10話 グダグタから始まる作戦会議
「この世界ってゲームの『フェアリー・スワン』だよね?」
「だと思います」
「私、日本人だったの、25で死んで前世の名前は覚えてない。つい最近、鏡見ててその事思い出したの。このゲーム途中までやってたんだけど、コンプはしてないんだよね転生どこまでやった?」
「私も日本人でした。前世の名前は私も覚えていません。歳は20までは覚えているのでその辺りで死んだのだと思います。ゲームの世界と一致していると気付いたのは学園に入ってから。名前一緒だなと思ったら貴女がいました。ゲームとしてはメインどころは終わってまして隠しキャラがまだでした」
「敬語…やめよう。今、同い年。立場も今は捨て置きだからね?」
ジェシカ特有の綺麗な顔で脅すは健在。
しかしながら悪い提案では無いのでクリステルはのることにした。
「わかりました…わかった。対等」
「うん!」
嬉しそうにジェシカは笑う。
ああ、くそう。やっぱり可愛い。
正直、主役の男爵令嬢よりイラストは好みだったのだが、実物はもっといい。
イラストの様に暗い影も意地悪な眼差しも無いから本当に天使の様だ。
「では、改めてどこの誰が攻略対象かわかる?」
「えっと…貴女のお兄様のセルエル、その従者件親友のノイエット、王国第2王子のアレクセイ…」
指折り数えながら言葉にする。
ジェシカはノートに名前を書き出す。
同級生のラドヴィックとヒースフル、先輩のカルフェ、アーサー、兄王子のロイエンタールそれに隠しキャラの先生のチアキ。
「あとは魔導士のリック、リックナンチャラって長めの名前。てか、貴族の名前難しいし、割と全部愛称な感じだと思って。爵位まで重要視してなかったら覚えてない。全部で10人かな」
「どこまでやった?」
「主要は終わってる。チアキとリックがまだでチアキ攻略してる最中は覚えてるからそのくらいで死んだか飽きたか」
「そっかぁ…私、セルエルとロイエンタール、アーサーは終わってたはずだけど、そっから仕事忙しくなって、アレク途中まで辛うじて」
「わぁ、まだ地雷やってないのか!」
「地雷ってセルエルだけじゃないの!?」
「アレクセイ!奴も我儘王子!男爵令嬢を虐めたって修道院送り!」
「げ!アレクセイも修道院なの!?」
ジェシカが大袈裟に天を仰ぐ。
いや、美少女はこんなんでも絵になるな。
「てか、このゲームのメインはアレクセイが一番のメインなんだけど」
「好みじゃなかった」
えへへとジェシカは笑う。
まぁ、わからんでも無い。
俺様系のキャラの王道だったのだ。
俺様系自分も苦手です。
「本命誰だったの?」
「えーと、セ、いや、あの、あと、あ!ロイエンタールかな、知的で寡黙で、それでいてラストは情熱的。クールビューティだから」
わかりやすい…誤魔化しが入っている。
ここは乗らずに本音を引き出しておいた方が良いだろうと判断する。
「そっかぁ、ロイエンタールかっこいいもんね!で、本命は?ノイエット?セルエル?」
「うっ…あの…」
「言っといた方が楽になると思うけど…いいんなら…いいけど」
「わぁ!もう!わかりました!セルエル!セルエルだったの!奴だけ3周プレイしてボイスを堪能したわ!甘い台詞!スチルは置いといてもあの声!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
逆にクリステルの方がギョッとして慌てて口を塞ぐ。
行動がレディではないし、公爵令嬢に対してのこんなとこ見られたら破滅である。
それでも内容が内容なだけに誰かに聞かれた方が不味いのだ。
「ごめん、ごめんなさい。これ以上弄らないから落ち着いて。外に聞こえる!」
「ごめん!」
ジェシカも我に返った。
「確かに今、お兄様だと言い辛いよね。配慮が足りなかった。ごめんなさい」
「いや、うん、あの兄が成長してど真ん中ドストレートで修道院は正直しんどい」
「回避しようね」
「絶対!」
二人は固く握手を交わした。
「で、今は?攻略対象に数人合ってるでしょ?どんな感じなの?特にセルエル様」
「お昼に会った時も台詞甘かったでしょ?実物も甘い、甘いんだよ!男爵令嬢じゃないのに、妹なのになのに!甘い!でね…ジェシカに対する態度がゲームと全く違うんだよね。まるで男爵令嬢に話しかけるみたいに話すんだ。…男爵令嬢の…名前なんだっけ?」
「それが私も思い出せなくて…確か高等部3年になる時入学してきて、デビュタントまでの1年間がゲームのストーリィで、自己紹介が入るんだよね…」
二人して頭を抱えるが肝心の主役の名前が出てこない。
クリステルの思考はだんだん逸れていく。
攻略対象を考えると昼間の恐怖を思い出す。
ちなみにクリステルはフランシスカとセルエルとジェシカが怖すぎてセルエルの吐いた筈の甘い台詞なんて一切覚えてなかった。
やたらジェシカをベタベタ触ってるなぁとは思っていたけれど。
隙を見てクリステルが逃げ出そうとするとノイエットがにっこり微笑んで何気に逃げ出せなくさせていた。
まぁ、これはバッドエンド回避作戦とは関係無い。………よね?
ゲームの中のノイエットもジェシカに良い感情は持っていない。
今はどうなのか…知らない。
「よし、諦めようきっと高等部3年になったら男爵令嬢は出てくるはず。流石に聞けば思い出すと思うし」
ぼんやり余計な事を考えていた事をおくびにも出さず、ジェシカの言葉にクリステルはポンと手を打って男爵令嬢に思いをはせるのは辞めた。
忘れた者は忘れたのだ。
「そうね。ところで今、初等部1年でしょ?この後のジェシカとかクリステルのスケジュールでわかってることある?」
ジェシカの問いにクリステルは首を捻る。
うすらぼんやりとした記憶からジェシカについてを思い出す。
「えっと…セルエルルートラストにかなり口で辛辣な事言われるはずなんだけど…観劇は終わった?」
「ええ、少し前に今評判の悲恋ものを観たわ」
「ええと…」
主役の男優に会いたいと観劇後にジェシカは我儘を言う。
それに呆れてセルエルが徐々に冷たくなっていく。
養父母もその辺りからジェシカに見切りをつけ始めたはずだ。
高等部の頃は既に切るタイミングを考えていたとセルエルは言っていた。
「それが始まりかな」
「あ、それフラグへし折った。確かに自覚する前は騒いだけど、観劇後は自覚してたから、静々と帰った。お父様とお兄様に逆に会いたいと言っていたがいいのか?と目を丸くされたけれど、私一人のためにそんな時間割いていただくよりも、ゆっくり休んでより良い舞台をして欲しいって言った」
既にジェシカの行動が変わった。
ならば動きは、世界に変化はあるのか?
クリステル自身はジェシカと必然的にというか、半ば強引に出会わされた。
多分このまま連携を取ることになっていくだろう。
イラストスチルの中にフランシスカはいなかった。
他にもう一人の令嬢。
彼女はまだ会っていない。
フランシスカがその役割なのか?
もしかして、運命は変えられるのだろうか?
「もしかしてその後からお兄様の様子が変わった?」
「ああ…そうかも!ちょっと冷たくなってたんだけど、その後べったり甘々にまたなったの小さい頃みたいに!えっと、思い出すの大変そうだから、情報整理からしようか」
「例えばどんな?」
「まずは、ゲームの世界観とそれぞれの攻略法と覚えてるスチル。その中に私達が関わっているものをあげた方が対処法も纏めやすいと思うの」
よし、と二人は頭を付き合わせて細かくゲームの内容を詰め始めた。
この先くらゲームの説明が続くのでコメディ要素が少し薄れます。
私も頭の中を整理中(笑)
攻略対象でありながら名前だけになる人もいるかも…




