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愛憎  作者: 島下 遊姫
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十話

 嫌いと言っているにも関わらず、杏奈はずっと隣に居座る。わかっていたのだろう。他人を放っておけない性格なのだということを。

 体育祭では不本意ながら二人三脚ではパートナーになって、一位なった。

 あの時、杏奈は満面の笑みを浮かべて、一位になったことを心の底から喜んでいた。

 私は喜びなんて感情は一切なかった。

 どうして仇と思われる家の娘と喜びを共有しなければならないのか。無論、この時点では牧野家が家族を殺したという決定的証拠はなかった。だが、噂で元々天海家が所有していた土地や組合が尽く牧野家に吸収されていることを聞いて、黒であることは間違いないと思っていた。

 いくらなんでもタイミングが良すぎる。


「由紀子、一位を取ったんだからもう少し喜んでよ!」


 杏奈はハイタッチしようと手を上げる。

 何だか自分が馬鹿らしく思えてきた。だって、杏奈には一切悪意も憐れみも感じられなかった。

 ただ純粋に勝ち取った結果を喜んでいるだけだった。

 彼女はただ純粋で優しくて、ただただいい人なんだ。

 邪魔な家は排除するような家でも育ちと人格の良さは嫌でもわかった。

 そんな杏奈に魅力を感じてしまった。

 初めこそ、杏奈の本当に鬱陶しいと思っていましたが、次第にそれが心地よいものに変わっていった。

 それから友情を育んでしまった私と杏奈はお昼休みも、移動教室や行事の時も常に一緒にいた。

 基本的に杏奈の話を一方的に聞くだけだったけど、内容はまあまあ面白くて、飽きることはなかった。

 だが、些細な問題が一つ起きた。ずっと一緒にいるということを茶化して、あのいじめっ子達が私達のことを同性愛者などと言って、馬鹿にし、貶めてきた。

 正直、私はそんなことを気にも留めなかった。どうせ、負け犬の遠吠えだと軽く聞き流していた。

 そんな根も葉もない噂を流され始めた頃。

 一学期の期末テストに備えて、放課後、図書室で勉強していた時、杏奈は私にある事を聞いてきた。


「由紀子は恋をしたことがある?」


「恋?」


 突然の話に私は困惑する。


「もしかして、あの噂のこと、気にしているの?」


 私の問いに、杏奈は無言で通す。


「気にしないほうがいいわよ。どうせ、負け惜しみ。気にしたほうが負けだから」


 杏奈は意外と真面目な人だから、自分のおかげで迷惑をかけてしまったと思っているのだろう。

 それは見当違いだ。だっめ、ずっと前から迷惑をかけているのだから。


「そう……気にしないのね」


「どうしたの? あれの日?」


「なら、いいのに……」


 妙に端切れの悪い杏奈は異様に関わりにくくて、こっちの調子が悪くなる。

 しかし、何で杏奈がこんなことを気にしている理由を私はこの後、この身で知ることになった。

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