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時計台の秘密  作者: Noeru
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時計台の秘密⑤

⑤時計台の秘密


 アランは家に向かいながらさっきのコーヒー占いの結果について考えていた。

(絶対、マスターが言っていた結果は嘘だな。)

嫌な予感がしていた。

予測が的中したのか路地を曲がると、地面に微かに残っている血痕らしきものに気が付き、胸騒ぎがした。


(シャーナ………?)


アランは屋根を見上げたが、シャーナの気配すらなかった。

一心不乱にバザールへ駆け出したがシャーナの姿はどこにも見当たら無かった。

走っているといつの間にかお菓子屋の前に辿り着いた。

もう時間が遅いためお店自体は閉まっていた。

「誰か!」

何も考えず、お菓子屋の裏口に回った。

しかしドアには鍵がかかっていて、窓から中を覗くと誰も部屋にはいなかった。

地面を見るとそこに微かに血の足跡が残されていた。アランにはそれがシャーナのものだと一瞬で分かった。

(何かあったのか………?)

そのかすかに残る血の足跡を頼りに暗い路地を歩いているとふとある入口に辿り着いた。

いや、正確にはここが入口だと知っているだけで、見た目は普通の丸いマンホールだった。

アランは意を決し、その入口のマンホールから街の裏へ行くことにした。




 ポツポツ………


 マンホールの中は薄暗く、前方が見えない地下水路が広がっていた。

気味が悪く、普通は誰もいないだろう。しかしアランは過去に数回、ここに来たことがあった。

まさか、またこの地下水路に足を踏み入れる時がくるとは思いもしなかった。

ゆっくりと奥へ進んでいくと、シャーナが通ったと思われる道を見つけた。

アランは自然と走っていた。真っ直ぐ進んでいくと右側の曲がり角から男の声がした。

「よう、アラン。」

その道は不自然で左右に火が灯っていた。

アランは緊張感をより高めてその曲がり角の奥へと進んでいった。

行き止まりに着くと、黒いマントを頭からかぶった少年が胡座をかいて座っていた。

その少年はアランと年齢は同じくらいに見えた。

くせ毛がマントの下から見えるが表情までは確認出来ない。

首にはまが玉をかけていて、とても異様な雰囲気を放っていた。

アランは、その変わらぬ姿の少年に向かって軽く挨拶をした。

「久しぶりだな。相変わらずで何より。」

地下水路には二人の声と、時々天井から滴る雫の音だけが響いていた。


「最近、俺は地上に出てないからな。」

「おやおや、最近、君に似た人が地上の風俗店街近くをウロウロしているのを見かけたんだけど……?」

「おっと、俺は逆になぜそんなところにアランがいたのかに興味があるね。」

その無駄な会話は、突然吹き抜けてきた風によって遮られた。

頭が冷えたアランはここに来た理由を思い出した。

「僕は君に会いたくてここに来るほど暇じゃない。」

するとアランが来ることをあらかじめ予想していたかのように少年は微笑んだ。

「率直に聞こう。君がここに来た理由はこれかい?」

少年が指を鳴らすと同時に大きなシャボン玉が現れた。

そしてその中にはグッタリとしたシャーナの姿があった。

それを見たアランは少年を睨みつけた。

そして少年を睨みつけたまま物騒なものを取り出そうとカバンに手をかけた。

お互いに緊張が走った。しかし、少年は両手を挙げて降参のポーズをした。

「誤解だ。君と力比べをする気はさらさら無い。とりあえず俺の話を聞いてほしいね。」

アランは、ゆっくりとカバンから手を離した。

「数時間前、ここにとある訪問者が来た。珍しいお客さんだったよ。助けて欲しいってこいつを持ってきた。そして俺が預かっていたというわけさ。」

少年はシャーナをシャボン玉ごとアランに向かって投げた。

アランがキャッチすると同時にシャボン玉が弾け、シャーナが出てきた。

シャーナは弱っていたが息はあった。

アランはそれを確認すると安心し、シャーナをゆっくりと地面に降ろした。

「ちなみに外傷は最初からそいつには無かったよ。」

「それは、どういう―――。」

アランが言葉を言い終わる前にいつの間にか目を覚ましていたシャーナの言葉によって遮られた。

「少年、余計なことを言うな。……これ以上適当なことをほざくようだったら貴様の喉仏を喰いちぎるぞ。」

その声はかなり低く少年を警戒していた。

こんなに怒っているシャーナをアランは見たことが無かった。

しかし、やはり体力が戻っていないためか、いつもより弱々しかった。

少年は頬杖を付きながら楽しそうだった。アランは冷静を装いながら少年に問いかけた。

「その訪問者はどちらへ?」

少年は、少し躊躇いながらゆっくりと指を指した。

「あっちだ。走って逃げるようにして行ってしまったよ。」

アランは、その方向を見つめるなり、すぐに走っていった。

「アランっ!」

シャーナは今出せる精一杯の声で叫んだ。

しかしその声は届かず、アランの姿はどんどん小さくなっていき、地下水路内には水が滴る音だけが響いていた。

その様子を見ていた少年は、嫌味ったらしいことを呟いた。

「お気の毒に……振られてしまいましたね。」

シャーナは、しばらくアランが走っていった方向を見つめていた。

その綺麗なオッドアイの瞳は悲しみそのものだった。




 アランは必死に走った。

どこまで繋がっているのか分からない地下水路は真っ直ぐに続いていた。

暗すぎて前が見えにくく、この方向が間違っていないか不安になった。

アランは、走りながら目を閉じて集中した。

そして何か頭に閃いたように一筋の光を感じた。

暗闇でもアランは、誰かが通った新しい足跡を見つけた。

それに沿って走っていると、目の前に出口のようなものが見えてきた。

アランはその出口に向かって、一直線に走った。


 アランが出てきたのは丸い土管だった。

土管の外は下り坂になっていたので危うく勢い余って落下しそうになった。

もう外はすっかり暗くなっていた。目の前には手入れされた洋風の庭園が広がっていた。

そして上を見上げるとそこには絵本に出てくるようなお城が立っていた。

アランはその迫力に圧倒されてしまった。

また、少し離れた所には高い塔があり、明かりがついていた。


(あの塔はなんだろう?)


 アランは、その塔に近づいていった。

壁をよじ登り、明かりのついた部屋の窓に手をかけて中を覗いた。

そこには女の子がベッドに座り、ドアの方を見つめていた。

顔が見えなかったがアランは後ろ姿で過去に会ったことがあると分かった。

髪の毛を全て下ろしていたが、あの美しいオレンジ色の髪は、間違いなくアランの知っている彼女で間違いない。

アランは意識を彼女の背中に集中させた。

しかし、いつまで経っても彼女はずっとボーッとドアの方を見ていて、振り返りそうになかった。

「なぁに鳥籠の中の鳥みたいにじっとしているのですか、お嬢さん?」

アランは窓の淵のところへ座り、話しかけた。

彼女は急に後ろから声がしたのに驚きながら振り返った。

そしてアランの顔を見た瞬間、またあの時みたいに叫びだそうと口を開けた。

しかし、アランはそれをあらかじめ予測していたので彼女に速攻で近づいて手を伸ばし、彼女の口を軽く塞いだ。

「おっと、また叫ぼうなんて、いけない人ですね。」

彼女が冷静になったのを確認するとゆっくりと手を離した。

「また同じ過ちを犯すところでした……。」

彼女もアランの顔を確認すると、少し警戒しつつも冷静になった。

アランは女の子から少し距離を取り、おもむろに口を開いた。

「先日はごちそうさまでした。この前、聞き忘れていたことがありました。お嬢さん、お名前は?」

彼女は少し戸惑っていた。

正体の分からない謎の男に自分の名前を教えていいか悩んだからだ。

しかし、悪い人ではなさそうだと判断し、ゆっくりと答えた。

「ティアラです。」

「素敵な名前ですね。」

ティアラは疑いながらすかさずアランに尋ねた。

「あなたこそ、一体何者なのですか……?」

するとアランはゆっくりと胸に手を当て、執事のような仕草でお辞儀した。

「名乗る程の者ではありませんよ、お嬢さん。まぁ、旅人とでも名乗っておきましょうか。」

ティアラは、そうじゃなくて……と、戸惑っていたが質問を続けた。

「あなたは、どうしてここに来たのですか?」

「地下水路から辿ってきたらここに着いたのです。」

ティアラは、表情を曇らせた。アランはその反応を確認して言葉を続けた。

「僕の猫を助けてくれたのはあなたですか?」

アランは、彼女の回答を聞く前に何かに気がついた。

そのまま表情を変えずに一歩一歩窓の方へ後ずさりした。

「どうしたの?」

ティアラはそのアランの不審な行動に疑問をいだいて手を伸ばした。

「また日を改めて来ますね。」

アランは、窓の淵に手をかけ、ティアラと目を合わせてから飛び降りた。

「ちょ、ここ、何階だと思って……。」

ティアラは、すぐさま窓から頭を出した。

しかし、そこはいつもの手入れされた庭園が広がっているだけだった。

ティアラはまた信じられない光景に目を疑った。その後、すぐに使いの者が部屋に入ってきた。


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