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3・町に着いたが村へ出戻ることにした

 この町、シツィナに居たドワーフはレンジェレフ出身の者たちだそうで、スカルド出身の師匠を畏敬の念で接してきた。

 数は少ないドワーフたちだが、町の鉄製品の生産や修理を受け持つ彼らの仕事は多い。


 そこに現れた我々が何をするか。という事にも問題はある。


 さて、鍛冶師と言ってまず思い浮かぶのは剣や槍、鎧を作る事だろう。しかし、そうした兵士や騎士といった領主お抱えの者たちの物品はその辺りの鍛冶師が作っている訳ではなく、当然ながらお抱え鍛冶師の仕事になる。


 と言ってもここは魔物の居る世界な訳で、ファンタジーで言う冒険者。魔物を狩る者たちが存在するのも確かな訳で、そうした者たちへの武器や防具の需要というモノが当然ながら存在する。


 領主お抱えでもおかしくないほどのウデを持つ師匠だが、媚びることが嫌いで狩人向けの品を手掛けることが多かった。


 なにせ、べルーシでは大森林沿いの街に居たんだ。主な商売先はそうなるのは当然だろう。


「あの有名なブリ―ストの狩人たちを相手にしてたんですか。しかし、この辺りでは大森林へ分け入ろうなんて奴は少ないですよ。まだここ10年そこらで拓けた村しかないですからね」


 昨日立ち寄った村はコウチンというそうだが、10年ほど前に開拓されたばかりで、それ以前はこの町がいわば国境みたいなものだったそうだ。


 なるほど、街道も整備されてない訳だ。年に数度、コウチンから年貢や販売目的で荷車が通る程度じゃあ仕方が無いだろう。


 挙句、草原が広がるばかりで魔物も兵士が追い立てる程度の事しかしていなかったらしい。そんなところに一獲千金を求める狩人が来るはずもなく、この町には革や牙を用いる技術を持った鍛冶師は居ないと来ている。


「習うだけ習ったがそれっきりだな」


 そんな状態なんだという。


 師匠とどうするかと話したが、それなら俺たちで立ち上げるのもありだろうという話になった。


「なら、昨日の村へ俺が行きますよ。あぶれた若いのを数人捕まえて俄かの狩人に育てたら村の稼ぎくらいは出せるし、そうしたうわさが広まれば狩人も来るでしょ」


 まあ、実はそんな安易なモノではあった。


「お前が言うならそうするか。一通りは教えたしお前は筋が良い。後は実践あるのみだしな」

 

 そう言って師匠も送り出してくれるという。師匠はここで鍛冶師たちの再教育と俺が獲る魔物素材の買い取り、加工をやるようだ。

 なにせ、ドワーフというのは一つの事を掘り下げる癖があるくせに、一つの事に執着するのではなく色々な事に手を出したがる。そう、万能技能者だから。

 

 なので、俺は鍛冶や魔物素材の加工だけでなく、狩人としての知識も経験もある。


 そして翌日、俺は村へと戻ることになった。


 村ではたいそう驚かれた。


「どうしたんだね?襲われたか?」


 まあ、そんな風に。なにせ彼らにとっては数日がけの道のりだが、俺にとっては無理すれば日帰りが可能な距離でしかなかったのだから、そのギャップは何とも。


「いや、シツィナへ行ってきたんだが、この辺りには狩人が居ないそうじゃないか。誰かやりたい奴は居ないか?」


 集まった村人たちにそう聞いてみたが、誰もやろうと手をあげる者は居なかった。


「そもそも、それどころじゃねぇしな」


 そんな声も聞こえた。


 前世農家だった記憶を手繰ればその理由は見えて来る。


 日本というのは随分恵まれた国で、そこそこ温暖で稲作が可能なもんだから飢饉ウンヌン言いながらも麦だけで生活しているところよりは豊かなもんだ。

 こんな辺境集落だと開墾も充分に進んでいない上に年貢を納めたら生活もひっ迫するのは当然。


 まずやるべきことはこの生活環境の改善からだという訳だ。


「その様だな。まずは先立つものが必要か」


 そう言ってまずは俺一人で森へと入り牙兎や角猪を幾らか狩って元手を作る。


 兎の牙や猪の角は武器の材料としては一般的だ。魔力を通せば鉄の剣や槍より有効だし、相手が魔物であればなおさらだ。

 猪の皮も適切になめせば皮鎧の材料として使える。魔力を持った魔物には魔力結晶が出来るのだが、それも値打ちがある。

 師匠との話に合った通り、まずは狩りによって魔物素材を集める。そして、それを使った武器、防具を作る。


 半月ほどそうやって魔物狩りを行いながら、村にもいくつか牙や角製の武器を渡した。革の防具は時間がかかるからまだないが。


 そうして荷物持ちをやると名乗り出る者が出、その若者に解体方法や価値のある部位を教える。


 そうした荷物持ちや解体要員が居るのといないのでは大違いだし、彼らにも農作業以外の収入が出来る訳だ。


 村を訪れて一月過ぎた頃には荷物持ちが狩りの補助をする様にもなった。村には解体を専門にする女性集団も現れてくれた。


 狩りによって少ないながらも素材が供給されると町から狩人希望者もやってきた。


 と言っても、今の村では多くを受け入れる余裕はない。元兵士だという二人以外は返すしかなかったが、その二人に魔物製武器と皮鎧を与えて狩りに帯同する事二カ月。兎や猪を狩るのに問題が無くなったのを見計らって彼らに狩りを任せることにした。

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