外伝4 我はヒニュー飛行団! 2
「ソロモン渡って、ガダルカナル空襲するようなもんだろ」
と、私の説明に対してマッツはそう言った。
ほう、あの地はガダルカナルと言うのか、物知りだな。
「いや、例えだ。それも、とんでもない無謀な作戦という意味のな」
と言うが、私はそのような話は聞いたことがない。レンジェレフでは、ダータがかなり無謀な作戦を行っているのであろうか。
だが、私はダータではない。そんな無謀な話はしていない。
ダルでひとっ飛びの場所にある敵拠点を破壊しようと言っているだけだ。なにが不満なのであろうか?
「言ってること自体は、ドロベタ奇襲と同じで間違っちゃいない。そこは問題無いが、誰がその攻撃に参加する?しかも、今回は一箇所を一度奇襲して終りではないだろう?」
よく分かったな。
その通り!本来は騎兵が行う迂回や後方撹乱を我がヒニュー飛行団がやるのだ!
当てずっぽうなことをやろうなどとは考えていない。
ダルの性能を考えれば、南方への偵察飛行も可能だ。つまり、やる事は幾らでもある。
お、そうだな。
「マッツ、私が要求するのは長い飛行時間、飛竜より速い飛行能力、そして、飛竜の厩舎やダータの拠点を容易に破壊可能な爆裂結晶の搭載能力だ」
これまでは向かってくる飛竜を迎え撃つ事を主眼と考えていたが、しかし、ダルの飛行能力によってそんな視野の狭い考えではダータに対抗出来ないことがよく分かった。
東方の飛竜厩舎の所在は何も攻撃を企図した場所に留まらない。ダータの飛竜伝説とやらが事実ならば、連中は私がオボロゲに遠望しか出来ていないはるか東方山脈において飛竜を飼い慣らし、はるばる東方平原を呑み込み、パンノニアまでやって来たというではないか。
ならば、かの厩舎群などダータからすれば場末の拠点に過ぎない。
確かに、普人が謳歌する西方の様にダータも複数の部族や国に分かれ、必ずしも一枚岩ではないのだろう。
しかしだ、それはいま、南方で攻めあぐねるダータ連中に取って代わる、より強力な東方勢力が押し寄せる懸念にも繋がる。
「ヒニューは知っているか分からないが、ダータにもドワーフが付いている。正確には俺ら北方ドワーフではない連中が」
と、こちらには伝わっていない話をはじめるマッツ。
それは面白いではないか。
「驚かないか。北方だろうが東方だろうが、ドワーフはドワーフだ。既に連中は爆裂結晶の新たな使い方を身に着けたらしい。騎士団領奪還に動く連中が銃撃された」
ほう、結晶銃を作り出したか。
そんな奴らとやり合えるとは、待ち遠しいではないか!
「嬉しそうだな。そうなると、迎撃を考慮すれば空戦可能な機体が必要になる。要望に応えるには、ゼロ戦が必要だ。簡単にゃ出来ねえぞ?」
と、言ってくる。望むところだが、ゼロセン?何だそれは。まあ、なんであれ
「ナル早で頼む。いや、シェレシュの様に数が揃わないのも困るから、ナル安も追加だ」
そうしなければ、私の華麗なる作戦計画が達成出来ないからな!!
マッツは呆れを通り越して無表情であるが、やってやれんことは無いだろう?
出来ないとは言わないのだからな!
「ナル早、ナル安でそんなモンが造れるか!と、言いたいが、言っても無駄らしいな」
と、冗談を口にしているので間違いない。コイツは確実に腹案があるようだ。
見せてもらおうか、ドワーフの本気とやらを!!
それからかなりの時間を要した。
その間にダルは4機に増え、東方だけでなく南方の偵察も実施できるようになったが、あんなに操縦しやすいダルに乗るのはドワーフばかりだ。
試乗だけなら普人も喜んで乗るのだが、なぜか偵察飛行に出ようとはしない。あんな快適な機体なんぞ他にありはしないのだが?
なんであれ、その結果分かった事だが、ダーナ川河口に存在したモエシアの港町を、今はダータや東方勢力が利用していることが分かった。
ドロベタから先へ進軍しなかったのは正解だったと言って良いだろう。しかし、このまま港を放置してはこちらもじり貧まっしぐらである。バカな西方はパンノニアを見捨てているし、西方を見限ったと嘯くレンジェレフの支援までしなくてはならない。
それなのに、敵は潤沢な補給をいくらでも受けられるとあっては、さすがに楽観的な考えになど、なれはしないではないか。
「ハァ?東方だけでなく、南方の拠点まで攻撃するってのか?そうなると、まずは飛竜の厩舎を根こそぎ潰して制空権確保が優先か。航空撃滅戦までやれるマルチロールとか冗談キツイだろ」
ぺスタへと一時帰国していたマッツを尋ねて少々仕様の変更について話し合ったが、撃 滅 だと?なんという魅惑的な響きだ。
当然、それが可能な機体として開発して欲しいものだ!!
「本当にアレもコレもとゼロ戦状態じゃねぇか。シェレシュベースはその話を聞いて白紙にさせてもらう。ナル安でそれを実現するとなると、タイガーⅡ的な機体か?いや、それはねぇか」
と、困惑気味であった。しかし、シェレシュをベースにしてナル安は無理があるのではないか?
それからしばらくして、我が飛行団へと新型結晶対応の爆裂結晶牽架ラックが届けられた。
説明によれば、これまでとは違い小型の爆裂結晶を多数吊り下げる為の器具であるらしい。
「この装置を用いて小型爆裂結晶を広範囲に散布する事によって、火災や機器の破壊を狙う戦法が可能になります。厩舎や港湾、集結した部隊への攻撃に効果的です。小型の為、フェヂケにも対応しております」
との説明を受けた。
と言っても、攻撃可能なのはちょっかいをかけてくるダータの駐屯地や小規模厩舎が精々でしかない。港や例の大規模厩舎へ飛ぶには新型機が必要である。
そんな日々が続いて、ようやく新型機が完成したという。
やって来た新型機はこれまでにない形状をしていた。
「まるで鳥に魔動機を取り付けたような外観をしているように見えるが?」
やって来たマッツにそう聞いてみた。
「ああ、無理難題を解決するのに四苦八苦したが、解決策として選んだ結果がコレだ。固定翼のオス猫というか、サイズ感でいえば、セスナのサソリだな」
空を飛ぶオス猫など寡聞にして知らん。それに、セスナとは何だ?
まあ、それはともかく、出来るだけ空間容積を確保可能な機体形状として、そこにフェヂケ2の魔動機を二基装着するという。たしかに、機体の側面左右にダクトがあり、平たくなった機体後方にノズルが二コ存在している。ノズルの間の機体は後端へ行くほど平たくなっている不思議な形状だ。
しかも、垂直尾翼を二枚も備えている。そしてこれまでとの大きな違いは、胴体内に爆裂結晶を収納して飛べる事だという。
「さらに新開発の圧縮結晶を多数詰め込める機体形状を採用したから7時間近い飛行にも対応している。さらに、空気抵抗を減らすために爆弾倉を設けた上に小型軽量銃を2丁採用している。23ミリ銃だが、対飛竜にも対地掃射にも対応するために1丁あたり250発を装填可能だ。発射速度を増した新型だぞ?シェレシュと投射威力は変わらん」
私はそんなマッツの説明を聞き流してすぐ、早速機体に爆裂結晶を取り付け、あの厩舎へと向かった。7時間も飛べるというのは本当に安心感が違うな!!しかも、いきなり6機も融通するとは気が利いている。ナル安のためにフェヂケ2の魔動機を用い、不足する推力を二基に増やすことで補いながら、シェレシュ以上の飛行時間や搭載能力を得ることに成功したというのも高得点だ。
それからヒニュー飛行団では半年の間に新型機シャシュを12機も受け取る事が出来た。ナル早にも程がある素早い対応であったが、機体構造はフェヂケ譲りの量産性を持っているとの事だった。
ただ、長時間飛行、攻撃能力、飛行性能とすべてを追い求めたがために乗り手を選ぶことになった。
私などは夜明けから日暮れまで毎日飛んでも何とも思わないが、着いて来れる奴が少なすぎて困る。マッツには「魔王閣下」などと不名誉な称号をあたえられてしまったが、私は魔王などではない。騎士だ。
これからシャシュを駆ってパンノニアの空を駆け回る事が私の仕事である!!
サブタイトルを「我は蒼空の魔王ヒニューである!」へ変更したいと思います。