29話
「つまりはジェシーの目標は、1番目は修道院送りを回避、2番目は領地外外出禁止を回避、3番目は市井で生きるのを回避。そのためにはまず避けるのがアレクセイ様の婚約者になるのを避ける。セルエル様に極端に嫌われるのを避ける。あとは万が一に備えて市井で生きる術を身に付ける。でしょうか?」
ジェシカはコクコクと無言で頷く。
まだ話して良いとお許しは出ていない。
市井で生きるのにはまず問題無いはずだ。
なんせ中身は庶民寄りに生まれ変わってしまったのだから。正確には前世を思い出した事で若干誤修正が入ってしまい残念な感じに現在向かってしまっている。その自覚はある。
ありすぎる程に。
我儘、嫌味な感じは抜けた筈なのでイーブンか?等脳内で考えているとフランシスカにじっと見つめられているのに気付く。
何?と小首を傾げる。
「先程、庶民で生きる術を身に付けると仰いましたが、勝算はありますの?ジェシー?」
「ある…はず…これです」
手元のお菓子を指さす。
この世界のお菓子、殆どがクソ甘かパサパサなのだ。
いうてみれば砂糖ジャリジャリ。
砂糖は高級嗜好品、お金持ち度を表すバロメーター化してしまっている。
程よい美味しさのところもあるがなんというかパサパサ。
ちなみにクリステルが持ってきてくれた高級店は甘いは甘いがジャリジャリではなくパサパサ系でまだ食べやすい。
現時点ではお気に入りのお店である。
「菓子…ですの?」
「あ!そっか!」
クリステルはハッと気付いた。
ジェシカはそらを見て頷いて笑う。
「そう、私たちの記憶に残るお菓子は少なくとも今のこの美味しいと言われるお菓子より美味しい。そして、私の趣味は料理…当然お菓子もよく作ってたの。レシピもある程度覚えてます」
「おお!それは勝算ありですね!」
「クリス、敬語は無し、私達対等!」
「え…いや…あの…」
チラッとフランシスカをクリステルは見る。
気付いたジェシカは徐ろに立ち上がるとそっとクリステルの手を取り包み込むように両の手で握りしめた。
「フラン、クリステル様と私は言わば運命共同体。公式の場以外は身分差は無いものと思って?彼女の知識を借りなくては、私は…」
ゆっくり眼差しを伏せる。
それは美しかった。先程までのコミカルな少女では無く、見まごう事なき美少女の憂い。
それが半分演技だとわかっていてもフランシスカもクリステルもドキリとする。
「……わかりました。気を使う貴族的な話し方は私達だけの時は無しにしましょう…ただし!」
「教室や社交の場ではしない!」
「クリステル様は?」
「…え?あ、はい。もちろん…別に私は…敬語のままでも…」
「私が嫌!昨日約束した!」
「……はい」
クリステルが渋々なのが丸わかりである。
子爵令嬢からしたら公爵令嬢に気安い口の利き方をする事は不敬にあたり、許されたからとは言えかなりの難易度である。
多分クリステルは2人きりの時ならと言う意味で本来言ったのであろうことが推測可能であった。
色々言葉を飲み込んだのが見て取れるがジェシカは気付かない。




