドクンと心臓の動きが速くなる。身体が鉛のように重くなり、胃を握られているような悪心と寒気が私を襲う。呼吸も浅くなってきた。

  朦朧とする意識の中、ケラケラと嘲笑っているような乾いた声が響く。

  ピキッとヒビが入る音がし、その瞬間、後頭部の奥が割れるように痛み始めた。次第に熱を帯びる頭を抱え、可能な限り侵入者に抗う。

「ああ……いやぁぁあああ!」

 

  最後に見えた光景は、火柱の中で涙を流しながら叫ぶ少女の姿だった。

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