18・そこまで話し込んだつもりはなかったんだがな?
後の話の都合からシビンという街をデターに変更しました。
尿瓶とか出たーとか何言ってんだ?とお思いでしょう。
でもな、ほぼそう言う名前があるんだ、外国には。
ツボにはまった兵士を置いて、俺は魔導機を観察してみた。
やはりデッカイ骨を軸として用いているのが分かる。動力は魔結晶や魔石をエネルギー源とするのだろう銀線が軸から棚へと設置されている。
「ん?この魔導を作ったのはヤン・イーダ?」
そこにはそんな刻印がされていた。
「ああ、それな。ヤンとイーダという夫婦のドワーフだ。コレが作れたから同じ原理で荷車も動かせるんじゃないかと王軍のキョニューというお偉いさんがぺスタに呼んだんだ」
ヤンとイーダという夫婦だぁ?刻印も名前も俺の親にそっくりだ。兵士にそのドワーフの容姿を聞いてみたが間違いないだろう。
「なるほど。それなら俺の話が通じそうだ。ぺスタってのはどっちだ?そうだ、そのキョニューとかいうのにも会ってみたい。俺はレンジェレフで魔導で動く車を作ったからな」
師匠は国や領主のお抱えを嫌っていたが、俺としてはそんな感覚はない。自動車の開発をするならより安定した資金が得られる国や領主からせびるのが一番効率的だと思うからだ。しかも戦争中だろう?なおさら湯水のごとく金を突っ込んで貰えそうだ。
兵士は一瞬きょとんとしたが、俺の話を信じたのだろう。俺を連れて町へと走りだす。おい、小屋の戸締りどうすんだ?
止まろうと思えば簡単に止まれたのだが、なにかそのキョニューに会える伝手でも紹介してくれるならめっけもんだという感情が優先したので小屋の事は脇へ置いて兵士に付いて行く。
門で順番待ちをする列を素通りして門でも兵士が魔導がどうのと詰め所へと飛び込んだかと思うとすぐに飛び出してきた。
「魔導機の分かるドワーフはすぐに家宰様に知らせる事になってるんだ。車が作れるというならすぐに会って貰った方が良い」
そう言って俺を引っ張って屋敷へと走る。
屋敷の門で押し問答があったが、どうやら内容を理解した屋敷の兵も家宰へと知らせに行ったらしい。ほどなくして屋敷内へ通された。
「魔導が分かるというのは其方かね?」
見るからに執事な男が俺の前に現れる。そして、そこにはドワーフも付いてきている。
「そうだ」
そう答えると魔導の原理を説明しろと言われたので俺がそうだろうと思った魔導の原理と改善点を話す。
初めは隣でムスッと俺を見ていたドワーフの目が話が進むごとに見開かれ、実際にモーターの小型化に成功した話をしたら顎が外れるんじゃないかと言うくらい大口を開けていた。
「で、どうなんだ?」
そのドワーフを見ながら言ってやる。
「どうもこうもあるか!魔導を騙るバカ野郎が来た事あるが、お前はトンだ大馬鹿だな。ヤンの親父よりぶっ飛んでやがる」
そう言ってニヤリと笑る。それを見た家宰が用は済んだとばかりにその場を去ろうとした。
「おい、待ってくれ。今言ったとおりだ。ヤン・イーダやキョニューとかいう奴に会わせてもらいたい」
そう言うと、家宰は立ち止まる。
「ヴィゴの言葉で分かっております。早速キョニュー造兵監宛の紹介状を用意しましょう」
ならそう言って行けば良いのに、どうしたんだ?
「おい、聞いてるか?それで、その歯車は何で作った?鉄か?それとも熊の骨か?」
このドワーフの食いつきが半端ない。どうにも止められない。家宰はこれを見越して逃げたのか。
そして、ヴィゴと骨ではなく最高度の伝達率を目指すなら銀糸だろうという話で盛り上がった。あっという間の話だと思って部屋を出ようとするとメイドに止められた。
「もう話は終った。紹介状なら明日にでも貰いに来るから今日は帰って飯が食いたい」
そう言うと、会見は一昨日の話で、話し込んでいるうちに2日過ぎていたという。声を掛けたが2人とも聞く耳を持たなかったので、飲み物や食べ物を側において待っていたのだそうだ。
いや、確かに気前よく摘まみと酒がある事には感心していたんだが、そんなに飲み食いしたような覚えはないぞ?
そして、他のメイドが家宰を呼びに行ったのだろう。しばらくすると家宰が現れた。
「お話は終ったようですね。こちらが紹介状になります」
それは用意周到に準備でもしておかない限りあり得ない内容の紹介状であり、しっかりインクも乾いていた。確かに小一時間話し込んだ程度で出来上がる代物ではない。メイドの話は嘘じゃなかったのだろう。
中身を確認したのち、家宰は封蝋なるものを施すからと少し待たされたが、蝋付けされた紹介状は程なく俺の許へとやってきた。
「お!良かった。あんたが偽物だったら俺まで罰を受けるところだったぜ。な?本物なんだろう?」
外ではあの兵士が待っていた。が、門番の兵士は入る時に見た奴と違った。いや、何よりこの兵士が2、3日着替えもしていないような薄汚れた姿に変化しているのを見ると、実際にソレだけの時間が経ったのだと再認識することになった。
「ぺスタは街道を西だな?」
兵士に聞くとそうだというので西へと街道をひた走る事にした。
どれだけ走ってもずっと草原が続いている。森らしきものが全く見えず。北を見た時に山が見える程度だ。なるほど、パンノニアは大平原だと言っていたのがよく分かる光景だ。