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外伝3 我はヒニュー飛行団!

 ドロベタ奇襲作戦による論功によって、私は正式に飛行団を持つことが出来た。


 騎士として自分の騎士団を持ちたいと願うのは当然である。ドワーフであればそれ以上の望みはない。

 そして、ただの騎士団ではなく、初めて空の騎士団を自らの手で作り上げるという栄誉を私は手に入れた!


 だが、以後の活動は出来上がった機体を受け取り、ただただ乗り手を育て上げる流れ作業が大半となってしまった。


 ドロベタにあったあの厩舎こそが、侵攻するダータ最大の施設であったらしく、他に分散する飛竜を操る術者集団の間で権力闘争が起き、北方勢力が独自裁量で行動をはじめ、あまつさえパンノニア方面の飛竜さえも自身の勢力下へと引き入れ、北へと連れ去っていったのであった。


 せっかく血沸き肉躍る大空戦が展開できると思った矢先の屈辱であった!!


 だからと言って、私が勝手に他国の空へと駆け出していくわけにもいかない。何より、南方においてすべての飛竜が一掃されたわけではない。わがヒニュー飛行団に組み入れられた精鋭部隊をパンノニア各地へと派遣し、先鋒として飛竜と戦っているのである。それを放り出して他国で戦功をあげるなど、できる話では無かった。


 そこで、飛行機の生みの親であるマッツに相談を持ち掛けた。


「はぁ?より長時間飛べる機体が欲しいだと?」


 何をそんなに驚く必要がある?これから必要なのは東方へと飛んでいける飛行機であることは論を待たないだろう。

 そうしなければ、私は戦場を得ることが出来ないではないか。


 そんな私の願いを嫌そうな顔で聞いているマッツではあったが、何やら考えがあるらしい。


「やってできんことは無いんだが、ソイツは速く飛べるような機体にはならんぞ?速く飛ぶなら、シェレシュで飛んでくれ、しかし、ゆっくり長く飛ぶなら、フェヂケを弄れば出来んことはない。ハズだ・・・・・・」


 と、意欲を見せているので、当然それを制作してもらう事に決めた。


 何がそこまで嫌なのか分からないが、とことん嫌そうにしていた。


 そんな彼はレンジェレフでの活動を主としており、なかなかパンノニアでの活動には参加できない状況だというが、それが嫌なのだろうか?


 私も彼が北方作戦に関わる重要なポジションにいることは理解している。

 バカではないのでその活動を邪魔する気は毛頭なく、気長に相談した機体が完成するのを待っていた。


 どれほど待っただろうか。


 ようやく完成した機体は白を基調として一部を黒く塗っている、まるでダル()が飛んでいるかのような優雅な姿であった。


「おお!これがその機体か!!」


 着陸してエプロンへとやって来た白を基調とした機体へと駆け寄っていった。


 降りてきたのはマッツ本人ではなく、確かマーヤと言っただろうか、彼の妹であった。


「ヒニュー騎士のご要望の機体をお届けに上がりました。兄もすぐにやって来るでしょう」


 そうして雑談をしていると、一機のシェレシュが降りて来た。一般的な機体よりもコクピットが大きい。どうやら複座型であるらしい。


 降りてきたマッツから説明を受けると、フェヂケ2をベースに主翼を延長し、速度性能を犠牲にしながら安定した飛行を可能にしているという。

 しかも、魔動機を切って滑空で長時間飛ぶことが出来るようにしているとかで、まず高度を取り、風に乗って魔動機に頼らず滑空を行う事で長時間滞空する設計であるそうだ。その為、空戦は出来ず偵察を主としているとの事である。


「魔動機を切るのか?」


 少々疑問ではあった。魔動機故障はこれまで不時着を意味する事象であったが、自ら推力を得るべき魔動機を切って飛行するなど、ヴェレーブでの訓練以来の話しだったのだから仕方がない。


「やってみればわかるさ」


 という彼の一言に従い、私は機体に乗り込み、これまでよりも簡単に浮かんだ機体を空高く舞い上がらせた。

 といっても、速度を犠牲にしていると言っていた通り、シェレシュの様な鋭い上昇はおろか、フェヂケの様な力強ささえない、本当にゆったりした上昇ではあるが、かなりの高空へと舞い上がる事が出来た。


 寒さを感じるような高度へと達し、言われたように魔動機を切ってみた。


 すると、思ったような不安定さは訪れることなく、そのまま飛び続けることが出来る。もちろん、シェレシュの様な飛行は望めないが、高度を維持して飛び続けることに不安はない。

 なるほど、これであれば東方のかなり奥深くまで偵察する事も可能だろう。あくまで偵察だけで、爆裂結晶ひとつ積めないと言われたが・・・・・・


 そのまま魔動機を切って高度を落しながら滑走路へと着陸する。なかなかに操縦性の良い機体だ。


「これは良い!名前はこの機体にちなんでダルと名付けよう!!」


 そう褒めると、彼もまんざらでもないらしい。


 しばらく整備や今後の配備に関する話をしたのち、二人は複座型シェレシュで帰っていった。


 これは良い機体である。


 私は次の日から機体に慣れるためにダルで飛び続けた。


 十日もすればだいたい要領を得たので、地図片手に大山脈越えに挑み、難なく東方平原を飛行する事が出来た。


 そこはパンノニア平原よりも広大であるように見えた。


 なにより、こんな高い空を飛んでいるにも関わらず、その平原の終わりが見えないのには驚くしかない。

 そんな空を飛んでいると、戦争など忘れてしまいそうになるが、私はパンノニアの騎士、ヒニューである。これは遊びではなく、パンノニアの為に飛んでいるのだと思いなおし、地上を観察する事にした。


 あまりにも空高く上がってしまったために、地上の人や動物を見分けるのは難しい、町や村が模型のように見える程度で、人や動物の動きまではよく分からない。


 だが、それでも飛竜の厩舎を探すことは問題では無かった。


 しばらく飛んでいると、大河が眼下に見えて来た。そして、その大河沿いにある大きな街らしき場所に、それを発見した。


「あの特徴的な形はこんな空高くからでも飛竜の厩舎だと分かるではないか」


 それを確認した私は基地へと舞い戻り、早速攻撃する手はずを整え、再度、正確な距離を調べる為に飛んで驚愕する事になった。

 そこはダルだからこそ発見できるほど遠方だった。フェヂケではとてもではないが届かない。それどころか、シェレシュでさえ、爆裂結晶を抱えて飛ぶのは難しい事が分かった。


「往復すれば最低でも5時間はかかるだろう。大山脈の東方に拠点があるならともかく、山脈越えという大仕事の後に2時間以上さらに東方へ飛んで目標を破壊した後、さらに山越えをして帰還するのは、シェレシュでも難しい」


 爆裂結晶を抱えて5時間以上飛べる機体が欲しい。


 そう、マッツに伝えると、あからさまに呆れたような顔をされたが、ドロベタ攻撃の英雄が、名も知らぬダータの拠点を破壊する。これほど劇的な活躍など他にあると思っているのだろうか? 


 

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