9・やはり知識チートは半端ない
三角ボウの練習を始めるとボウが良いのかもともと新人たちの素養があるのか、意外と飛ぶしよく当たる。
「弓ってこんなに当たるのか、コイツはすげぇ」
そんな事を言い出す者が居るが、一般的な弓を持ったら絶望するんじゃないだろうか?
練習はほんの数日でどうにかなるレベルだった。
早速、先輩狩人たちに先導させて新人を連れて行かせる。俺は後ろから付いて行くだけだ。
既に何か月も森を歩いて覚えたのだろう。俺が指摘しなくともちゃんと新人を指導しているし、なにより森の地理は既に彼らの方が把握しているのだろう。勘や経験だけであたりを探っていた俺と違い、すでに牙兎の巣穴だったり、角猪の通る獣道であったりを把握している。
意気揚々と付いて行く新人たちが危なかっかしいが、それは仕方がない。
ふと、角猪の気配を感じて振り返ると気配を消しながら近寄って来るところだった。奴の縄張りなんだろうか。
すでにボウの射程内だが、慎重に距離を見計らう。威力があると言っても相手は魔物であり、撃ち洩らすとこちらに被害が出かねない。
「後ろからイノシシだ」
周囲を警戒しだす先輩たちと違い、新人はサッと俺がいった後ろを見回している。森に溶け込んでいるのですぐには発見できないらしい。
あたりを見回すが見つけられない新人たち。
反応が遅いと思った一人が発見したのだろう。反応が遅いのではなく、辺りを見るときの視点が違うと言ったところか。なるほど、素質がありそうだな。すぐさま矢を番えて引き絞っている。他の連中はその矢先を探して何とかそれらしき物を見付けたのかもしれない。慌てて矢を番えていく。
俺は新人たちが撃ち洩らした場合のカバーに徹して初手は彼らに任せることにした。
やはり、最初に発見した新人はアタリだったようだ。急所は外してしまったが見事にイノシシを射る。
他の連中はそもそも違うモノをそう思い込んだ様で木や或いは石に当たっている。
矢が命中した事で突進を始めるイノシシ。そこへ俺が矢を撃ち込んで仕留めてやった。
「急所を外して相手にただ苦痛を与えただけの場合、暴れ狂って突進してくることがある。幸いにも今回刺さったのは後ろ脚だ。それで動きが鈍かったから助かったが。より正確性が求められる」
辛口ではあるが、評価としてはそうなる。
ただ、発見できたこと自体が最も評価すべきポイントで、木や石を慌てて射たのでは掩護になっていない。そこも指摘しておくべきだろう。
「弓は射程が長くなる。槍より安全とタカをくくっていては相手を見付けられない。弓を構えている以上、槍など持ち替える事は出来ない。突進されたら防ぎようが無いんだ。距離があると安心せず。かと言って当ててやろうと焦る事もない。とにかく当てようとそれらしいモノへと射たのでは自らに危険を招き入れてしまうぞ?」
先輩狩人が慣れた手つきでシメて持ち帰る準備を始めている。人数も多いので必要部位だけ持ち帰るよりも丸ごと持ち帰って解体した方が売れる部位も増えるだろうからな。
イノシシに牙兎の牙を加工した鏃を使用して見て、かなり効果があることが分かった。これが鉄だったなら、後ろ脚を射てもダメージは小さかったかもしれない。
もちろん、その加工というのもエゲツナイものではあるが。
21世紀欧米で使われる狩猟用の矢というのは征矢のような小さく鋭いものとは違って、刺さると鋭い返しが出てきて周りの肉を抉り切り刻むように出来ている。そうすることで筋や血管を切り裂いて相手を動けなして仕留めるように出来ている。
それを真似て作ってみたが、エグイね。それで助かった訳だが、武器を考える連中って正気なんだろうか?まあ、他人の事は言えないが。
そうして持ち帰ったイノシシは解体係の村人に任せて売れる素材へと加工してもらう。
そして、次の日も森へと入って行く。昨日は不意に角猪に出くわしたことでそれを仕留めて終わったが、今日は当初の目的である牙兎の巣を目指すことになった。
森へと入って道なき道を行く。獣道が幾筋も走っているが、今日の目的はそれではない。狩人たちは既に巣穴を見付けているらしいが、数が少ないとは限らないので、これまで狩りの対象にはしていなかったという。俺でもわざわざ巣穴に突撃はしないよ。数が時には10を超えるんだから。
到着したのは人が立って入るには小さな穴だった。
すかさず一人が中へと石を投げ込む。
すると4頭ほどの牙兎が出て来た。
ここで4頭かとなめてはいけない。
遠巻きにまずそれを新人が弓で射る。イノシシより小さいので少々外しても脚の筋を切ることは出来るので身動きが取れなくなる兎たち。
そう、ここからだ。
やはり、より強い個体だろう。元気に飛び出してくるのが3頭。
4頭だけだと安心していたら返り討ちもあり得た状態だ。
先に説明していたので慌てずその3頭へと射る新人。しかし、当たったのは一人だけだった。やはり動く的には当てにくいよな。つか、昨日のはまぐれじゃなかったんだな、奴は。