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19話 ジェシカの部屋にて

 


 侯爵と侯爵夫人が間に入れば傍若無人な二人の子どもは比較的大人しくなる。

 ノイエットはセルエルの隣、クリステルはジェシカの隣で穏やかな朝食の時間を過ごす。

 食事を終えれば、あとはもう少し身嗜みを整えればフランシスカが来るのを待つだけのはずだった。

 ちらりと見るとジェシカが上機嫌である。

 何がそんなに彼女を上機嫌にさせるのか?



「フフン♪」



 ジェシカは上機嫌だった。

 セルエルのいつも以上の纏わりつきをクリステルとノイエットによって避けられ、挙句、セルエルの苦味潰した顔を見れたのだ。

 中々見れるものではない。

 セルエルは家の中でもどこでも貴公子だ。

 今はまだ可愛らしさ(ジェシカの中の人の精神年齢よりもずっと子どもだから余計そう思うのだと思う)から逃れられていないが、ゲームの年齢、そう18歳であればそれは見事な貴公子で、イケメンで金持ちで多少性格に…ゲームのジェシカ的には難ありでも、対外的には何も言うことは無い完璧な王子……いや、貴族の出来上がりである。

 この先何が起きるかわからないが、今のままのセルエルが男爵令嬢に惚れてしまったらジェシカは捨てられる。

 いや、捨てられるというのは間違いか。もう少し酷く切り捨てられる。

 もし、男爵令嬢がまともな人ならジェシカは侯爵家を出てしまえば修道院送りは無くなり貴族ではなくなるかもしれないがジェシカにとって大事な家族として認識してしまっている今、兄のセルエルに切り捨てられるのはかなり辛い。

 だから来るべき時に備えて距離を置いているのに、セルエルはノイエットと共にその距離を詰めてくる。こればかりはジワリじわりと躱すしかない。

 そんな事ばかり頭を過る日常にセルエルが貴公子を崩すのに立ち会えたのはなんだか胸がポカポカする。

 そして今目の前で単なる一つ結びをしようとしているクリステルに向き直る。



「クリス、何してるの?」

「へ?歯磨きしたから髪を括ろうと…」

「それは見てわかるけど、なんで結わないの?」

「いや、あの、面倒…だし、苦手…」

「ダメだよそれじゃ!女の子はね可愛くしなきゃ!ほらクリスは可愛いんだから可愛いを楽しもうよ!」

「いやいや、目が腐って…」

「ほら、鏡をよく見て」



 ジェシカは強引にクリステルを鏡台の前に座らせる。



「確かにね、私達は貴族で、普段は侍女に髪を結って貰ってるわ。でも学校で乱れたらどうするの?もう少し大きくなったら乗馬もあるし、体操だってあるのよ?髪くらい自分で綺麗に結えなくてどうするの?」

「へ?一つ括りで十分…」

「ノンノンノン!だから女の子は可愛くね?いいわ今日は私が結ってあげる。一緒に練習しましょう」



 キラキラの笑顔をジェシカは振りまく。

 クリステルは勿体ない。磨けば光る原石だ。

 高飛車な嫌な女の子にはなりたくないが、せっかく今の世に生まれ持った容姿なのだ。

 磨けば光るなら光らせねば勿体ない。

 まだ子どもだからと使わなかった美容術を二人の記憶を手繰ればいくつか復活させられるものもあるだろう。

 多少自然派化粧品に走った事もある。

 この世界に何が存在しているかわからないが、それぞれの領地の特産品など詳しく確認していけば、改善したい様々な物。

 そう例えば…美容オイルや化粧水、お風呂後のマッサージを香油にしたいし、それに食べ物関係のお菓子。

 食事はそれなりに美味しいが甘いものは少し物足りない。

 甘い物を食べれば当然太りやすくなる。

 だからヨガとかピラティスを取り入れてボディライン…には早いから、柔軟体操を取り入れて身体のしなやかさのキープかな。

 夢が広がる。

 例えば、お菓子作りがこの世界に受け入れられれば市井に放り出されても隠し貯金さえあれば遠く離れた街でなら商売が出来るかもしれない。

 どんな事が待ち受けるかわからないのだ。

 貴族としての教育を受けつつ市井に混じって生活していけるだけの様々事を身に付けていかなければならない。

 いや、出来れば追放されたくは無いけれど。


 逸れた思考を戻し目の前のクリステルを見るとビックリした顔をしている。

 目を細めてどうしたのかと無言で問うて見ればパクパクと何度か口を動かした後、絞り出すような声で、



「…可愛いっていやいや、貴女に言われたく無いわ。いやいや無理です。女子力不足でなんかすみません。勘弁してください。無理無理無理」

「完全自己否定ね。貴女は可愛くなる要素を沢山持っているわ。ね、そう思うでしょうお兄様」

「はい?!」



 誰もいない空間、いや、廊下へと通じる扉の向こうに声をかけるジェシカにエスパーか!?と突っ込みを入れたくなる。



「なんだ気付いてくれたのか。愛だねジェシカ」



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