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8・ドワーフよりも異世界の知恵

 三角ボウは名前の通り弓としては少し異形の三角形になっている。持ち手のハンドル部分が分割された形状で中央部に握るためのグリップがあり、その上に矢を置くスペースが存在する。そのハンドルから上下に二本ずつリムが伸びて、頂点に滑車が取り付けられる構造だ。


 通常、和弓であれば普段使うのは上級者で30kg前後の引く力を要するものだが、コンパウンドボウだとそれが多少経験がある人ならば引けるようになる。何より、偏芯滑車なのでてこの原理で引き絞った状態が一番軽くなる様に設定されており、その状態を長く保つことが可能になっている。それが命中率の秘訣にもなる。

 そして、滑車を用いる弓は通常の弓に対して構造的に初速も速くなるので威力を増すことも可能になる。


 21世紀であればリムにはカーボンやグラスファイバーを用いることになるのだろうが、ここにはそんなものはない。


 だが、それに勝るとも劣らない素材が存在している。


 この世界の弓は複合弓、コンポジットボウが主流なのだが、それは魔物の骨と筋を貼り合わせて作られる。

 動物と違って魔力を通してやれば強度が増す魔物素材の筋は非常に有効な素材であり、幸運な事に牙兎の耳にある骨は弓に適した素材となる。


 普通の弓であれば木をベースにそこに骨や筋を這って補強するように使うのだが、三角ボウのリムはたわみ次第で短くできるので骨と筋だけで作る事が出来る。

 当然だが、それを支えるハンドルは木製では強度を保つことはできないので本来なら金属製となるのだが、そうなるとアルミが存在しないこの世界では非常に高価なミスリルでなければ軽量に作れない。


 だが心配する必要はない。ここでドワーフの技術の出番となる訳だ。


 万能技能者ドワーフには様々な技術が存在する。


 牙や角を加工して槍や矢じりを作るのは当然として、魔物の骨も様々に利用する。


 ハンドルに必要なのは軽さと強靭さ。それを兼ね備えているのは鳥系魔物の骨である。


 鳥は空を飛んでいるじゃないかって?そうじゃないのが居るんだよ。その魔物はチュークという。


 あまり空を飛ぶことが無い魔物ですばしっこさとくちばし攻撃が脅威ではあるが、肉食ではない為向こうから襲って来ることは無い。

 が、肉が美味いので狩猟対象であり、その骨は強度があって軽いので加工には最適とされている。

 

 そいつならば罠を仕掛けて捕獲する事も可能なため、村では一番捕獲されているので材料に事欠く事もない。


 グリップは木で、ハンドルとグリップを接合するのに多少の鉄も使う。


 そして、牙兎の耳の骨と後ろ脚の筋を貼り合わせて適切な強度を出したものを4本用意してハンドルに固定し、偏芯滑車を先端に取り付ければ本体は完成だ。この辺りにも前世の知識が生きているのがなんだかうれしいやら悔しいやらで複雑な気持ちになる。

 ドワーフは万能技能者として引く手あまたなのだが、前世の農民でしかなかった爺の知識がその上を行っている。農具しかり滑車しかりだ。


 そうして完成した本体にこれまた新たに作ったボウプレスで引き絞ってケーブルを張って完成だ。


 ケーブルは以外にも植物繊維で強度が十分保てるらしいので、通常通りに利用している。


「これはまた不思議な形の道具ですね」


 新人にボウを見せたら、それを弓とは認識してもらえなかった。


 確かに弓というのは湾曲した一本の棒に弦を結んだものを想像するだろうから、この複雑な機械が弓だとは思わなかったと言う。


 それはその通りだ。


「しかし、これはどうやって引けば?」


 グリップではなくハンドル部分やリムを持って引っ張ろうとする。


「ここを持って引くんだ。あ、空うちは止めてくれ、壊れやすいからな」


 威力が出る上に滑車を利用している。空うちでは係るはずの荷重が無いので負担が各所に掛かってしまうのだ。


「あの、俺、左利きなんで弓は・・・・・・」


 通常の弓というのは矢を番える位置が決まっており、当然ながら標準は右利き用に作られている。


「心配いらない、これは矢を真ん中に番えるから左右どちらでも使える」


 そう、三角ボウの利点は両利きな事だ。中央部に矢を番えるのでグリップは左右どちらで握っても良く、引く手もどちらでも構わない。本来なら左利きを別に作らないといけないのだが、三角ボウの場合はその必要が無い。


「は、初めて弓を引きました」


 感動するように左利きの新人が言う。


「ところで、この輪っかは何です?」


 一通り扱い方を教え、皆が覚えたところで一人がそんな事を言って来た。


「これか?この道具を使ってここを引っかけるんだ」


 コンパウンドボウにはかぎ爪状の道具、リリーサーという道具でワイヤーを引くという他の弓にはない特徴がある。


 和弓の場合もゆがけという引手に嵌める専用の手袋があり、その親指部分には堅帽子という弦を引っかける角が存在している。

 馬上弓では手綱を握れないので元来は存在しなかったものだが、三十三間堂の通し矢で強弓を何度も引くために生み出され、今では主流となっている。


 それと同じく強弓であるコンパウンドボウも指で引くのではなく道具によって引くように出来ており、リリーサーを掛けるDループという専用の輪っかをワイヤーに取り付ける。

 

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最初は面白かったが、ただ日本の知識でモノを作ってるだけで話が全く進まないから飽きてくる。
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