24・こういうのをスタンドプレーって言わないか?
ブスタに飛竜が現れたという事でぺスタ、と言っても王宮や軍関係の事だが。は大騒ぎとなった。
造兵廠でも慌ただしさが出ている。
「それで、ブスタはどうなったんだ?俺の居たべルーシの街は飛竜にやられて瓦礫になったぞ」
飛竜の話をしていた連中に聞いてみた。
「いや、爆裂結晶は落とさなかったそうだ。ただ上空を飛んで帰って行ったらしい」
それはよか・・くねぇよ。それは偵察じゃないか。
「下見だろ。次は大軍で破壊しに来るんじゃないのか?」
とにかく何も分からなかった。
その日のうちにキョニュー氏が魔導車部門に現れて使える魔導車を出してバリスタをブスタへ運ぶと言い出した。
確かにそれは良い宣伝になるだろう。馬の居ない車がバリスタ載せて進むんだ。軍のお偉方への良い宣伝になる。
「乗ったぁ!」
親父が叫ぶ。そりゃあそうか。魔導車作りの指導的立場にあるもんな。
キョニュー氏もそれを見て頷いた。
「おい!マッツ。動く魔導車すべて出すぞ!」
そう言う訳で俺たち家族も試作車を運転してブスタへ向かう事になる。
そりゃあそうだろう。馬車の御者に今から魔導車運転しろといって出来る訳が無い。まだ部隊配備前で運転を習いに来ていた僅かな教習生と製造に関わる俺たちドワーフしか運転できないんだ。
事が決まれば行動は早かった。
バリスタを準備している軍の施設へと魔導車を乗り付けてキョニュー氏自ら有無を言わさず輸送を引き受けると啖呵を切った。
造兵廠のドワーフ総出でバリスタの分解と積載を行い、軍が何かを言い出す前に荷作りを終えてしまった。
出発しようかという頃になって、本来輸送を行うはずだった荷馬車隊がやって来て事態を呑み込めないでいる。
「これ、独断専行って言うんじゃないのか?」
俺がボソッと言った呟きを傍らのキョニュー氏が聞いていたらいい。
「成功させてしまえばどうということは無い」
いや、色々問題大有りだと思うぞ?
唖然とする荷馬車隊をそのままに俺たち魔導車のコンボイが施設を出発してブスタへ進路をとった。
「魔欠に注意しろよ。ブスタまでは計算上、積み込んだ魔結晶で持つはずだが、足りない場合は最後尾からくる魔結晶運搬車を頼れ!」
何というか、行き当たりばったりで行進を始めた俺たち。
だが、馬なら途中で休ませるなり替えの馬を用意しておくなりしなければならない速度で休みなく突っ走る。
そりゃあ、21世紀地球のトラックでならば2時間そこらの距離かもしれないが、この世界のこの時代にそんな短時間でぺスタからブスタへ向かう事の出来る道も無ければ、運搬手段も無い。そんな遠距離を休みなくその日のうちにバリスタを運び込むこと自体が前代未聞の快挙な訳だ。と言っても、教習生にはつらい仕事になるだろう。
本当に休みなく走らせ続けて、夜にはブスタへと到着した。
「どうだ!この魔導車の耐久性!」
あんたが誇る事じゃないぞ?親父。俺と母親が考えた機構なんだ。
そんな事を想いながら、あまりに早い到着に驚くブスタの守備兵たちをしり目にバリスタが運び込まれ、組み立てられていく。
この時点で教習生たちは力尽きているが、ドワーフたちにはまだ元気が有り余っている。解体時同様、組み立てもあっという間に進むが、ブスタの守備本部が正気を取り戻さなければ配置場所が分からないことだけが難点だった。
結局、ブスタ守備隊が事情を理解してバリスタの配置が完了した頃には朝日が昇りだしていた。
「一夜にしてブスタに対飛竜陣地を構築する。パンノニアでも私にしか思いつかなかった事だよ」
キョニュー氏が薄気味悪い笑顔でそんなことを口走っていたが、見ないふりをして魔導車の点検を行う事にした。
魔導車にはこれと言って不具合は見られなかった。ぺスタからブスタへは主要な街道があるので道路整備も十分で魔導車への負担も大きくはない。これなら耐久試験時の長距離走行の方が負担が大きいくらいだろう。
守備隊が朝食を終える頃には魔導車の点検も終わる。
「そういえば、バリスタって誰が扱うんだ?」
全く人を連れて来なかったので今更疑問に思った。
「それはは心配ない。ブスタの兵はバリスタを扱う訓練を受けている。守備隊にも訓練を兼ねたバリスタの配備はあるからな」
そう言って指さされた方角には確かに昨日運び込んでいない場所にバリスタが設置されている。
そして、ここで初めて爆裂結晶というモノにお目に掛かった。
もっと大きいのかと思ったが牙兎の魔結晶程度の大きさしかない。そんな普通の弓用の矢じりに使えそうな大きさで意味あるのかと疑問に思わなくはないが、それで十分だと言われて特にいうべき言葉を無くした。
「飛竜が来たぞ!」
そんな声がどこからともなく聞こえて空を見上げた。
バリスタが配備されたから安全だと思っているのであろう街の人たちも慌てることなく避難している。
そうする間にも飛竜は近付いて来る。
とうとうバリスタが発射された。
まだ命中しないだろうと見上げていると、見当はずれの所へ飛んだ投擲槍が突如爆発した。
「あんな小さな結晶なのにスゲェな」
俺は暢気にそれを見上げて次々発射されるバリスタによる花火を眺める。
どうやら上空に現れた飛竜は2頭だったらしく、被害らしい被害も無く飛び去っていった。