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愛憎  作者: 島下 遊姫
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十五話

 グラハムを殺害から早一週間。

 グラハムの遺体は裏山に埋めた。きっと今頃、微生物に分解され、白骨化しているでしょう。

 あれは運命だった。

 まさか、実態の一部も判明していなかった仇が目の前に現れるなんて。神様が私に復讐しろと言わんばかりの手土産。

 手土産を投げ捨てず、私は仇を手にかけ、ようやく牧野グループへの復讐が始まった。

 待ちに待った瞬間に心が躍ると思っていた。

 しかし、気分は頗るいいわけではなかった。

 その原因はすぐ近くにいた。


「杏奈、大丈夫?」


「……えぇ」


 私の隣では杏奈が悲哀の底に沈んでいた。

 いつも近くにいた叔父さん−−グラハムがいなくなった事を相当悲しんでいるのだ。

 杏奈の落ち込み具合、死に際に呟いたグラハムの杏奈への愛情の注ぎ方を見れば、互いにとってどれほど大切な存在か嫌でも理解できる。


「わかっているわ。おじさんにも事情があることくらい……。でも、さよならくらい言って欲しかった」


 どうやら、グラハムの行方は杏奈の耳には家庭の事情により、急遽日本から飛び立たなくてはならなかったと入った。

 無論それは嘘だ。

 しかし、一人の人間が失踪したにも関わらず、噂一つ立たない町の静けさ。この狭い田舎では噂なんてニ、三日で広がる。それも殺人事件なら半日もあれば十分。

 それどころか、最後に会っている私の元に警官の一人も訪ねて来ないことを考えるとグラハムの失踪届は出されていないよう。

 きっと、牧野グループにとって、グラハムの存在を捜査されたくはないのだろう。寧ろ、このまま闇に葬られた方が都合がいいのかもしれない。

 家族を殺したこと。恐らく、あの口ぶりからして家族以外にも数々の人を殺した事実を隠蔽する為に二度とグラハムは見つかることなく、永遠に土の中で眠ることになる。

 そう考えると自業自得だけど、少しだけ哀れに思えた。


「……いつか、また会えるよ」


 私は杏奈の肩を抱き、慰める。

 杏奈は私の肩に顔を埋め、涙を流す。

 グラハムを殺した張本人がまた会えると被害者に希望を持たせる嘘を吐くなんて、私は救えないほどの外道だ。

 杏奈の気持ちは痛いほどわかる。さよならも言えず別れるやるせなさと悲しみは金輪際癒えない傷となる。

 この時、初めて罪の重さを、人を殺すということの罪深さ。そして、私はグラハムと同じ過ちを犯した悪であることを知った。

 しかし、同時に仕方がなかったと自分に言い聞かせるしかなかった。


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