41・無敵の時代は終わりを迎えたらしい
どうやらアクシュへの重点配備に拍車がかかっているらしい。
それと云うのも向こうでは特に南方戦線で飛竜が出てくることが多く、その阻止にかなりウェイトが置かれているかららしい。
それと引き換え、シビンをはじめとした北部地区ではめっきり飛竜の飛来が少なくなっている。
時折思い出したようにやってくることはあるが、主に偵察に来る程度で最近はほとんど爆撃には来なくなった。
「そろそろ俺たちの仕事も終わりじゃねぇのか?」
やってきた新人もとうとう12人である。初期の編成であるドワーフ達にとっては、そろそろ最低限、整備で機体いじりだけに専念したい状況になっている。
と云うのも、例の33mm結晶銃の存在やフェヂケの所々への改良といったものを見せられては、自分達もそちらの仕事がやりたい。
そんな不満も出てきている。
そりゃあ、中には空を飛ぶ方が好きな奴だっている。
ドワーフと言えば鍛冶や錬金が有名だが、中には戦士として活躍するやつもいるし狩人こそ人生という奴もいる。
そう言う気質の奴には空の狩人たる操縦士も向いているだろう。
俺の場合は鍛冶もやりたいが、空を飛ぶことも苦にはならないと言ったところだ。
ただ、フェヂケの特性は分かったので、新たな機体が作りたいという欲も出ては来ている。
33mmは弾数が少ないが、それは機体が先にあって、そこに合わせて調整したからそうなった。33mm銃を前提に、より搭載重量の大きな機体にすればもっと余裕が出来るのは間違いない。
速度は少々遅くなって構わないのだからもっと翼面積を増やして胴体径を増して、弾倉容量を増やしてやればよい。
当然、ぺスタに残った連中だって考えているだろうし試作もしている話は耳に入るが、マトモに飛ばなかったり、飛んでも操縦性に難があったりしているらしい。
それは当然だ。
飛行機はプロペラ機である練習用のヴェレーブとフェヂケしかない。正直、ヴェレーブの作りは初心者向きなのでドワーフならば勘で作って飛ばせば大コケはしない性能には出来る。
対して、フェヂケのそれは理論と経験が無いと難しい。フェヂケを見たからと言って、それを拡大や縮小して簡単に性能を向上させたりといった事は出来ないだろう。
なにせ、ドワーフ達は「こうやれば空も飛べるのか」を知っただけであり、揚力の生まれ方すらちゃんと理解している訳ではないのだから。
俺がそれを知っているのは前世爺の記憶があるからだ。数多のラジコンを飛ばし、そしてオリジナルの設計、製作まで行った。その経験と理論がドワーフの経験と勘と合わさる事でこうも簡単に飛行機を作る事が出来ている。これは他にはないアドバンテージと言えるだろう。
と言っても、本当に大攻勢が無いと言えないのも確かだ。未だ南方ではかなりの飛竜が飛んでいるらしいから。
そして、こちらに飛行機がある事も知られているので対応策も考えている事だろう。
すぐには新たな飛行機製作に取り組めそうには無いな。
そんな事を考えながら日々を送っていた。
ふと見ると予定時刻より随分はやく降りてくる2機。
「飛竜の群だ。ざっと20!」
慌てて皆が機体に飛び乗っていく。
残念だが俺は留守番だ。
その姿を見送って、ただ待機するだけの俺たち。
「東へ向かったな。20も居るならここへ来るかもしれんから準備しておこうか」
そう言って掩体から機体を引き出していつでも飛べるように準備しておく。
「北東より接近するモノあり!」
それは明らかに飛行機ではなかった。
「行くぞ!」
俺たち4機も飛び立つ。
風向きの関係で南東へ飛び立って機首を回すとすぐそこに居た。
基地を爆撃する気だろうか。
俺はこちらに気が付いて接近しようとする飛竜は相手にせず上昇を続けて行く。
後ろを見ると僚機も付いて来ていた。
そこであらためて下を見るとすでに飛竜が残る2機と戦闘中だった。
弓だろうか、いや、クロスボウだ。それはそれで興味深い速射できるレバー付きらしい。
考えたもんだ。こちらもかなり接近しなければああいう飛竜は墜とせないからそれを考慮してクロスボウにしたんだろう。
だが、速度を上げて逃げに入ると追いつけていない。
さて、攻撃役は何処だ?
居た。すでに基地のすぐそばだ。
そこから一気に降下して相手が気付く前に一連射して相互反射を誘う。
1頭は見事にそれで爆散した。
その爆散で俺たちに気づいて進路を変える残りの飛竜。
逃がすまいと俺たちも追いすがる。
さすがに爆撃と空戦を同時には出来ないらしく、こいつらは弓やクロスボウは装備していないらしい。
ちょっと距離があるが見越して二連射する。僚機も撃ちかけている。
すると前方で更に2頭が爆散した。
残った1頭は適当に爆裂結晶を棄てたのだろう。地上で爆発が起きる。
そのことで速度を増した飛竜で逃げようと上昇に転じた。
それではよい的だよ。
俺はそこへ狙いすました一連射を加える。
頭と尻尾に命中して真っ逆さまに堕ちる飛竜。
ふと後ろを振り向くと僚機が爆発するのが見えた。
さっきの空戦飛竜がこちらに来ていたらしい。
「くそ!」
俺はそのまま加速してまずは引き離していく。追随しようとして途中であきらめたらしいので、宙返りをして相手に迫る。
予期していなかったのだろう相手はぽかんと口を開けて宙返りするこちらを見上げていた。
宙返りに気を取られて番える時間が無かったお前のミスだ。
俺は慌ててクロスボウを弄る姿をしっかりとらえて20mm弾を撃ち込んでやった。