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先日の一件でウィルソンが精神的痛手を被っても、ケイティとフランに対する妨害工作が止むことはなかった。
父のヴェナブルズ伯爵が直接動きだしたからである。
伯爵の魔の手は二人の家族にまで伸び、エドワーズ準男爵は枢密院の場で新興貴族派の集中砲火を浴び、ポールソン卿も紋章院で敵視してくる者が増えた。
さらに領地も標的となり、ここ数日でエドワーズ準男爵の領地では密猟者が急増、ポールソン卿の所有する農園では盗難被害が頻発し、明らかに何者かが裏で糸を引いている痕跡もあった。親ヴィクトリア派から庇護を受けているものの、二人は次第に追い詰められていった。
そしてある日の午後――
「ねえロディ」
「はい?」
学園のランチタイムで、いつもの時間、いつもの場所でいつも通り昼食をとっていたヴィオラだが、唯一ケイティとフランがいないことだけがいつもと違っていた。
「今日はケイティとフランはいないのね」
「お二人共、御家族のことで学園をお休みされていますから」
両家の当主たちは、なんとか事態を収束させようと東奔西走し、娘も手伝いに駆り出されている。
「そういえばこうして二人だけで食事するのは久しぶりよね」
「そうですね」
「まあたまにはこうやって見飽きた顔を見ながら退屈な時間を過ごすのもいいかもね」
「完全に私のことをけなしてますよね?」
まるでたまにはマズイ料理を食べるのれば美味しくなるというような言い草だ。ただヴィオラはゲテモノ趣味があるので間違ってはいないが。
「ほんのジョークよ。退屈なのは本当だけどね。ロディったら真面目過ぎて面白い話しても全然反応しないんですもの。なんのために護衛役しているんだか」
「あなたを護衛するためですよ。間違っても一発芸を披露したり漫才したりするためではありません」
まあ普段から漫才のような会話――ツッコミ専――をしていますけどね、とロディは思った。
「いま面白いこと言ったわね」
「そうですか?」
ヴィオラがなにか可笑しなことを言うと、大抵の人間は激しく取り乱すことが多いが、ロディは冷静に受け流すことにしている。
大袈裟なリアクションをすると体力を消費するのと、しょっちゅう振り回されているので慣れてしまったからだ。
「とにかく飽きられても御傍にいることが私の役目なので、あまり文句を仰られても困るんです」
「けどさすがにお風呂や寝る時に一緒に居られても……」
「居たことなんてありませんが」
さすがにそれをすると公爵から吊し上げられる。
「でも静かなのもいいわよね。行くところでしょっちゅう騒ぎに巻き込まれているからなかなか落ち着けないし」
「確かに毎回その騒ぎを引き起こしている張本人ですから、それも無理はないでしょうね」
皮肉っぽく言い、カップに口をつける。
「ヴィオラ様……」
その時、唐突にどこからか小さな声がした。
不思議に思って辺りを見回していると、すぐそばの灌木の茂みが揺れて、そこから険しい表情をしたジーナが顔を出した。そして人目を忍ぶようにしてヴィオラに近づくと、切迫した様子で話しはじめた。
「大変ですヴィオラ様。レディ・キャサリンの父、ポールソン卿が反逆罪で投獄されました」
「――ッ!」
ロディとヴィオラがほぼ同時に息を吞む。普段はどのような状況でも微動だにしないヴィオラが、目を大きく見開いてジーナに詰め寄る。
「大変ジーナ!」
「はい」
「頭に葉っぱがついてるわよ!」
「あ、失礼しました」
ジーナが葉っぱを払いのけるのを見守ってから、ヴィオラは話を続けた。横ではロディが呆れた表情をしている。
「それで、くわしく聞かせてくれる?」
「はい、実は先日、大法官府にとある監査官から告発状が届きまして、それによるとポールソン卿は自分の管理する農園の収支報告書を水増ししたというのです。もちろん卿は否定されていますが大法官のハワード公爵が強硬で……」
ハワード公爵と言えば旧貴族派に属するが、ヴェナブルズ伯爵とも親しくしている人物だ。それに息子とヴィオラの一件もあってヴィクトリア家をあまり快く思っておらず、もしポールソン卿が濡れ衣であっても、強引に有罪にしてもおかしくない。
ロディは、連日のケイティとフランに対するバッシングはヴェナブルズ伯爵が裏で糸を引いていて、その真の狙いはヴィオラ、ひいてはヴィクトリア家であると確信した。
が、ヴィオラが自責の念にとらわれるのではないかと考えて、敢えて口にはしなかった。
「ともかくケイティのところへ行きましょう。お父様が逮捕されてさぞかし不安に違いないわ」
「そうですね」
「もしとても動揺していたら落ち着かせるためにロディの一発芸を――」
「お断りします」
速足で移動する二人を、心配そうな眼差しでジーナは見送っていた。




