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45・そしてビール職人は空を飛ぶ

 出来上がったシェレシュはトゥンナン同様に樽である。胴体中央に巨大な二重反転ファンを仕込んであるのでどうしてもこんな形になってしまう。

 二重反転には高度なギヤ機構を必要とするが、ドワーフにそれはご褒美でしかない。


「何だコレ。おい、誰が作る?こいつは作りがいがあるじゃねぇか!」


 喜々としてそう言っているのがドワーフだ。しかも、正確で仕事が早い。


 ブレードも反りを持たせたスキュードブレードを採用している。というのも、フェヂケの3倍近い出力を持つ魔導機を使っているので明らかに過剰だからだ。あまり高速回転させすぎては逆に効率が悪くなる。効率低下を避けるためにわざと反りのあるブレードとしている。

 そんな大出力魔導機だが、魔力消費はフェヂケと大差ない。コレが魔導の不思議なところで、巻き数を増やしても消費魔力量はさほど増えないんだ。1本の長さではなく、使用した本数で魔力消費量が変わるので短いコアを連ねた場合には消費は多くなるが、それすら使用素材によると云う謎仕様。


 そして、樽の様なブットイ胴体を利用して33mm結晶銃を2丁、下アゴの脇に装備している。有り余る推力がそれを可能にしたんだ。当然、装弾数も各々120発だ。その上、要求通り左右の翼に爆裂結晶(大)を紡錘形の容器に収めたものを搭載可能。その場合は銃弾は各50発に減らすがな。


 さて、樽から生えた羽根だが、当然の様に直線翼である。後退翼とする意味が存在しないのだからそうなるのは当然だろう?


 水平尾翼も面積の大きい直線形状に変更。垂直尾翼も大きくなった。


「おいおい、そんな肥満体飛ぶのかよ(笑」


 そんな声が聞こえる中で初飛行である。飛ばなければ確かに笑いものだ。


 だが、俺には確信があった。


 ラジコンの際には、ファンの推力さえあれば形状の如何に関わらずとりあえずは飛ぶと。大切なのは水平に飛ばすためのバランスだと。


 フェヂケの3倍の推力を持つコイツが飛ば無いはずはないんだよ。


 そう思って魔導機を始動させると減速機と反転ギヤを介した二重反転式ファンから独特の風切り音が鳴り響きだす。後方の風圧は凄い事になっている様だ。


 推力を上げると機体が前進を始める。


 この機体、後方視界を得るために背びれの部分もガラス製にしている。流石に歪みのない曲面ガラスは無理だったので三角形ガラスを枠に嵌めて取り付けただけになっていて芸が無いなと思ってしまうが、そう思っているのは俺だけらしい。いっそ、密閉式にしてやろうか?


 吹き流しに従って進路を決め一旦停止する。


 そして魔導機を全開にすると独特の高音と重低音が混ざった音があたりを満たす。


 ブレーキを離すと機体は一気に加速していく。


 少し走らせて操縦桿を引いてみたが反応が無い。しばらく我慢して機体の振動が幾分少なくなった時点でもう一度引くと急角度で上昇を始めた。流石にとんでもない機体だ。二重反転にしていなければトルクも凄かったことだろう。


 しばらく上昇を続けて水平飛行に移る。速度計を見ると意外にも遅く270kmほどしか出ていなかったが、高度計によればすでに3000mらしい。重い機体にも関わらず、フェヂケより上昇力は上だ。


 すこし水平飛行で飛んでみたが、フェヂケより遅い300km弱でしかないらしい。翼幅もあるからだろうか?


 今日は水平飛行とすこし最高速を試した程度で降りる。


 短足なので着陸に気を付けたが、魔物素材の車輪は重いシェレシュの荷重をちゃんと受け止めてくれたらしい。


 皆の集まるところまで向かい、魔導機を止める。


 そうしないと近寄る事さえ危ないからな。


 変な癖が無い事を伝えるとすぐさま2号機の製作に戻る辺り、ドワーフだな。


 翌日は宙返りや横旋回もやってみたが、さすが、魔物革による補強が入った機体は強靭だ。壊れる気配すらない。

 さらに一度降りて銃弾を積み込んで射撃試験も行う。


 33mm結晶銃なのにフェヂケのそれとは違って振動をあまり感じない。当然だが2丁なのに変なブレも一切出ない。


 そして翌日、実際に爆裂結晶(大)のダミーを翼に取り付けて飛んでみた。


 離陸に少々手間取るが、大きな問題とはなっていないようだった。


 爆撃訓練も兼ねているので、所定の場所でダミーを切り離すと一気に機体が浮き上がってくる。それによる機体の乱れはさすがに焦った。


「兄貴、ビール職人も問題なく飛ばしてるね。例の矢筒の方法を弾倉に応用したんだ。魔力結晶と爆裂結晶の位置が近くなったけど特に危険な兆候はなさそうだよ」


 銃弾の弾倉と魔力結晶倉が近い事で心配していたマーヤがホッとしたような顔で機体のハッチを開けて確認していた。


 俺が1号機で試験に明け暮れている間に2号機が完成し、初飛行をおこなった。こちらも問題なかったらしい。


 そして、一月で早くも8機も量産してしまった。


 あのスキュードブレードだって牙兎の耳の骨と熊の革を用いた特別製だが、ドワーフにはご褒美でしかなかったらしい。

 下手な皮鎧より作り甲斐があるそうだ。


 シェレシュの特徴は機体が大型化した事で積める魔力結晶が増え、飛行時間も大幅に伸びた事だろう。


 フェヂケでは飛行時間は1時間半が限界だったが、コイツなら魔力効率も良いので4時間ほど飛べる。


 欠点を上げるならば直線スピードではフェヂケより遅い事だが、術者の操る飛竜は物理的に250km出すのは難しいので280kmも速度が出るならば問題ない。 

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