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21・そうか、発想の転換って必要だな

 ブレーキを取り付ける事にするが、一つ大きな問題がある。


 未だ馬車にはバネが付いていない。直付けな訳だ。これではちょっとしたことで簡単にロックしてしまうこと請け合いじゃないか。

 バネが無いという事はちょっとした段差や窪みがあるだけで車輪が浮いたり跳ねたりする。そうなるとブレーキをかけてもただロックするだけで制動距離がのびてしまうので、地面への追随性を上げてやる必要がある。


 車のバネというとコイルスプリングが思いつくだろうが、荷車にそれは不向きだ。トラックはそのほとんどが板バネとなっているように、コイルスプリングだと沈み込み量が大きくなりすぎて揺れまで大きくなってしまうので採用できない。揺れを抑えるにはショックアブソーバーを装備しないといけなくなる。

 乗用車でコイルスプリングが採用されるのはその伸縮性から乗り心地が良くなるからだが、荷馬車に求められるのは乗り心地ではないから板バネで良い。


 それだけが理由ではなく。装着するにあたってもコイルスプリングがそれを装着するための台座を用意しないといけないが、板バネならばその必要もない。フレームの下に湾曲した板バネを噛ませ、車軸を取り付ければよい。何なら板バネ自体をフレームの一部の如くデザインするのもありだろう。


 といっても弓じゃないんだ。まさか牙兎の耳の骨なんかが使えるはずもなく、鉄の板バネを作るのが無難だろう。枚数を増やすだけで簡単に積載も増やせるしな。


 親父がさらに荷車を弄って行こうとしている事を不審な目で見て来るが、揺れが改善されてブレーキの効きも良くなるだろうことを説明すると納得したらしい。弓があるかからバネを説明するのは容易いしな。


 そして親父と板バネづくりをやって、母親が魔物の革でブレーキを作っていく。


 2日かけて出来上がったそれらを荷車に装着して予備試作車の完成だ。実のところ変速機は完成していない。自動車用の複雑な変速機は作るのが難しい。かと言ってギアのかみ合わせを変えるだけの構造にすると車両を停止しないと変速できないので、それは自動車であるべき魔導車には向かない構造になってしまう。

 まあ、解決策の一つにより高速な魔導機を作って減速比を変えてやれば登坂力も上がるというのもあるんだが、高速のモーターやトルクのあるモーターを作るにはもう少しコア数や巻き数を増やす必要があるが、今の外寸の魔導機ではこれが限界なんだ。これ以上大きくなるとより大型の荷車を作る必要があって、それは当然積載量も増えることになるので全く問題の解決にはならない。


「なんで車を止めないとギアの噛み合いを変えられないんだ?魔導機止めりゃいいだろ。車軸を動かしたけりゃあ、車軸側に駆動の入り切りできる機構を組み込めば良いじゃないか」


 俺が悩んでいると母親がそんな事を言いだした。


 いや、走行中に一々エンジン切って変速とかあり得んでしょ?そうしないためにクラッチというのがあって、その上で車軸が回っているのに変速を可能にするのが常時噛み合い式変速機という奴でね?


「お前は何を言ってるんだい?魔導機は魔力供給を止めれば止まるし、供給すれば動くじゃないか。車軸を止められないなら、車軸側への伝達を切れば良いんだ」


 呆れた顔で母親がさらにそう言う。


 いや、だから・・・・・・、そうだよな!クラッチを車軸側に設けたら問題ないよな!


 という事で変速機の開発も再開した。クラッチが変速機の出力側に付く俺の常識にはない構造として設計することになった。


 ドワーフというのはこの辺り万能だ。前世の記憶からすればどこの天才だよと思うほどに楽々と計算が出来てしまう。

 そう言えば人間の脳ってあんまり使われてないとか聞いたことあったが、ドワーフって人間の何倍も脳の領域を効率的に使えるんじゃないだろうか。

 いや、考え方によっちゃあ魔術って奴を扱える時点で地球人とは構造がまるで違うのかもしれないな。


 そんな事を考えながら変速機を設計し、歯車の製作を行う。


 その間、親父は試作車で走り回って問題点の洗い出しと改良をやっていた。


 一月ほど変速機開発に明け暮れることになったが、魔物素材というのは何でも応用が利くな。便利すぎて驚きを隠せない。

 クラッチの摩擦材をどうしようかと考えていたら、熊の革を母親が持ってきた。摩擦に強いらしい。圧着するダイヤフラムのバネをどうするかと考えていたら、話しを聞きつけた親父が山猫のろっ骨を持ってきた。かなりの柔軟性復元性があってバネに適してるらしい。


 なあ、板バネ作る必要あったのか?


 親父は下手な口笛を吹いて言い訳をする。


「板バネに比べて長さが限られるだろ、その伝達版のバネには向くが、荷車用や弓には使えないんだ。精々クロスボウまでだからな」


 クロスボウに使えるなら俺の考えた三角ボウや師匠のコンパウンドボウを発展させれば使えると教えちゃった。

 本当に使えない親父だ。


 そんなこんなでクラッチも完成して変速機は完成を見たのだが、


「それ、中身鉄の歯車なんだろう?また積み荷が減るよな?」


 そうだな。荷車の総重量から考えればこうやって装備品を増やせば増やすだけ積載量は減るもんな。まるで、排ガス浄化や安全装置やと装備品が増えて積載量がガクンと落ちた平成末期のトラックみたいだな。 

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