14・それはまた凄い話を聞きつけた
4頭曳きプラウのおかげか、それともディスクハローやスプリングハローのおかげか、昨年よりも速く畑の耕作が終了している。
種蒔きについてはケビが馬で曳く専用の播種機を考案した。動力源となる車輪、車輪のおかげで設置された大型の種籾タンク、そして、大型の鎮圧ローラー。
何のことは無い、前世でもあった播種機具を彼が考案したのだが、そもそも手押しを前提にしていた俺のそれとは違い、馬曳き前提の大型で一体型の機械なのでこれまでの様に途中で為も身を補給するという手間が必要なくなっている。
コウチンの畑がそれだけ広大な広さになったというのもあるだろう。手押し基準ではいろいろ間に合わなくなっていた。
今年の冬は宿も完成して本職の狩人も多く訪れている。冬は素材としてよりも食糧確保が目的の狩りが多くなる。なにせ傷みにくいんだ。夏より村まで持って帰れる量が多くなる。そして、村も人手があるので加工品が作りやすい。
そんなわけで麦播きが終わるころには女性陣が加工場で腸詰や燻製づくりに精を出している。ケビはそれら食品加工に使う機械にも精通している様で、腸詰の機械を作ったりしてさらに作業速度が上がっている状態だ。
その傍ら、俺は夏に周れなかった南部の村へと足を運ぶことにした。
そこはこれまでの平原か森という地形から山がちの地形へと変化しいた。出てくる魔物も兎や猪に加えて狼や熊の類も居るという。住むにはより厳しい環境となっているので村は柵で囲まれていた。
村は森や山から少し離れたところに点在して、村の柵の外に畑が広がるという典型的な辺境の姿が見て取れた。
ただ、悪い事ばかりではない。この周辺は狼や熊を狙う狩人の拠点として機能している村もあるので、農具よりも三角ボウやコンパウンドボウが喜ばれるという計算違いではあるが、俺のウデが活かせる環境があった。
「北から来たのか、話には聞いたが、滑車付きの弓とかいう面白いモンを作ったんだと?」
狩人が多い地域とあって当然、ドワーフも居る。この辺りでは武具や防具が主な商品という事で、ドワーフにもそちら方面の知識が高いものが何人も居た。
彼らにコンパウンドボウや三角ボウの作り方や構造を教え、この辺りで広めてもらうのもありだろう。
「何だこりゃ。これなら熊も簡単に倒せるぞ」
護身用も兼ねて持ち歩いている三角ボウを射てみせるとそう驚かれた。当然食いついてマジマジと観察している。
「牙兎にチュークか。なるほど、こういう取り合わせで作るってのはまた面白い」
見て触っただけで材質を見抜いてしまう。ドワーフとんでもないな。
実物が流れてきたらこの辺りでも普及するのは間違いなく、事前に訪れる事が出来たのは幸いだったかもしれん。
「作るのは構わないが・・・・・・」
そう、どうせ模造されるならば、まずは許可を出したという証明を渡しておく方が良いだろう。
「当然だな」
マッツ、そしてケネトの名前をしっかり刻印してもらう事にする。
大量生産できない代わりにこうして名を売ってもらう事で、俺や師匠にも仕事が来るようにしてもらう。いわばドワーフのルールとでも言おうか。
三角ボウの構造を教え、こちらで揃えられる材料で問題なく製作可能な事も確認した。
そしてさらに南下してレンジェレフ最南の町というヤスオにやってきた。村伝いにやって来たので遠くはないが、主要街道でシツィナからヤスオへ来るには随分西へ遠回りする必要があるそうだ。
山に近い街だけに狩人や魔物素材で活況を呈していた。ドワーフもそこそこ見かけるほどだ。
南部では山の魔物の影響であまり農業は盛んではないらしく、自給程度で後は魔物素材の販売益で食品を調達してきている様だ。
それならばコウチンや周辺の村の農業生産が上がるのはこちらにとって良いことかもしれないな。
「見ない顔だな。何処から来た」
一人のドワーフに声を掛けられた。シツィナ地方から来たことを伝えると感心していた。
「シツィナか。新しい弓を作った奴がいるそうじゃないか。それと並ぶ事と言えば、南のパンノニアで魔導を実現したって事か。なんでも魔物の骨と魔石で動く機械らしいぞ。まあ、動くってだけで眉唾モンらしいがな」
という聞き捨てならない話をするもんだから、詳しく聞いてみることにしたが、どうやら魔物の骨と魔石、ないしは魔結晶があれば動力を取り出せるという可能性があるらしい。ただ、水車並みの大きさがありながら出せる出力は普人の膂力にも劣るという。
今のところはそんな話がある程度の事らしく、噂を聞いて再現した者たちはことごとく失敗しているそうだ。
「何でも、魔石を水車の円周に設置して、軸に魔物の骨を配置して魔力を流すと骨が回りだすってんだが、誰も成功しちゃいない。熊の骨が自重で回っただけじゃないかって専らの話さ」
それが事実だとしたらモーターみたいなモノだろうか?磁気ではなく魔力で動くというのはある意味コロンブスの卵だが、それは帰って試してみる価値がありそうだな。