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争いのなれの果て

作者: 抹茶ラテ大先生

戦乱に明け暮れるある世界のお話・・・その世界では覇権を巡り、6つの国が血で血を洗う争いを繰り広げていた。

ある国は、熊を主神と崇め、己の武力こそ頼む武装国家だった。

ある国は、寡黙と清貧を忠実に守る僧の国だった。

とある国は、遠くの小大陸を祖とする渡来人の国だった。

ある国は、強烈な独裁者を戴き、鉄の武具を身に纏う武人の国だった。

ある国は、桃の木の下の誓いで結ばれた忠義に厚い国だった。

最後の国は狸の子孫を自称する、自由を尊ぶ遊牧の国家だった。

それぞれの国は己の信ずるところを旗に掲げて、統一を目指して覇を争う日々だった。それぞれの国にはそれぞれの正義があり、その正義を疑いもせず、自身の信ずるもののためにすべてを注いで、戦乱に身を投じていたのだった。

そんな争いも300年を数える頃になっていた。それまでの間、いづれの国が優位になってもあと一歩で覇を唱えることは出来なかった。ある国が優勢になれば、残りの国々が死力を尽くして、盛り返す。そんなことが繰り返された300年だった。

そうした人間たちの争いを天界から眺める女神は、嘆息した。なぜ、彼らは飽きもせず、何世代にも渡って、同じ争いに身を投じ続けるのか。なぜ、自分達の正義をうたがわず、唯一の真実と信じ、剣に生命を捧げるのか。 女神は300年眺めても、その答えは得られなかった。

ある国は、武力こそが全てと信じ、只ひたすらに強くなることを目指し、弱きことを罪と断じた。また、ある国は、6国の平和こそが至上だと、武人の存在意義を否定するために戦いに身を投じた。ある国は、自己の国の自由を全てに優先するために争う。

そして、ある国は、他の雑音を一切無視し、神との対話こそを求め、鎖国を続けていた。

彼らには彼らの正義があり、ある面では、一様に正しい信条でもあった。

ふと、女神は名案を思い付いた。300年続かなかったこの争いに誰かを勝利させたら、どうなるだろうか。人間達にも、このまま争った結末を見せてやるのも一興だ、そう思い付くと、女神はそれぞれの国の王や指導者を集めたのだった。

天界の宮殿に集められた指導者に女神は思い付いた名案を話すと、早速、雲のスクリーンに彼らの行く末を見せ始めた。最初に見せたのは、武力こそ正義と尊ぶ国だった。

その国がその圧倒的な武力で世界を統一したとき、国民は大きな歓声を上げた。三日三晩、国を挙げての祭りが開かれ、ようやく訪れた平和と彼らが掲げた正義の正しさを称えあった。争いで功績を挙げた武人が英雄とされた。

しかし、その喜びが続いたのも束の間だった。彼らは武を尊び、敵に打ち勝つためにその剣に磨きをかける武人達だった。だが、世界の統一がなされた後、彼らは、磨き挙げた剣をぶつける相手を失ったことに気づいたのだ。

自慢の武は彼らだけでは成り立たない、彼らと競い会う好敵手が居てこその武であることを初めて彼らは感じたのだった。

そこまでみて、王は言った。「これは我らが求める未来ではない!我らの行く末がこれなら、我が先祖は何のために血を流したのか・・・!」女神は一瞥しながら、次の国の行く末を見せる。次は、平和を信条とした国だった。

彼らの国の心情の通り、一切の争いの無い平和な世界が実現した。各国の民たちは遂に訪れた平和に歓喜し、涙した。世界が幸せに包まれた、と思われた。だが、それは違っていた。

これまで、それぞれの国や家族、大切なものを守るために生涯を闘いに身を捧げた武人たちは、最早自分達の存在意義は無いのだと悟り、次々に自害し、バルハラへと旅立っていった。

「これでは、争いで生命を落とすのと何の変わりもない。これは我らが目指した平和では断じて無い!」指導者は激昂して言った。女神は次に鎖国を続け、他国への関心の無い国の未来を見せる。

だが、その未来は先の二国と似かよっていた。鎖国をどれ程続けようとも、他国への無関心を決め込んでも、他国の存在なくしては成り立たなかっのだ。ここまで見ていた6名は一つの考えに至った。

どれ程の正義と信条を掲げようとも、国は単一では存在し得ない。他者があり、他者が認めてこそ、自国は存在を許される。他国の異なる主義主張があって初めて、自国の主義が成り立つのだ、と。

争いを続け、相手が居なくなるまで完膚なきまでに、果たした結果、残るものは果てしない無情感であることを彼らは悟ったのだ。相手が居て、衝突があったとしても、それがあるからこそ、我々は生を実感し、人生の喜びを感じられるのだ、と。

それらを悟り、天界を辞去した6人は、その後も争いを続けることとなる。しかし、今までの争いとは違う。相手を認め、尊重し、ある種の仲間として争うことが出来るようになったのだ。武人たちは敵への称賛の想いを抱え、今日も戦場に立つのだった。おしまい


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