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 のんびり学園生活を送ること数日、他の生徒からの妨害工作もヴィオラに直接危害を及ぼすことはなく、逆に返り討ちにあう一方で、徐々に減っていった。

 その日、ヴィオラがジーナやロディと共に自宅の大広間でお茶を飲んでいると、突然扉を開けて入ってきた人物があった。


「あ、バート! おかえりなさい」


 ボリジのハーブティーのカップを置き、ヴィオラはパッと顔を明るくする。


「ようオメーら、ちゃんと生きてたかー?」


 無遠慮な言葉を投げかけるのはのロディと同じ騎士装束をまとった、鮮やかなクリームブロンドをした悪人顔の青年だった。

 バートランド・ベイリャル四等勲爵士も、ロディと同じくヴィクトリア家に仕える騎士で、二つ年上の先輩にあたり、ヴィオラや親しい人物からは「バート」と呼ばれている。

 ここ数ヶ月間、ヴィクトリア公領の飛び地に遠征していたが、今しがた帰ってきたようだ。


「四ヶ月ぶりくらいかしら? お仕事どうだった?」

「別になんも変わんねえよ。のど乾いたから俺にもなんか飲みモンくれ」


 臣下の身にありながら、ひどく馴れ馴れしい態度だが、特に気にせずにヴィオラは給仕女に飲み物を持って来させる。

 ジーナが「お邪魔しておりますサー・バートランド」と丁寧にお辞儀しても「うっす」と素っ気ない返事をするだけで、バートはつかつかと歩み寄ると、ヴィオラの横の椅子に無造作に腰かけた。


「なあヴィオラ。しばらく見ない間に少しは背が伸びたかと思ってたんだが……むしろ縮んでねーか?」

「もう、バートが大きくなったんでしょ!」


 軽口をたたくバートにヴィオラは頬を膨らませる。


「バートはしばらく見ない間に少しは格好良くなったかと思ったんだけど……前の顔がどんなだったか忘れてしまったわ」

「そりゃオメーの記憶力の問題だな」

「そういえば帰ったらお土産くれるって約束したわよね? どこにあるのかしら?」

「……なんでそこだけは覚えてんだ?」


 バートは幼少期からヴィクトリア家で育てられ、ロディやヴィオラとはよく一緒に遊ぶ幼馴染だった。当然ジーナのことも知っている。

 だが礼節を重んじるロディには、堂々と足を組んで座るバートの礼を欠いた態度にはあまり良い印象は持てなかった。


「サー・バートランド。いくら昔ながらの間柄だとしても、主人に対してそのような態度はいかがなものかと」

「かてえこと言うなよ。オメーだってガキの頃はヴィオラのことを呼び捨てにしてたじゃねえか」


 二人は同じ乳母に育てられた仲だが、こうした正反対の性格のために意見が衝突することも多かった。


「あれは主従契約を結ぶ前の話です。あなたも臣従の誓いをたてたのですから子供のような言動は控えたほうがよろしいかと」

「うっせえなあ。そんなに堅苦しいと早く老けるぞ」

「まあまあいいじゃない二人とも。それよりバート、学園でのこと話しましょうか?」


 あっけらかんとしてヴィオラは笑う。


「そーいや王子と婚約解消したんだってな。詳しく聞かせてくれよ」

「そんなに聞きたいの?」

「……なんだよその言い方。オメーが話したいって言ったんじゃねえか。別に話さなくたっていいんだぜ」

「フーン……ねえ、バートがやっぱり飲み物はいらないって――」


 ヴィオラが給仕女に言う。


「ちょ、わかったよ。是非聞かせてくださいお願いします。これでいいか?」

「なあんだやっぱりそうだったの。わかってたわよ、話を聞きたくて仕方ないって顔してたものね。ホント素直じゃないんだから」

「……相変わらずいい性格してんなオメー」


 ヴィオラとバートは確かに主従関係にあった。

 ヴィオラは楽しげに王子のこと、クリスのこと、エリザベスのこと、そしてその他の令嬢たちのことを話し、バートは氷入りの果実水を飲みながらそれに耳を傾ける。

 嫌がらせを受けたことは本人はまったく気づいていないので、時折ジーナとロディの補足が入った。


「それで、つい昨日その令嬢の方々がヴィオラ様のところに謝罪に来られましたの」


 ヴィオラの話をジーナが引き継いだ。

 令嬢の方々というのはエリザベスや王子と一緒にヴィオラを非難していた取り巻きのことである。


「散々ヴィオラ様のことを悪しざまに罵って申し訳ございませんと、そしてあの時、ヴィンセント王子から自分たちを庇って頂いて本当に感謝しています、と仰っていましたわ」

「そういえば殿下の秘密をお金で買っているのがバレて、私が庇ったんだっけ?」

「まあバラしたのはあなたですけどね」


 しかも原因を作ったのも、とロディが小声でつけ加える。


「自分を貶めようとした相手にも寛大な態度を見せるなんて、ヴィオラ様はなんて素晴らしいのでしょう」


 ジーナが尊敬を込めた熱視線をヴィオラに送る。

 ヴィオラと知り合った人物の反応は大きく二つに分けられる。極端にヴィオラを嫌う者、あるいは極端に尊敬する者。

 前者は王子やエリザベスなどで、後者がケイティ、フラン、ジーナ、そして最初は嫌っていた取り巻き令嬢もそうなりつつある。

 あれだけ嫌がらせをしておいてこの心変わりの激しさはどういう了見なのか。恋は盲目とはよく言うが、これも似たようなものなのか、とロディは思う。


「オメーよくアイツ(ヴィオラ)と毎日一緒にいて疲れねえな」


 そんなことを考えていると、ふとバートが呆れ顔で話しかけてくる。


「まあ行動を共にするうちに自然と体力もつきますから」


 ヴィオラと一緒にいるほうが下手な訓練よりよほど役に立つかもしれない。いざという時、疲れて護衛のつとめが果たせないのでは意味がないのだから。


「ああそうだ。ロディ」


 バートがにわかに改まった表情になったので、ロディは少し身構えて耳を傾ける。


「話があるから後で俺と一緒に来い」

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