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時計台の秘密  作者: Noeru
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時計台の秘密①

①時計台の秘密


 これはアランが異世界に行き、由梨亜と出会う少し前の話である。

「行ってきまーす。」

アランは、家の中で何か言っている母親の言葉を無視して家を出た。

レンガ造りの家が立ち並ぶ狭い路地を慣れた足取りで進んでいった。

路地は風の吹き抜けがよく、薄手の格好で家を出てきてしまったアランは少し肌寒く感じた。

ぼんやりと空を見上げたアランはふと後ろから何かの気配を感じ取った。

(何者っ?)

アランは素早く振り返った。

すると曲がり角からずっとアランを待っていたかのようにオッドアイの黒猫が現れた。

その猫はアランのよく知る猫だった。

その猫と目線を合わせるため、アランはしゃがみ込んだ。

しかし、その猫は退きながらゆっくりと曲がり角へ消えていった。

アランはその行動を不思議に思った。

その数秒後、アランの背後から巨漢な男が通り過ぎたのでその猫の行動に納得がいった。

猫は警戒心が強いので、その巨漢な男の気配を感じ取り、驚いたのだろう。

アランは内心、猫と戯れることができず、がっかりしながら狭い路地を後にした。



 アランは狭い路地を抜け、バザールを歩いた。


「へい!いらっしゃい!」

「そこの兄ちゃん、今なら安くするよ~?」


今日はいつもより街全体が賑わっていた。それもそのはず。

明日の夜、年に一度のお祭りがあるからだ。

アランは、この街に越してきてからまだ一年経っていない。

そのため、アランにとって街に越してきてから初めてのお祭りだった。

 バザールを抜けると、閑散とした地が広がっていた。

そのままアランは街の外れにある野原に向かって歩いた。

その野原は地平線が見えず、数本、木が立っているだけで一面緑が広がっていた。

ここはアランが、とても気に入っている場所の一つだった。

過去に一度だけこの野原を散策したことがあった。

しかし、いくら進んでも同じ景色が広がっているだけで結局どこにも辿り着けなかった。

この野原の少し盛り上がった丘の上で空を見ながら寝そべることがアランの最近のマイブームだった。

今日は雲一つない快晴で、心地の良い日だった。

アランはしばらくぼんやり何もない空を見上げていた。

ふとその空に風船のようなものがゆっくり飛んでいくのが見えた。

アランがそちらの方向に身体を向けると、子供たちが空へ飛んでいく風船に手を伸ばして悲しそうにしていた。

アランはすくっと立ち上がり、その風船の方向へすばやく走り出した。

そして上手く木の枝を利用しながら空へ飛んでいく風船へ向かって大ジャンプを繰り出した。

見事にその風船を右手でキャッチするとゆっくりと子供たちの場所へ降りてきた。

そのアランの華麗な動きを見ていた男の子二人と女の子一人は拍手をしていた。

そのうちの一人の男の子がハッとした顔をして、いきなりアランの方へ手を広げてきた。

すると不思議なことにその男の子の前に文字が現れた。


(この子、魔法が使えるのか…)

それを見ていたアランは内心驚いていた。

子供たち三人はその文字を覗き込んでいた。

しかし、三人は困った様子で顔を見合わせ、そしてゆっくりとアランの顔をじっと見つめてきた。

どうやらその文字が読めなかったようだ。

「これ、なんて読むの?」

子供の一人が小さな声で質問した。

アランは微笑みながら、その文字を指でなぞりながら言った。

「僕の名前だよ。アランって読むんだ。よろしくね。」

すると三人はさっきとは打って変わって、目をキラキラさせながら口々に叫んだ。

「アランお兄ちゃん、すごい!」

「アランも魔法使いなの?」

「うぉぉぉぉ!さっきのすげぇ!」

アランは、優しく微笑むだけで何も言葉を発しなかった。

その後子供たちと仲良く、日が暮れるまで野原で遊んだ。



 ゴーンゴーン


街の方向から鐘の音が聞こえてきた。

三人と別れた後、アランは家に向かって歩いた。

バザールの人混みを通り過ぎ、狭い路地に入った。

すると今朝、触れ合うことの出来なかったオッドアイの黒猫と再び遭遇した。

その猫は朝と同様、ずっと待っていたかのように曲がり角からスッと現れた。

アランは適当な階段に腰を下ろし、ゆっくりと彼女の名前を呼んだ。

「おいで、シャーナ。」

シャーナと呼ばれた猫は一旦、曲がり角に引っ込んだ。

次の瞬間そこから現れたのは、猫耳で黒髪のショートカットの女の子だった。

アランより少し背が低く無表情でこちらを見つめていた。

いつも通り一向に近づいてくる気配がなかったため、アランはゆっくりと腰を上げてシャーナを見つめながら近づいていった。

「シャーナは相変わらず無表情で冷たいなぁ。」

すると、シャーナは少しばかりムッとしたような表情をし、ゆっくりと口を開いた。

「猫は感情が無いから、しょうがないって言っているでしょ。」

なんとも可愛げの無い言葉である。しかしアランは、そこも含めて彼女を気に入っていた。

アランは少しずつ彼女に近づきながら言葉を続けた。

「でも君は、猫じゃなくて猫にもなれる人間なんじゃないの?」

シャーナは、じっとアランの目を見つめながら否定した。

「違うわ、逆よ。人間にもなれる猫。本当の姿は猫の方。」

声のトーンは低く、少し怒っているようだった。

アランはそんな言葉を無視しながらシャーナの頭をポンポンなでた。

「まぁまぁ、カリカリするなって。」


 二人は適当な階段に腰を下ろして、しばらく他愛もない話をした。

その中で、アランは今日出会った子供たちの話をした。

「久しぶりに運動したなぁ、って聞いてる?」

「………聞いてるわよ。」

アランは妙にシャーナの反応が薄いと思った。

「まぁ、いいけどさ。子供と遊ぶのもたまにはいいね。」

その時だった。シャーナはいきなり身震いをし、アランの背中に隠れ、すばやく猫の姿に戻った。

急に辺りを警戒し始めたので、アランは何事かと思った。

すると、路地からアランの兄が現れた。

「おーい、家のこと全部、母さんと俺に任せて、またこんなの所にいたのか。ほら、母さん怒っているから早く帰ってこいよ。」

アランは、面倒くさそうに返事をした。

「はいはい。」

兄が去ったことを確認してからちらっと後ろを見たが、アランの背中に隠れていたシャーナの姿はいつの間にか消えていた。

アランは、重い腰を上げて、家へ帰ることにした。


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