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25・そりゃあ、こういう知識こそチートだもの

 守備隊は飛竜を追い払えた事に歓声を上げている。


 だが、俺からすればとんでもなく危なく見えるのは気のせいだろうか?


 全く当たらなかったじゃないか。狙って飛ばしたであろう槍も躱されているのを見た。本気で攻撃してきたらほとんど撃墜も出来ずにただやられるだけに思えてならないんだが。


 ふと思い立って爆裂結晶はあれが最小サイズなのか尋ねてみた。


「いや、弓用はまだ小さい。本当に矢じり程度の大きさだ。あれはバリスタ用に作られたサイズさ」


 そう得意げに返された。


 そして、弓矢用というのを見せてもらったが、確かに小さい。何も言われなければ宝石と間違えそうなほどだ。


「ちょっと思い付いたことがある」


 そう言ってヴィゴのもとを訪ねて炉を借りることにした。


「どうした?何やる気だ?」


 そう聞いて来たので爆裂結晶を見せて鉄砲を作ろうと思うと伝えた。


「止めとけ。誰もが一度は通る道だが、成功した奴は居やしねぇ」


 そう言って止められたが、ならばやってみたいと迫ると諦めたように使用させてもらえることになった。


 矢の場合は発射と共に導火線が作動して一定時間で起爆するようにセットされているそうだ。その代わり、輸送の際に爆発しないように処理がなされているという。


 爆発させるには魔力衝撃を与えればよいそうなので撃針があればよいのだろう。雷管であり装薬である爆裂結晶をドングリ型弾丸の尻にセットする。


 銃はもちろん元込め式。もちろん、いきなりボルトアクションみたいな複雑な機構は時間がかかるのでスナイドル銃の方式を採用して製作した。


「おい、マッツ。持って試すのはやめとけ。皆それで爆発して怪我してるんだ」


 ヴィゴがそう言うので台座に取り付けて離れたところから引き金を引いた。


 ドン!


 どうよ。見事な大腔発!いわゆる暴発だ。


「な。無理なのさ」


 ヴィゴがそう肩を叩く。


 何が原因かは明白だ。爆裂結晶の爆発力が高すぎて薬室がその圧力に耐えられずに破壊された。


 ならば薬室を分厚くすれば良いのだが、それをやると今度は装填機構が問題となる。分厚い尾栓を要求する上にそれをしっかり固定できなければ尾栓が吹き飛んでしまう事になる。


 そんなものを作ったとしても射程はコンパウンドボウと大きく違わないし、発射速度が明らかに劣る。挙句にクソ重い。

 どこに利点があると思う?


 どう考えても無いよな。


 だが、発射速度に関しては解決策がある。わざわざ尾栓ネジを切ってチマチマ閉めようとするから時間がかかるんだ。


 ネジでも完全に全周をねじ切るのではなく、円周の一部をカットした隔螺式(かくら)というモノがある。空いた穴が丁度、蝶のような形に見える。そこに蝶のシルエットにネジが切られた栓を嵌めて90度回せば締め付け完了。

 航空機やレーシングカーなど、整備を短時間でやる必要がある場合にも使用されるネジでもある。


 コイツを使えば分厚い栓であっても短時間で開閉可能だ。


 薬室を分厚く作って栓をこのネジで作る。


「おいおい、諦めてないのか。ネジにすれば時間がかかるから皆諦めたんだ」


 ヴィゴがそう言う横で実演してやる。


「それは早いな。それならもしかするかもしれん」


 そもそも、暴発が治らなければ意味が無い。


 離れて実射を行う。


 ドン!


 問題ない。銃は破裂せず。栓も吹き飛んではいない。


「どうだ?」


 俺がドヤ顔をするとヴィゴは肩を竦めた。


 

 銃といったが実はそこまで小さくはない。爆裂結晶の威力もさることながら、飛竜が飛ぶ上空まで届かせる必要があるからだ。

 その為、口径は20mmになっている。


 20mmなんてもう砲じゃあないかって?黒色火薬時代のライフルや火縄銃では普通にあった口径だ。


 まあ、コイツはライフリングありの元込め式で初速もかなりのものだがな。実射で1kmを平気で飛んでいたし着弾に2秒かかってないと思う。


 何度か試験したのち、耐久性はあると分かったので新たに何丁か製作してバリスタの代わりに台座に据え付けてもらう事になった。


「10日も何やってたんだね?」

 

 キョニュー氏がそう尋ねてきたが、モノを見て興味がわいたらしい。正式に試験して見ようという話になり、守備隊に取り扱いを教えることになった。



 だが、そもそも、10日も経っているのに飛竜が来ていない時点で考えるべきだったんだろう。


 一体、連中が何をやっているのかを。


 だが、そうは言っても仕方がない。


「ところで、この国が爆裂結晶で魔族認定受けたのって、コレがダータの使うシロモノだったからか?」


 ふいにそうキョニュー氏に聞いてみた。


「そうさ。元はダータの使っていたものだ。べルーシに居たなら分かっていると思うが、あの威力は凄い。が、所詮、ダータだ。飛竜で運ぶほどデカイのしか作れなかった」


 という。その威力に目を付けたパンノニアでは自力で爆裂結晶が作れないか研究し始めたそうだ。そして、とうとう昨年に完成したのが矢じり代わりになるあの小さな結晶だったという。


「小さくするのには苦労したが、大きくするのは苦労も無かった」


 そう、バリスタ用の場合は大型化しただけなので問題なかったそうだ。


 この爆裂結晶が出来た事で峡谷を進撃してくるダータの騎馬軍団を粉砕して戦線を押し戻すことに成功しているのだという。


「だが、我々が爆裂結晶を作った事だけを見て、戦線を押し戻したことなど評価しない聖教会は魔族認定などと愚かな事をやったんだ」


 確かに愚かだと思うよ。例の金貨問題も併せて考えると余計にだ。 

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