七話
僕は彼女の言葉を一期一句漏らさぬようにボロボロの手帳にペンを走らせる。
彼女の口から語られる悲劇までの行方。それは子供には耐えられるとは思えない生半可な出来事の連続だった。
「そうしてあなたは牧野家に復讐することを決めたのかい?」
「まだでふ。当時の私は警部さん達の死に牧野グループが関わっているとは思っていました。でも、警察は二人の死を事故扱いにして、半ば強制的に捜査を打ち切りにした。事件を明らかにしなければいけない警察も宛てにできないと私は結論づけた。だから、個人で捜査から始めました。そして、ある決定的な証拠を見つけたの」
すると、彼女は悪魔のような笑みを浮かべる。
「どう? 面白い話だと思います?」
僕は言葉を詰まらせる。
面白いとは一切感じなかった。ただただ、悲しさや苦しみといった負の感情が心に訴えかけてきて、息苦しい。
だが、怖い物見たさでその先も見たいと思う自分がいた。
「心配ないわよ。この国は忠臣蔵から見るに仇討や復讐は美談になるから。一定の評価は受けると思うの」
僕の取り繕った笑みを見た彼女は皮肉まみれの冗談を話して、和まそうとしてくる。
すると、部屋の隅に座っていた刑務官が立ち上がり、彼女の肩を叩く。彼女は少し不満そうな表情を浮かべながらも、すっと立ち上がる。
面会の時間は終わりのようだ。
「残念ですね。ここから面白くなると言うのに……」
彼女は溜息を吐く。
「取材を受けてくれてありがとうございます」
「いえ。また来てください。いつでも待っているので」
例え、父の夢を潰した張本人であっても、それが礼を欠くわけにはいかない。寧ろ、彼女は懺悔として、取材を受けてもらった。
僕は立ち上がり、頭を下げる。すると、彼女もしゃんとした姿勢でお手本のように礼をし、扉の奥に戻っていった。
しんと静まり返った面会室に一人残された僕。
意外にも寂しさを感じられなかった。