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愛憎  作者: 島下 遊姫
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二十話

 東京のとある大都会の道の端。私の目の前にそびえ立つ夏コンクリートのビル群。夜だと言うの街灯や店の看板、ビルから漏れる蛍光灯と、人々の喧騒はまるで昼と大差がない。

 ビル風の生温かい風が私を湿った肌を撫でる。

 夜だと言うのにジメジメとしたまとわりつくような暑さで気持ち悪く感じた。これが都会の暑さなのか。


「本当に……ジュリアを殺さないのか?」


 ふと、私の背後にいるリカルドに目をやる。

 黒いベンツの腰掛け、地面に置いたゴルフケースを肘当てにし、リカルドは私をじっと見つめている。

 ゴルフケースというが中に入っているのはゴルフクラブなんて娯楽道具ではない。

 狙撃銃という引き金を引くだけで命を奪える道具。

 今回は不本意ながら、狙撃銃を利用するつもりだ。あくまで狙撃銃自体を利用するだけで、銃弾は装填しない。


「えぇ。私はあなた達程の外道にはまだ落ちたくないから」


 そう答えるとリカルドは「そうか」と呟く。

 私は決めた。ジュリアは殺さないと。私は家族を殺した犯人と元凶でぁる譲二に復讐したいだけ。何の罪もないジュリアの旦那さんと子供の命を奪う意味も悲しませる必要は一切ない。

 代わりに死ぬことよりも苦しい生き地獄を味わわせようとは思っているけど果たして上手くいくかどうか。


「だからってあんなやり方なんて、上手くいくのか?」


「信用するだけよ」


「信用するか。普通の人間なら別の手を取るだろうが」


 ここに来るまでに色々と準備をしたけれど、どうしても人の感情が関わるところがあり、失敗という不安は取り除くことができない。

 後は運に身を任せるしかない。失敗すれば真っ先に牢屋行き。


「そろそろ時間だから、例の場所に……」


 スマートフォンに表示された時間を確認する。

 そろそろジュリアとの待ち合わせの時間になる。

 リカルドには所定の位置について、個別に動いてもらう必要がある。

 仇であり、弱みを握って利用している人間、それも武器を持っている人間を自由に身にするのはかなりのハイリスク。後ろから撃ち殺される可能性はある。

 身ぐるみを剥いでまでリカルドが持つ銃弾はできる限り私が没収したが、一発くらい、探しにくいところに隠し持っていてもおかしくない。

 しかし、ジュリアの復讐を遂げるにはこれを行う他ない。


「……なぁ、成功したら俺の命は助けてくれるんだろうな」


 一応、成功した際には見逃すと約束しているが、信用するわけがない。


「うん。そういう約束でしょ?」


「……わかったよ」


 すると、神妙な面持ちでリカルドはポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付け、口に加える。

 有害な物質が含まれた汚い煙を吐いてから、車に乗り、何処へと走り出す。


「……行くか」


 私は待ち合わせ場所に向かう。と言っても歩いてものの数分の場所。

 そして、今では珍しい機関車が置かれた広場に私は到着する。

 広場にはスーツを着たサラリーマンとOLばかり。これから仕事を鬱憤晴らすかのように馬鹿騒ぎする人や死にそうな顔で広場を歩く人等、様々な人が歩く中、一人だけ特別な空気を放つ女性がいた。

 スーツ姿でありながらまるで女帝のようなカリスマ性を醸し出し、モデル顔負けの非常に優れたルックスは男女関係なく周囲の人々の視線を奪う。

 そんな女性がふと私を見るや徐に近づいてくる。


「あなたが由紀子ちゃんね」


 彼女こそが三人目に仇、ジュリアだった。


「お待ちしていました」


「そう……ね」


 ジュリアさんの反応が鈍い。それもそのはず、彼女は既にリカルドから私の存在を聞かされている。

 家族を殺された遺族から会いたいと知らされて、何も思わないはずがない。


「取り敢えず、リカルドさんが私達の為にお店を予約してくれたので、そこでゆっくり話しましょう」


 そう言って、私はスマートフォンで地図アプリを立ち上げる。初めての土地だけど、予め、お店の場所は設定しているから、後は案内に従って向かうだけ。

 私が歩き出すとジュリアも後を付いてくる。

 目的地はここからそう遠くなく、僅か五分程度で到着した。その間、私とジュリアには一切の会話はなかった。

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