27・とうとう連中がやってきやがった
「いや、普通の強化は素材自体の強度で出すもんじゃない?」
義妹らしいマーヤがそう言う。
「そうなのか?俺は師匠から『誰しも魔力があるから強化は扱う人間が行うもんだ』って教えられたぞ」
それを聞いたマーヤとヴィゴが驚いている。
「いやいや、それ特殊だぞ、マッツ」
そうなの?いや、確かにコウチン村でそれを実践してたのはあのヤンという新人だけだった気がしないでもないが・・・・・・
俺の今までの感覚だと、弓というのは魔力調整でその時の目標に合った張力を魔力で調整するもんだから、基本的に弓は弱めに作って魔力の通りを良くするのが玄人・・・・・、あれ?
「兄貴、狩人相手に鉄製品を主流に作っててよかったね。そんな弓扱える狩人って本当に一握りだから」
そう言われたが、俺はコウチン村で牙兎や角猪で槍を作ってそう教えていたんだが。
「まあ、牙や角は元の素材が良いから魔力強化ってほとんど必要ないからね。出来れば神銀に迫る切れ味出せるそうだけど?」
呆れ半分でマーヤがそう言う。ヴィゴは半笑いで遠くを見ている。
「・・・・・・そりゃ、魔導機を荷車に乗せられる訳だ」
などと呟いている。いや、駄々洩れだが。
「え?あれ実現したの兄貴なの!?」
マーヤも驚きらしい。
説明してやるとさらに興味が湧いて来たらしい。
「まあ、分かるが先に銃弾の仕込みやってしまおうぜ」
まずそれが先だ。まさか、こんな所で近接信管モドキに出会うなどとは思わなかったよ。
そして、三人で出来るだけの銃弾を相互反射弾へと改造していく。
まさか、バリスタの運用がこういうモノだとは思わなかった。そして、偵察だから時限爆発するだけで飛竜に被害が無かったのだと改めて納得した。
それならば理由が分かる。下手にこの街を攻撃しようとすれば被害に遭うのは間違いなく、だから警戒してるわけだ。
だが、それはいわゆる楽観論でしかなかったらしい。
せっせと相互反射弾を量産していると飛竜の来襲を告げる声が街を駆け抜けた。
「飛竜の群が来るぞ!」
用意できた相互反射弾と普通の銃弾を結晶銃の操作員に配り俺たちは避難した。
まだ距離はあるという段階から威嚇の為だろう、バリスタから矢が放たれ、空に花が咲く。
緩慢な花火が時折花開く中を飛竜が悠々と飛んできた。
突如、飛竜が大爆発を起こす。相互反射が起きたのだろう。
銃も撃ち出した様で発砲音も響きだし、飛竜が何頭も爆発四散する。
「お、やるじゃねえか」
俺は暢気にそんな事を言ってその光景に満足していたが、飛竜が高度を取って爆裂結晶であろう物体を投下し始めた。
その威力はとんでもなかった。命中した建物は吹き飛び周りにまでその被害を広げていく。結晶の爆風や衝撃波に加えて吹き飛んだ石や木も散弾となって周辺に被害を与えるんだ。堪ったもんじゃない。
急いで高度を取ったためか狙いは甘く、大半は町周辺の畑にクレーターを作っただけであったが、片手ほどの命中で街はめちゃくちゃである。
「こんなのマトモに喰らったらぺスタでさえ危ないぞ」
俺はべルーシでの事もあるのでその光景を見て戦慄した。
「でも、バリスタ以上に効果的な妨害が出来てたじゃないか、兄貴のオモチャ。なんていう名前だい?」
マーヤがそう聞いて来た。何のひねりも無く結晶銃と伝えると、なんだか不服らしかった。
「僕は協力してないんだけどな」
そう言う割には嫌でもなさそうだが。
町の三割がたは瓦礫となってしまった。銃座もひとつ被害を受けて兵士たちにも被害が出ている。
そして、ある種当然の意見が出て来た。
「バリスタより速射が利くのは良いんだが、いかんせん、台座の動きに合わせて弾込めするのは演練通りにはいかん」
まあ、そうだろうな。台座は装填手とは別の兵が動かしてるから装填しようにも動き回る銃に振り回されてすぐに装填できるわけではない。
演練で2秒で装填できていたものが先ほどの実戦では5秒でも難しかった場合が多かったらしい。それでもバリスタよりは速いが、飛竜の動きに追随出来ないので効果的な弾幕が張れたわけではない。
そうなると連射式。機関銃やガトリング砲にしなきゃならんのだろうが、それは非常に難しくないだろうか?
なにせ、デカくて分厚い薬室が必要になるんだ。その装填方法は尾栓を開けて装填するしかない。ボルトアクションや自動銃の様な簡単にボルトをガスや反動で遊動させてバネの力で装填とかいう構造には出来ない。
ガトリングでもそうだ。薬室を多く設けたらそれだけ大きくなるし、装填自体は難しいんだ。
どちらかというと砲の装填方式。アームやラマーで装填する。この際鎖栓式で少々のガス漏れに目をつむって機械アームで装填というのもありかもしれんが、やたら機構が複雑になるのは否めないよな。
一番簡単なのは、穴に銃弾を放り込むだけで勝手に閉鎖されて発射できるような構造。ケースレスライフルの可動式薬室とか、リボルバーみたいな。
などと考えながら俺がうなる横でマーヤが銃を弄って構造を確かめていた。