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22・本物のチートってのはこういう人を言うんだろうな

 親父が指摘したように変速機を組み込んだ荷車はその車体の自重が増えてしまったので更に積載量が減少した。


 いくらでも積めばよいじゃないかって?


 車体を支えるのは車輪と車軸というごく限られた部品によってだ。


 車重が増えるという事はその負荷がすべて車軸と車輪にのしかかってくるので、車軸の強化だったり、車輪の強化が必要になるが、それはそれで悪手だ。


 なにせ、そもそも重量を地面に伝えるのは車輪であり、その圧力が増せばどうなるか?


 パンノニアでは主要街道の幹線部分は石畳舗装がされているので車軸や車輪の強化である程度ゴマカシも利くだろう。しかし、主要都市間を結ぶ幹線を外れるとただ土を踏み固めただけの道となる。いくらここが平原で傾斜が少なく道幅があるなどと言って見ても、土に車輪が埋まっては動けなくなる。重量車が沢山通れば轍が出来て道も荒れる。


 それを抑えるには、重量に適した幅を持った車輪を製作して取り付ける事だが。それより簡単なのは決められた総重量に抑えてしまえば良いという話に帰結する。


 車両総重量が決まっていれば、自重が増えればその分積載する荷物を減らすことになる。そう、強化すればするほど積載量が減るという大矛盾。


「現行の荷車は積載量から言って、変速機無しが順当だろう。魔導機を載せた時点でそもそも積み荷を減らしてるんだ、これ以上減らす訳にはいかない」


 親父がそう言う。キョニュー氏への相談でも結局その様な結論へと至る事になった。


 ならば、六輪車を作って総重量自体を増やせば積載量も確保できるではないかとそう言ってみたが、結局のところ、今ある荷馬車に代わる、より速く輸送できる手段の確立という点から言って、六輪車というのは取り回しが変わって交差点や停留所の改修を要するだろうという。そりゃあ確かに全長が長くなるから小回りは利かなくなる罠。


 そんな事から魔物糸の巻き方を改善して多少効率とトルクを上げた魔導機と減速比を弄って登坂力と巡航速度をバランスさせた減速機を組み込んだ魔導車を軍へと正式にお披露目することになった。


 その仕事はキョニュー氏の役目なので俺は量産を前提にした新しい試作車の開発へと打ち込んでいる。


 現在の試作車はロッド接続式の後輪ブレーキに腕力によるハイパワーステアリングだ。

 なので、扱うのが非常に難しい。


 なにせ、思ったように止まれない。そもそも曲がろうとすれば全身を使ってハンドルを切らなければならないというのが普人族基準での評価だ。


 それでは量産化して馬車に代わって輸送の中核を担うなんて全く無理になる。


 なぜブレーキがそこまで効かないのかって?


 運転席は前輪より前、馬車の御者台の部分にあり、前輪の車軸の少し後ろに魔導機が据えられ、そこからシャフトで後輪車軸にある減速機へと繋がっている。


 その御者台にあるブレーキペダルを踏んで、駆動している後輪のブレーキを作動させるのが今のブレーキシステムなんだが、なにせロッドで繋いだだけだから遠い。しかも、減速機脇に一つだけ。


 これでは後輪がロックしても前輪が回っているので結構進んでしまう訳だ。そもそものロッドやレバーの接続部に関する伝達損失も考えるとなおさらだな。


 そんなの前輪にブレーキつければ済むだろうって?


 自転車じゃないんだ。可動式転輪の車軸にブレーキドラムを装着してそれをどうやって動かすんだい?ワイヤー?

 そうだな、それなら可能かもしれん。が、それなりにてこの原理を用いているのでレバー長が長い。可動部にそんなものを挿し込んで絡まったらどうすんだ?メンテナンス性も悪くなるだろう。


 ステアリングに至っては全くのお手上げだった。こういう時は魔術が使えるのが一番だよなと思ってしまう。


「何やってんだい。そんなの銀糸でつないで魔力で動かしゃ良いんだよ。頭が固いねぇ」


 母親がそんな事を言いだす。もしかしてバイワイヤーブレーキですかい?パワステも魔導機を用いた魔導パワステで良いだろうという。


 いや、俺にはよく分からん世界ですわ。


 母親が手本を見せると言って銀糸をブレーキに繋ぎ、ペダル部分とドラムにあるレバー部に同じように作用する魔導機を取り付けた。魔導機って、只回るだけじゃなく、細工の仕方によってはこんな使い方も出来るんだって初めて知ったよ。この世界にゃスティッピングモーターがすでにあるよ!


 パワステはもっと簡単。ステア軸に魔導機つけて魔力を流してハンドル切るとその動きに合わせて動くという仕組みだった。詳細は家族の秘密なので他で分解されても模倣は難しいと自信を見せていた。

 たしかに、作り方を見たから出来るが、順序を間違うと動きが変わるじゃないか。どんな回路だよコレ。


 たしかに、母親は魔道具作りじゃ右に出る者は居ないって人物だからな。そりゃあそうなるか。


 こうしてチート過ぎる母親によって問題は問題で無くなった。どうして先に教えてくれなかったんだと聞いてみたが、そもそも、問題という認識が無かったらしい。


 確かに親父は普通に運転していたから問題点は見えなかっただろうさ。しかも、馬車程度の速度なら車輪を止める摩擦棒でも良かったんだ。それが倍近い速さになって止まれないのは当然と言えば当然で、それを問題としていた俺がオカシイと。


 そりゃあそうかも知れんが・・・・・・ 

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