38・手信号だけって不便だよな
周りに飛竜が居ない事を確認し、帰途に就こうとした時だった。
「おい!味方だバカ」
下から上昇しながら撃ちかけて来る奴が居た。
その後、すぐに気が付いたらしくて一連射で銃撃は止んだが何とも危なかった。
飛竜とフェヂケって形が随分違うのにどうやって間違えたんだ?
帰ってみると他でも誤認や誤射は起きていたらしい。
何とも困った話だ。
そこでようやく思い至ったのが、機体は魔物革を張っているので色は茶色いまま。飛竜も茶色なので咄嗟に色で判断してそうなったという事が分かった。
そんな事ってあるのかと疑問に思わなくはないが、確かに、ちゃんと目印になる色ってのがあった方が良いよな。これまでは味方しか居なかったからまるで気にする必要はなかったが、地上の兵士はそう言えば目立つ色の鎧や服だったと思い至る。
ならばと顔料を塗りつけてみることにした。
調達がし易かったのが白と赤だったので、機体を真っ赤に仕上げていく。
ただ、全員が機体を真っ赤にしたのかというとそうでもない。部分的に地の色を残す者も居る。色は機体ごとにマチマチで綺麗というよりは汚いと言った方が良いんじゃないかと言いたくなる有様だが、そこはドワーフ。コレが個性なんだろう。
そして、パンノニアの紋章を主翼と胴体側面に書き込んでいく。これは全ての機体が同じものを入れる。
アクシュに展開する連中にも早速知らせて紋章の件は必須としたが、何色にするかは任せた。
こうして各機個性的な色合いになった機体でまた通常の哨戒を再開することになった。
しばらく飛ばしていると流石に色々整備ヶ所が増えてくる。そろそろ増援が来ないと飛べなくなるという頃にようやくやってきたのが4機だった。
10人ほど操縦者は育ったらしいが、南部で哨戒範囲が広い事からアクシュが優先されたらしい。
到着直前には監視が飛竜と誤認して迎撃警報を出す一幕もあったが、同士討ちにはならずに済んだ。
到着した機体は無地のまま。一応、紋章だけは描かれていたが、それじゃあ、近づくまで分からんやろ。
降りて来た普人族は周りの機体がすべて赤い事に驚いている。ちゃんと情報が伝わってないんかな?
「どうした?飛竜と誤認しないように色を塗ると知らせたはずだが?」
そう聞いてみると、シビンとアクシュでは機体色が違うらしい。
こちらが赤に塗ったことで、シビンの機体は白にしているそうだ。部隊色まで変える気かよ。メンドクセェ
そうは思ったが、この4機を赤に塗る様に言っておいた。
翌日には4機ともに赤く塗られたが、誰が入れ知恵したのかまたぞろ個性が出ている。誰だよ、機首に←な矢印入れるなんて考えたの。
そうして増えた4機のために編隊を改組して4人をそれぞれベテランドワーフが引き連れることになり、俺の僚機も新入りとなった。
簡単な身振りで基本的な意思疎通が出来る様にハンドサインを決めていく。本来ならちゃんとした手信号を考える必要があるのだろうが、如何せん、何もかもが即席、場当たりの状況では致し方が無い。編隊間の意思疎通は本当に基本的な事しかできないのが現状だ。
だからと言って不平を言っても仕方がない。
4機増えた事で多少は楽になったが、代わりに整備に時間が取られるようになる。
大きく損傷したり摩耗したという事はまだないが、引き込み脚なので足回りの点検はどうしても欠かせない。
そして、不意に思う事がある。
爆裂結晶には相互反射と言って、魔力に反応する性質がある。爆発しない範囲で反応させればレーダーみたいな事が出来るんじゃね?と考えたが、距離が分かる訳ではないのでそこまで有用ではなさそうだ。
目が良い監視員に監視させても大した違いは無いだろう。
それから4日ほどは何事もなかったが、哨戒で飛び立って南東へと向かって飛んでいるとき、飛竜の群を発見した。
20頭近くは居るだろうデカイ群だったので引き返して基地へと伝える。
そこからとんぼ返りでまた飛び立って群を見付けた方向へと飛んでいくのだが、それはどうやらカレイを目指していた群だったらしく、見つけた時には既に白い機体が群がっていた。
「なんだ、向こうも見付けてたのか」
そんな愚痴をこぼしながら俺たちもその攻撃に加わっていく。
が、追いかけながらとなる上に無秩序に味方も飛び回っているのでなかなか射撃の機会は無い。
結局一発も撃つことなく大半の飛竜を墜として帰還することになった。
ところが、帰還途中でシビンの方角から黒煙が立ち上っているのが見えた。
おいおい、まさかの二方向同時攻撃かよ!
急いでシビンへと戻ろうと加速すると飛竜が見えた。
「この野郎!」
ちゃんと周りを見る余裕は残している。少し気持ちを落ち着けようとしていると、俺より加速した1機が飛竜の群へと向かっていく。
それを見てより冷静になった俺は少し周りを見回して僚機の新人を探した。どうやら周りに揉まれて一緒に突っ込んだらしい。
俺は少し高度を取って様子を見た。
突っ込んだフェヂケの群が銃撃しているが弾丸の小規模な爆発しか起きていない。
すでに攻撃を終えた帰りらしい。
一応、弾丸自体も飛竜にダメージを与えているし、よほどでもなければ起爆するので撃墜は可能だ。
俺は群がるフェヂケをすり抜けて低空へ逃げようとする3頭を見付けてそいつらを追っていく。
他にも気づいた機体が俺に続く。
最後尾の1頭を照準器に捉えて二連射。少し上にそれたがどうやら術者に命中したらしい。何かが弾け飛んで飛竜が逸れていく。
それを無視してもう1頭へと照準を付けて一連射。運よく飛竜の尻尾に命中して暴れ出す。
そこへ追ってた別の機体が一連射して止めを刺した。残りの一機も先頭の一頭を追って乱射しているが当たらない。
その機体に気を取られている処へ俺が一連射をお見舞いして撃墜した。