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「さて皆々様、パーティーも盛り上がってきたところで今日のために特別なスイーツをご用意いたしました」


 茶会が落ち着きを取り戻した頃に、同じく平常心に戻ったエリザベスが大広間にいる客に大きな声でこう呼びかけた。


「男女で別々に用意しておりますので女性陣は私と共に別室へお越しくださいませ。殿方はこちらでお待ちを」


 それを聞いてロディは思わず歯噛みした。

 これが彼女の狙いだったのだ。

 護衛ロディとヴィオラを分断してなにかを起こすつもりだ。

 そうはさせまいと、すかさず広間を出ようとするヴィオラたちの後を追うロディだったが、突然横から誰かが飛び出してきて行く手を阻む。


「いやはやお互い苦労しますねえ」


 愛想のいい笑顔を浮かべて話しかけるその男は、エリザベスの護衛をしていたウォルターという騎士だった。

 漆黒の短髪にバヴェリア人特有の彫りの深い顔、年齢は二十歳前後だろう。


「どうも、以前お会いしましたよね。申し遅れましたが私の名前はヴァルター・ヴェンツェル、こちらの言語ではウォルター・ウェンセスラウスと呼ばれております」

「失礼、先を急ぐので通してもらえますか」


 ロディは素っ気ない返事で応じる。穏やかな笑顔の裏に不穏な気配を感じ取ったからである。


「女性同士の歓談に男が混じっては無粋でしょう。あなたの主人の名誉も傷つけることになるかもしれませんよ?」


 その口調には挑発的な響きがあった。


「私の役目は主人の身を護ることです。名誉を守るために責務を果たせなかったら本末転倒ではありませんか」


 ロディは強く反論する。


「なにも暴力を振るうわけではありませんよ。ローゼンベルク家の人間は自惚れが強くてプライドの高い者が多いですが無益な争いだけは嫌いですから。ただし相手が先に仕掛けてきた場合は別ですが。ね、ここは穏便にすませましょうよ……そうだ、後でクリケットでもやりませんか?」


 飄々とした態度で、遠まわしに黙って成り行きを見ていろと脅迫しているようだ。

 そうしているあいだにも、エリザベスに先導された女性陣はどんどん廊下の奥へと遠ざかっていく。

 気づくとヴィオラの姿は消えていた。


「それにしても、あのような破天荒なお方が主人だとあなたも色々と大変でしょう? かくいう私もいま仕えている主人には手を焼いておりましてね。時々辞めたくなりますよ。あなたもそうでしょう?」


 共感を求めてくるが、ロディは黙って相手を睨みつけていた。

 まるで同僚に上司の愚痴をこぼしているようで、ロディが理想とする騎士道精神に反するものだった。それに自分の主人を悪く言う人間に同類扱いされるのは嫌悪感を覚える。軽薄そうな態度も気に入らない。

 しかしこの男の言うことに一理あることも認めていた。

 ここで強行突破しても、相手に実力行使に出る口実を与えてしまい、かえってヴィオラを危険に晒しかねない。

 仕方なくロディは大人しく引き下がることにし、トイレに行くふりをしてヴィオラのあとを追う作戦に変更した。

 一応ケイティとフランには万が一の場合、ヴィオラのことを見張るよう頼んでいるが、エリザベスがどのような手段に出るかわからない以上、油断はできない。




 そんなロディの不安を余所に、ヴィオラはいつの間にかシンシアという侍女に連れられて、一人廊下を歩いていた。

 当初は他の女性陣と一緒に別室に向かっていたのだが、不意にどこからともなくシンシアが現れてヴィオラに耳打ちした。


「実はあなた様にはエリザベス様が直々に選んだ最も貴重なスイーツをプレゼントしたいと思いますので、こちらへいらしてください」

「まあ本当?」


 それを聞いた途端、ヴィオラは目を輝かせてシンシアの後をついて行った。

 ケイティとフランはエリザベスの差し金で、別の女性に話しかけられて足止めを食らっていた。


「それで、どこまで行くの?」


 ケイティたちからだいぶ離れた頃、徐々に人気のないところへ進むシンシアに向かってキョロキョロしながらヴィオラが訊く。

 はやく最高のスイーツをお目にかかりたくてソワソワしている様子だ。


「もしかして迷った?」

「いえ、きちんと場所は把握しております」


 そう言った時、シンシアの口元に不敵な笑みが浮かんだがヴィオラは気づかなかった。


「黙って歩き続けるのも退屈だし、なにか面白い話でもしない?」

「は?」


 素っ頓狂な声が響く。


「ほら例えば布団が吹っ飛んだ、とかダジャレを言うのは誰じゃ、とか」


 それのどこが面白いのだ、とでも言いたそうにシンシアは目を細める。


「いいえ、そういうのは専門外なので」

「なら隣の客はよく柿食う客だ、とかは?」


 それは単なる早口言葉だろ、と言う風にシンシアは眉をひそめる


「さあ、申し訳ありません。私にはよくわかりません」

「なんだつまんないの。ユーモアセンスがないのね」


 アンタに言われたくない! と言いたげにシンシアの表情が一瞬歪むが、ヴィオラはやはり気づかない。


「……あそこの部屋でございます」


 心なしか怒気が含まれた声でそう言うと、シンシアは前方に三つ並んでいるうち、一番奥の扉を指差した。

 うやうやしく扉を開けたシンシアに促されるまま、ヴィオラは入口の前で部屋の中を見回す。中はひどく狭苦しく殺風景で、必要最低限の家具しかなく、使用人の部屋のような印象を受ける。

 どこを見渡してもスイーツは見当たらない。


「ねえなんだか変じゃない?」

「は、どういったところがでしょうか?」


 シンシアの声が、にわかに不穏な空気に包まれた。


「本当にここにスイーツがあるの? ちょっとオカシくない? お菓子(、、、)だけに」

「…………」

「プークスクス、今の面白くない?」

「……どうぞお入りください」


 シンシアは、ややぞんざいな態度になって吹きだしたヴィオラを、部屋の中へと誘う。

 と、ヴィオラが中心辺りまできたその時、背後から扉の閉まる音が聞こえた。


「あら?」


 振り向くとシンシアの姿はどこにもなく、扉は鍵がかけられていた。

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