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外伝1 ランベルの誕生

 マッツが魔族認定されてしまった。


 奴だけ出ていくことになるとはどういうことだ?


 翌日俺は教会へと向かった。


「神官、例の車の事なんだが・・・・・・」


 村の教会には幸いにもあの新入りは居なかったので、顔見知りのシツィナの神官と話す事が出来た。


「魔族認定についてですか?」


 神官もほとほと困ったような顔をする


「彼はレンジェレフではなく、西方から赴任して来たんですよ。なので、エッペや彼の事を知りません。しかも、西方では未だにドワーフに対する差別も存在しています。彼の様な奇才や彼の師匠の様な錬金にも熟達したドワーフは代えがたい存在だというのに・・・・・・」


 そう言ってため息を吐く神官。


「じゃあ・・・・・・」


 そこまで分かっているのであれば、取り消しも可能ではないのかと俺は思った。


「今更取り消しも出来ません。なにせ、聖教本殿から来た者の発した言葉ですからね」


 そう、どこか諦めたような。それでいて吐き捨てるような口調でそう言った。


「エッペ。あれは乗り物ですよね?馬や牛によらない移動手段、耕作手段となるような。これまでの彼の行動から見れば、馬が居なくても動く馬車を作っていたのでしょう?」


 ちょっと驚きだが、神官の方からそんな事を言って来た。


「ああ、そうだ。魔導機を荷車に取り付けて動くようにしたのを神官も見ただろう?そう言う事だ」


 そう言うと、神官は何か考え出している。


「では、テイムした魔物、あるいは調教した家畜であれば良い訳です。そう、何かわからないモノで荷車が動いたからいけないんです。荷車を曳く魔導機?の付いた魔物であれば良いのですよ」


 コイツは驚いた。まさか、神官の側から抜け道を提案して来るとは思わなかった。


「って事はだ。アレが荷車を曳くようにすれば良いのか?」


「そうです。テイムした魔物を飼い馴らしたり労役を行う事を聖教は禁じてはいません。車が勝手に動きさえしなければ良いのですよ」


 どこか、悪だくみをする顔でそう言う神官がちょっと怖かったが、そう言う事なら面白そうだと請け負う事にした。


「分かった。やってみようじゃないか。・・・でだ、まさか、それで魔族認定とかないよな?」


 そう、それでは困るのだ。


「それについては問題ありません。爆裂結晶とかいう飛竜を倒せる武器を魔族認定するような教会です。レンジェレフの脅威にも無関心で聖典にもない理由で民を危険に晒してのうのうとしている西方の高官方にはそろそろ嫌気がさしていたんです。私に限らず」


 どうやら俺は何か大きな動きの駒にされたような気分だが、造って良いというモノをその程度で止めるほど臆病ではない。やってやろうじゃないか。



 工房へ帰るとケビが心配そうに寄って来る。


「朗報だ。マッツを追うことは無くなったぞ。アイツがアッという様な魔導車を作ろうじゃないか」


 そう言うとケビは「何言ってんだ?」という顔で見て来たので、神官との話を聞かせると、乗ってきた。


「へぇ、ここの神官は話せる奴なんだな。べルーシや騎士団領に居たのはロクデナシや頭のお固い連中だったが」


 そう言ってニヤリと笑う。まあ、どんな連中だったか聞こうとは思わん。だいたい想像がついてしまうから、聞きたくもないしな。


 そこからは苦労した。


 まず、「テイムした魔物」という事で獣のように歩かせてみることにしたが、どうにもうまくいかなかった。

 出来るには出来るんだが、荷車を曳く以外の事に使えそうにない。


 なにより、脚を細くすると泥に埋まるし、太くすると動きが悪い。更には荷車以上に複雑になって作る醍醐味は味わえるのだが、こんな高価なものが売り物に出来るのかというとまず無理だと分かる。


 それになにより、馬や牛の様に段差を自ら越える事が出来ないので、そう言う時には操縦者が個別に脚の操作してやらなければならないんだが、それがとんでもなく煩雑な操作を要する事になる。


「なあ、コイツは作っていて楽しいんだが、マトモに使えるとは思えねぇぞ?」


 ケビも同じ結論であるらしい。


 俺たちには例の三角弓の製作や農具の増産、整備の仕事もある。それらをやりながらの片手間でしか魔導車の製作が行えなかった。


「なあ、ドワーフ達。ちょっと播種機を見てもらえないか」


 村の老人が播種機を持ってきたのでそれを修理する。


「ほら、出来たぞ」


 老人は歩行型播種機を小さな荷車に載せて押して来ていた。


「そう言えば、例の若いのが作っていた車は良かったな。神官も何であんな便利なモノを魔族だ何だと止めさせちまうんだろうなぁ。まあ、ワシとしてはあの大きな車より、コイツが勝手に動いてくれた方が楽だがな」


 そう言って荷運びにいつも使っている二輪の小さな荷車を叩く。それを見て俺はひらめいた。


「その手があったか!!」


 ついつい叫んでしまった。


「どした?!」


 老人が驚いているが、それどころではない。


「オヤジ、良いこと教えてもらった。修理代はマケとく!」


 何の事か分からず呆然とする老人を置き去りにして、俺はケビを呼びに行った。


「おい、ケビ!良い事思い付いたぞ」


 ケビも何のことかわからずポカンとしている。


「脚である必要はねぇ。アレだよ。二輪の荷車だ。魔導機さえ乗って、馬が歩く程度の速度さえ出せれば良いんだ。荷を乗せないんだから四輪である必要もない。プラウやハロー、荷車を曳けりゃあ良いんだからな!」


 そうだ。魔導機の出力は馬並にはある。荷車に荷物を載せて曳く程の出力がだ。ならば、それを二輪の車にして荷車を曳けばいい。プラウやハローを曳けば良い。何だ、簡単な事じゃないか。


 そこからは速かった。なにせ、例の魔導車に取り付けていた減速機を更に低速型にしたものを製作し、減速機から出た軸に車輪をとりつけた。手綱では操作できないので、プラウやハローに使うハンドルを減速機を据えた台の上に載せた魔導機の後ろへと取り付けて操作できるようにする。車軸へのブレーキ取り付けも忘れてはいけない。


「ほう、こうなりましたか。なるほど、脚ではないですが、それは解釈の問題ですからね。ええ、このように荷車を曳くだけならば『テイムした魔物』という解釈で良いでしょう。後は任せてください」


 神官に見せると喜んでくれた。


 そして、教会内で叫ぶ例の神官を言いくるめてしまい、これを認めるという。


「ところで、これは何というも名前でしょうか?」


 そう言われて名前を考えていない事に思い至る。魔物というなら名前が無いのはおかしいからな。俺たちが言いよどんでいると、神官も考えていたらしい。


「名前がまだないのであれば、ランベルというのはどうでしょう?」


 そう言われたので二つ返事でその名前に決めた。



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