47・確かに戦理に適っちゃいるけどな
あまりの事に唖然とする面々。
1人だけ得意顔のヒニュー騎士。
「分かったなら準備だ。出撃許可はわたしが取って来る。今夜夜更けに出発だ」
いや、これから許可を得るんだろう?すでに出撃時間まで決まってるとかおかしくないか?
コイツは前造兵監のキョニュー氏と同じく完全な猪突型だな。ま、ドワーフ戦士ならよくある事だが、自分が巻き込まれると笑えないな。
そう諦めながら、爆裂結晶(大)16発があるかどうかを確認に向かう。
そうさ、ここからさ。
「あるよ」
ここはマヒした名前の食事処ではない。造兵廠だ。相手もいかつい親父ではなく可愛い義妹。
無くても良かったんだが、あるのならば仕方がない。
「どうするの?実弾で試験するの?」
そう聞かれたので先ほどの話をしたらあきれ顔で笑い出した。
「ああ、騎士に叙爵しておきながら撃墜されたからメンツに関わるんだろうね、その人。まあ、パンノニアではよくある事だと思って楽しむしかないよ」
そういえばマーヤも南方に行ってたんだっけか。
「爆裂結晶作りに南方に出かけて、矢じりに使いたいから爆裂結晶を割って欲しいとか無理言い出されてね。流石に危険だから弓用とバリスタ用の結晶を開発したの。実際に破片使ってた時にどれだけ事故が多かった事か・・・・・・」
遠い目をするマーヤを見ながら思う。パンノニアってそんな国なのね・・・・・・
それから16発のシェレシュ用に作られた航空爆弾型爆裂結晶(大)を機体のところまで運ぶ。
他のメンバーがすでに魔結晶の積み込みや銃弾の装填を行っていた。
「デカブツも来たぞ」
俺がそう言って運び込むと1機づつ装着位置へと引き出してくる面々。
果たしてどのような交渉をしているのか。本当に未明に飛び立てるのかすらわからないが、準備を済ませて置かなければイケないことに変わりはない。
着々と準備を行い、ふと気が付いたことがある。
「そう言えば機体は無地の茶色のままだったな」
そう呟いて、何色にすれば良いのか考えてみた。
部隊を率いる騎士の頭の中に合わせてピンクにでもするか?お花畑っぽくて良いだろう?
しかし、それではシビンの部隊と似通ってしまう。
何かないかと探してみると緑色が目に入った。緑の染料なら事欠かない。その辺りに転がっているはずだ。
それから染料を集めてみたが、どうやら全機分には程遠そうだったので迷彩色の様に地の茶色と交互に、あるいは斑になる様に塗っていくと何とか全機に色を付ける事が出来た。
そうこうしているとヒニュー騎士が戻ってきた。
「許可は得た!夜半に飛び立つので準備するように!!で、何だその雑な塗り方は」
と、機体色に気が付いて聞かれたので、茶色と緑ならば背景に溶け込めると説明して事なきを得た。
今日は満月を少し過ぎており、月の出が遅かった。俺たちが起き出したのは月がまだ頂点にある頃で、そこから飛行準備を始める。
「皆揃っているな。日の出までおよそ3時間だ。時間が無い、急ぐぞ」
といって準備を始める。
いくら高効率な魔導機だと言ってもさすがに全速で4時間と云うのは無理がある。爆裂結晶を搭載した場合の巡航速度は200kmに乗らない程度だ。本当に距離の計算あってるんだろうな?
そんな事を想いながら寝静まった基地に轟音を轟かせながら8機が離陸いしていく。
空の上は地上よりも明るいかもしれない。
眼下には白黒のツートンで景色が広がっているのが見えるだけだ。それは目を凝らせば山並みと空の境目がハッキリわかる程度には明瞭だが、草原にある物は輪郭以上には判別するのが難しかった。これじゃあ、夜間の離着陸や攻撃は無理があるだろうな。
ほぼシルエットしか見えない機体を追って南へと飛ぶ。左を向けば遠くに山並みが見える。あれは大山脈だろう。
それから同じような景色のまま2時間近く飛んだだろうか。かなり東の空が白みだしているのが分かる。
あたりがハッキリ見えてくる。確かに此処は南方だ。つか、すでにアクシュを越えたのではなかろうか?
先頭を行くヒニュー機が右へと変針していくのでそれに従った。流石にマトモな地図が無いのでここがどこかよく分からないが、振り返ると見知った山並みが見えるので間違った場所を飛んでいる訳ではないと思う。
しばらく飛ぶと下に川が見えてくる。そこはまさに川が山脈を貫いたような渓谷をなしており、人が通るのもやっとといった地形になっている。これがダーナ川だろう。
その上空を川に沿って飛ぶと大きく蛇行している。そしてその先を見るとどうやら川が山を抜け、渓谷の終わりを迎えるらしいことが分かった。
日の出が目の前からやって来る。下を見るとひときわ大きかっただろう街の残骸が見える。そして、真新しそうな建物がいくつも並ぶ姿がある。
居た。飛竜が地上でノンビリエサをむさぼっている様だ。他にも動いている物が見える。
ヒニュー機が大きくバンクして降下姿勢に入った。あそこが攻撃目標の拠点であるらしい。
俺たちも各々降下に入る。
地上ではようやく俺たちに気が付いたものが居るらしいが、動く人影はまばらだ。
ヒニュー機が投下した。
俺たちもソレに倣って投下すると機体が急激に軽くなり浮き上がっていく。
何とか抑え込んで水平飛行に戻す頃には下から爆発光がいくつも届いた。
ふと下を見ると煙に包まれた地上が見え、その周辺部でも爆風でだろうか、あったはずの建屋が倒壊してしまっているのが見えた。
あまり留まる時間も無くそのまま飛び去ろうと北へ機首を向けて後ろを振り向くと無秩序に跳び上がって来る飛竜が見えるが意志をもって俺たちを追いかけるものは一つも居ない。