46・そらそう言う名前の奴も出て来るだろうさ。想定内だ
試験は良好に終わった.
ただし、現状でそのままシェレシュを量産しても意味はない。空戦技を操縦士に教えることが先だ。
まずは教官から教えないといけないのでぺスタにあるフェヂケに加えてヴェレーブも動員して教官たちに教えていった。
「いいか、相手を見てからどうしようかじゃない。まずは速度をのせたまま突っ込め。そして、相手が散っても2機編隊は崩すな。相互に自分の後ろを見ることを徹底しろ」
そうやって教官たちに指導し、新人教育にも関わろうとしていた時だった。
「ここにマッツという者が居ると聞いて来た」
飛行服を着たドワーフがやってきた。新規の訓練生という訳ではなさそうだ。
「俺がそうだが」
俺が名乗り出るとそいつはマジマジとこちらを見てくる。
「鍛冶が本職だが、狩りも出来そうだな。私はヒニューだ」
ん?いや、アンタ、名前と真逆のプロポーションじゃねぇか?
そう思いながらマジマジ見てしまった。
「ああ、済まない。ヒニューは騎士としての家名だ。私はマーリン。戦士として南方に馳せ参じ、戦功によって騎士となったのだ。ついこの間までアクシュでフェヂケに乗っていた」
と、説明してくれた。
そうか、飛行機乗りで戦士か。それが一体どうしてここに来たのだろうか?
「マッツは新しい機体を開発したそうだな。アクシュに居ても機体整備しか仕事が無くてな。墜とされた者に与えるほど機体が無いと言うからぺスタへ戻って来たのだ」
まあ、現状では新人に機体を持たせて送り出すだけで精いっぱいだもんな。予備機があっても、まずは普人が優先だろうさ。なんせ、ドワーフは機体整備の方が優秀だからどうしてもそうなる。このドワーフ騎士のような例外を除いては。
戦士として各地の戦場を渡り歩く者も居れば、彼女の様に一か所に留まり騎士に成る者も居る。まあ、騎士に成ってもドワーフだから普人族が嫁ぎに来たりはしないんだがな。
そんな彼女はアクシュではやる事が無くなったという事だろう。まあ、騎士爵を持っているなら他にやりようもあったと思うが。
「確かに、新型機は開発したが、数が揃っていない」
俺はそう説明する。流石に8機では如何ともしがたい。フェヂケの生産もあるからシェレシュの生産は遅々として進まない。この試作型8機が今あるすべてだ。
「後ろの樽には用が無い。新型機だ。爆裂結晶も積めるそうだな?」
まあ、コレが新型機とは信じたくないだろう。俺でも飛んでいる姿を見なければフェヂケ以上の運動性を持つなどと信じたくない姿をしているからな。
「アンタ、新型機の名前を知らないのか」
俺がそう聞くと、ニヤリと笑う。
「ビール職人だと聞いたぞ。おかしな名前を付けたもんだ」
そう笑うので、再度シュレシュを指さした。
「ビールといえば、樽が必要だろう?」
俺がニヤリとする番だ。不本意ではあるがな!!
それを見てあからさまに驚くドワーフ騎士。
「嘘だろ?この樽が飛ぶというのか?」
まあ、そう思うのも仕方がない。何なら乗ってみろよと挑発してみたら、本当に乗り込みやがった。
躊躇なく魔導機を全開にして飛び立っていきやがる。何だあの脳筋は。
「アカン奴や・・・・・・」
俺は頭を抱えた。
コイツは確かに戦士だ。すぐにシェレシュの飛ばし方をマスターしやがった。
そして、綺麗な着陸を決めて戻って来る。
「これは良いではないか!!フェヂケなど小鳥の舞ではないか。これぞ飛竜と戦うにふさわしい!!」
ああ、脳筋はこれだからな。
一応、性能についてしっかり説明する事は忘れない。
「そいつは良い!では、すぐさま優秀な者を集めるぞ!!」
いや、アンタ一体何言いだしてんの?
だが、俺の疑問には一切耳を貸さない。
そして、格納庫へと俺を引きずって突進した挙句、4人のドワーフと2人の普人族を拉致してシェレシュのある格納庫へと戻ってきた。
「よし!ヒニュー飛行隊のメンツよ、よくぞ来てくれた」
あんたが勝手に拉致っただけだがな。
「こうしてヒニュー飛行隊が発足したからには、華麗な戦功をあげるまである!!」
などと犯行動機を供述しだす。
「さて、作戦だが、ここだ!」
と、手書きされた地図を叩く。いや、まるでどこだか分らん。
「アクシュより南方、旧パナト公領ドロベタだ」
そう言われても分からんが、そこは南部山脈を抜けた先、現在ダータが居座る地域であることは分かった。
「ここはダーナ川が南山脈を抜ける峡谷の先、そして、ここに飛竜の群れる拠点がある。我らヒニュー飛行隊はここを破壊する」
と、演説している。
「なあ、質問だが、そこまでどのくらい掛るんだ?シェレシュの飛行時間は4時間、爆裂結晶(大)をぶら下げると3時間といったところだ」
俺がそう問うてみた。
「良い質問だ。ドロベタまでは約2時間半といったところだ。ドロベタからアクシュまでは1時間も無い。重い爆裂結晶を放り投げた後ならば十分帰還可能範囲だ」
うん、このドワーフの大雑把なのにしっかり計算している正確さという矛盾。
「だが、そんな敵地へ飛ぶならば迎撃は必至だろう。爆裂結晶を抱いて飛べば急激な運動は出来ない。バリスタや例のクロスボウによる相互反射は避けようが無いぞ」
そう、飛竜がそうなのだからこちらも同じだ。
「何、ならば、見つからない夜に飛べばよい。日の出頃にドロベタへ到着し、拠点を破壊すれば追撃はない。爆裂結晶を放り投げてアクシュへ降りるだけの簡単な仕事だろう?」
そうか、だから夜目が利く事や飛行経験を聞いて回ったのか、あんなに執拗に。トンだ奴に掴まったもんだな、おい。