34・前世の記憶も使いようだな
「撃つのが見えないといけないから操縦席の前だろ」
という順当な意見が出る。
「だが、それをやるとプロペラ撃ち抜くの目に見えて無いか?」
当然の意見である。
「じゃ、どうすんだよ」
皆で悩みだす。
「お前ら、もっと考えろよ。翼に付ければ良いに決まってんだろ」
得意顔でそう言う奴がいる。
「で?その荷重に耐えられるんだろうな?」
「あ、いや、それは・・・・・・」
言ってみただけだったらしい。
あそこにここにと議論になり、プロペラ同調装置が必要だなという結論になった。
「兄貴、相互反射忘れて無い?」
得意げに飛行機の武装の話をしたら、マーヤからジト目でそんな事を言われてしまった。
相互反射。波長の違う魔力によって爆裂結晶が反応して爆発してしまうアレだ。知らない訳が無いだろう。
「で、この乗り物、魔導機を使うし魔力結晶を積むんだよね?」
当然の事を言ってくる。そんなのは当然だ。内燃機関が無いのだから他に手段はない。
「魔導機を頭に付けて、魔力結晶がその後ろや乗り手の足元。どこに爆裂結晶を積む気だって?」
・・・・・・
「そんなところに積めるわけないでしょうが!!」
そうだった。
前装式を採用してコンパクト化したうえで魔導機と弾丸を出来るだけ離して装着している結晶銃。
その弾薬をどこに積むかとなれば、確実に銃の上か下に弾倉を設けることになる。
そこにあるのは、直前に大出力魔導機。下を向けば魔力結晶。
当然なお話だが、魔力結晶は爆裂結晶との波長の調整など出来ていない。まさか、すべてを爆裂結晶と同じ波長で人工的に作るなど考えたくもない話だ。
「で?どこに積むの?」
・・・・・・
牽引式でこのまま進めてしまうと無理が出てくる。翼に積めるほど軽くも無ければ、小さくも無い。命中精度を考えても今は胴体一択・・・・・・
「機体から作り直しだ!」
グループ全員にそう檄を飛ばして結晶銃の搭載を前提にした機体の開発に入った。
胴体に銃を積む以上、推進式以外にあり得ない。古くはライトフライヤーに始まるプロペラが機体の後ろに付いたアレだ。
そうすることで機体前方に武装区画を設け、動力やエネルギー区画を機体後部に持ってくることで影響を受けない構造に出来る。
だが、その製作は困難を極めることになる。
推進式となると日本海軍の閃電のような機体にしないといけない。いっそ震電が良いだろうか?
そんな各種試作機が出来上がって行くが、プロペラ後流と尾翼の問題や単純にプロペラが地面を叩かない様な長い脚にすることで姿勢が不安定になる等の問題がどれにも発生してしまう。
思ったほど簡単ではなかった。
「埒が明かねぇ!」
プロペラが地面を叩いたりしない構造でプロペラ後流も制御可能で脚の強度が容易に保てる構造。アスファルトやコンクリ舗装ではない不整地で運用することが前提なので、脚が長いのは基本的にNGなのだ。なので、強靭な脚構造か短い脚で問題の無い機体構造が求められる。
そんな要求を実現するならジェット機が最も適している。プロペラが必要ないのだから。
そこで前世の記憶を探ると、ラジコン飛行機においては高価なエンジン機ではなく、比較的安価な電動機で多く販売されたとあある仕組みが存在している事に辿りついた。
ラジコン飛行機と言えばプロペラ機が多いが、やはり、ジェット戦闘機を飛ばしたいと誰もが思うだろう。そこで、扱いも難しく超高額な小型ジェットエンジンを使用しなくても飛ばせるという事で、ダクテッドファンがかなり利用されていたのだ。
そう、それを利用したアニメに出てくる変形ロボの飛行形態なんかを製作するプロジェクトにも参加したっけ。
初心者向けとして売られていた僅か2、3万円の海外製ダクテッドファン式ラジコンに驚いたっけ。
そして、俺はダクテッドファンを採用する事にした。
作るのはたグローバルホークを有人化したような機体だ。史実の戦闘機で言えばHe162ザラマンダ―が背負い式エンジンだっただろうか。
翼に主脚を格納するのに強度や構造上の不安があったのでザラマンダ―のような高翼形式で製作している。
ダクテッドファンの駆動にはロウカの毛をふんだんに使った小径魔導機を利用する。
機体はザラマンダ―と違って無理に木材に頼らず、チュークの骨を中心にした骨組みで外販も魔物の革でしっかり機体強度を確保してやる。
2丁も結晶銃を搭載する余力はないので、デンと機首中心線上に1丁積む。
「何だ?その魔導機背負った変な奴」
必死こいて推進式機を試作していた面々から「また何やりだしてんだ?コイツ」といった視線を受ける。
推進式の欠点である長く華奢な脚問題を解決する策はコレが良いというのが俺の結論だが、ダクテッドファンという見た事が無い構造に興味と呆れが入り混じった顔をしている様だ。
「筒の中にプロペラと魔導機を押し込んでみた。コレで風の通り道を規制してやれば脚の作りに苦労もしないし、プロペラが地面を叩く心配もない」
着陸時に脚が折れてひっくり返った機体があったのだから彼らとしてもその優位性はすぐに理解した事だろう。そんな事故でも死なない丈夫さもドワーフだがな。
しかし、V字尾翼は一般的に運動性が必要な戦闘機や曲技飛行機には向いていないとされる。背負い式エンジンとして運動性を確保するならH翼とするのが自然な事なのだが、空気抵抗が少なく部材を減らせる利点を優先して採用した。
V字尾翼の機体として有名なのは、フーガ・マジステールだろうか、YF23の方が有名だな。
当然、YF23のラジコンも作った事はあるが、背負い式としたのは見た目の趣味などではなく、経験からだ。
ダクテッドファンのラジコンを飛ばす際、地上滑走で小石を吸い込んでファンを砕かれた経験から、背負い式を選択した。