26話
「私達がいた世界はこことは大きく文明が違います。この世界は魔法学が発達したみたいですが、私達の世界は科学が発展した世界でした。細かいことは聞かないでください。当たり前すぎてどんな仕組みだったのか説明出来ません。その世界で、私達は同じ『フェアリー・スワン』という乙女ゲームをしてました。簡単に言えばフランシスカ様は恋愛小説を読まれますか?」
「いいえ。そういう本があるという事は知っております」
「では冒険小説は?私は『賢者ミルラの冒険』くらいしか読んだことありませんが…」
「その辺りは嗜みましたわ」
「その物語の中で聖女と勇者が恋に落ちますよね?その相手が勇者ではなく、魔法使いだったら良かったのにとか、勇者の相手は賢者であれば良かったのにとか思いませんでした?」
「……ええ、私は魔法剣士が好きでしたので魔法剣士とミルラ様がくっつけば良いのにと思いましたわ」
ほんの少し思案した後にフランシスカはまっすぐクリステルに言う。
既にジェシカは素無視である。
下手に口を挟まない方が良いのは流石のジェシカにもわかる。
もう、口一杯にカップケーキを放り込まれるのはごめんだった。
そっと音を立てないようにお茶を飲む。
「私達がいた世界ではそのような『もし』の世界が主人公の物語の選択肢によって何通りか読める物が乙女ゲームとして出来ておりました。乙女ゲームと言うのは主人公が女の子でその子の恋愛を何人かの男の子と付き合ったり結婚したり出来る物なのです」
「まあ!ではとても大きな本なのですね?」
「いいえ。大きさはマチマチですが大体このくらいの薄い物です。その中にいくつもの膨大な出来事が記録されてゲームを通して読めるのです。この辺りは認識の違いがありますし、実物は見せられないのでスルーしてもらえると助かります。とにかくその乙女ゲームの一つがこの世界と同じであるとある日気づいたのです」
「そのゲームが『フェアリー・スワン』で、この世界…」
「もちろん、今生きてる世界がゲームであるとは思ってません。私は」
「ちょ!わたしだって思ってないから、現実だと認識してるから、こうやってバッドエンド回避に向けて会議してるんだから!」
「ジェシカ、もう少し黙ってて、貴女が喋るとおかしな単語が増えます」
「……はい」
カップケーキを手に持ってフランシスカはにっこりと微笑む。
もう一つ口に放り込むぞと暗に言っている。
クリステルは既に目線を合わせてもくれない。
ジト目で見つめても華麗にスルーして視線は外す。
説明が下手だという自覚はあるので大人しく口を噤んだ。
「それで貴女方はお話しの主人公でしたの?お二人とも?」
「いいえ」
「………」
「……ジェシカ、口を開いても良いですわ」
無言で一生懸命首を横に降るジェシカに少し同情したようにフランシスカは許しを与える。
「違う、主人公じゃない。悪役令嬢なの」
「…悪役令嬢?」
またわからない単語が出てきたせいでフランシスカの眉がピクリと跳ねる。
ジェシカに説明を求めてもこれに関しては無駄だと悟ったのだろう真っ直ぐクリステルを見て、答えを視線だけで問う。
ジェシカも救いを求めるようにクリステルを見る。
この世界で通じない単語を出すなら一旦説明が全部終わってからにしてくれ!と思うクリステルだった。
気を取り直して溜息を吐いてこめかみをグリグリしながらフランシスカだけをクリステルは見る。
これだけで聡明なフランシスカには伝わったようだ。
「ジェシカ、ケーキお食べになります?」
「いらないです。大人しくしてます」
片手に再度カップケーキを持ち上げてフランシスカが笑う。
ジェシカの顔はそれだけで引き攣る。
説明が一通り終わるまで黙ってよう。
硬く心に誓った。




