16話 クリステルの憂鬱
クリステルの語り
夕食はさながらクリステルのお披露目のようだった。
初めてジェシカが連れてきた友達。
侯爵も夫人も勿論セルエルも皆がクリステルに話題を振る。
ジェシカは楽しそうだった。
セルエルが時折探る様に瞳を細めてクリステルを見る。
その視線はセルエルファンならいざ知らずクリステルにとって心地いいものでは無い。
その視線が嫌で下を向く。
そうすると今度はジェシカの視線を感じる。
嫌々ながら視線を上げるとジェシカはニコリと花の様に艶やかに微笑む。
本当に同じ7歳なのかと疑いたくなる。
そっとセルエルに視線を移せば、ジェシカの笑う顔をうっとりと眺めている。
天使の微笑み。
写真でも撮れれば学校中の乙女が先を争って購入していい資金源になるだろう。
ぼんやりジェシカの話しを適当に受け流しながらそんなことばかり考える。
しばらく探っていたが、クリステルがこの晩餐に乗り気では無い事を悟ったのかセルエルは当たり障りのない事を問い、視線もごく普通になった。
今日の会談の事は何も聞いては来ない。
本当に早く帰りたい。
帰って引きこもりたい。
神様助けて!
助けなんて来るわけもなく、湯浴みもジェシカと一緒。
丁寧に風呂上がりのオイルトリートメントを受けた後はベッドさえもジェシカと一緒。
全てがジェシカの思う通りに事は動かされた。
お陰でふかふかのベッドで眠ったはずなのに精神的に疲労困憊。
朝日が昇る頃には目が覚めた。
むしろ冴えて眠れない。
ジェシカの寝顔は可愛いい。
イラストに描き起こしたい。
ムクムクと前世の趣味のイラストを描きたいという思いが鎌首を擡げるが、ここでジェシカにバレたら多分間違いなくゲームのイラストを描かされる。
それがバッドエンド回避の近道であるからだ。
残りの7名の成長した後の姿ではあるがそれと名前があればフランシスカが誰なのか調べるだろう。
それがバッドエンド回避に手っ取り早いと思いつつもそうすればクリステルは一連托生という泥沼に嵌る。
ジェシカから逃げられなくなるだろう。
可及的速やかにフランシスカに全てを話し、押し付け、華麗に領地へ引きこもろう。
決意を新たにする。
隣で穏やかにまだ眠るジェシカを見る。
ジェシカの前世は確実にリア充の女子だったのだろう。
クリステルのオタクな喪女の前世とは間違いなく真逆。
オタクなの!といいつつ、ゲームや声優さんにちょっと嵌ってキャーキャーいいつつ、彼氏に呆れられながらラブラブしていたタイプだろう。
対してクリステルは薄い本も作っていたかなりオタク度は高い。
一応一般人です的な顔をバイトや大学ではしていたが、地味な目立たない立ち位置だったからこそ蔑みや揶揄いからは身を守っていた。
ここでもそれをしようとしたがクラスと立場が悪かった。
これが、もし庶民に生まれついていたら何にも関わらずのんびりジェシカの苦労する様を高みの見物をしていただろう。
ジェシカに気付きもしなかったかもしれない。
ああ、領地ののんびりと優しい空気が恋しい。
ひとしきり心の中でモノローグを語るとクリステルはそっとベッドから降りて身支度を始めた。
貴族の服は着るのに時間がかかるし、ややこしい。
語っただけで終わる。




