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きゅうクマ


「私は……つり橋を落としたり電話線を切ったりなんてしてません……」


中居のその言葉に、事情を知る者達は凍り付く。

その他のメンバーは橋が落ちた事すら知らないのだ。どういう事? と慌て始めていた。

しかしそこで里美刑事が皆を落ち着かせようと……


「皆さん! 落ち着いて聞いてください……明日には外部と連絡が取れる手筈になってますので……ですよね! 金さん!」


「え?! あぁ、うん……」


なんとも自信無さげな金さんの態度に、宿泊客達は更に不安に……!

というか、ポンたぬきさんは? どこに居るん?


 俺はそっと中居さんに耳打ちする。

だが中居さんは首を傾げ、何の話? と返してきた。


ま、不味い……もしかして……


「シロクマさん……ちょっと……」


俺は探偵に呼び出され、皆から少し離れた所へ。


「嗅覚で探せまセンカ? 実はココニ、ポンたぬきさんが身に着けていたスカーフが……」


なんでお前持ってるん。

お前が犯人じゃないのか!


「マア、細かい事は置いといて……私の所の柴犬を使ってもイインデスガ、アレはアレで少しアレなのデ……」


良く分からんがまあいい。

俺に任せろ! クマの嗅覚は犬の二十一倍だしな。


 クンクン、とスカーフの匂いを覚えて鼻を頼りにポンたぬきさんの足取りを追う俺。

むむ、この匂いの先は……外だぞ?


「ナント。まさか宿泊客とは別に……まだ登場人物ガ? 推理物としては卑怯すぎる展開デス」


まあ、これコメディだし。

そこは大目に見てもらおう。


「デハ私達でポンたぬきさんを探しに行きましょう、他の皆さんは部屋に戻って貰って……」


「待ってください! 僕も行きます!」


「妾も行くぞ。ポンたぬきは同じお便り仲間じゃ」


名乗りをあげる小畑君とミルクプリン。

お便り仲間て。

初めて聞いたぞ、そんなの。


「良いではないか。それに妾の星であるイチゴ星は地球とは比べ物にならんほど技術が進んでおる。もしもの事があった時、頼りになると思うが?」


むむ、確かに。

太陽系以外の星からやってきたんだ。光の速さの何千倍で飛べるUFO的な物を作れる時点で……地球よりも遥かに技術は進んでるよな……。


「そういう事ナラ……我々で行きまショウ。宿泊客達は警察官二人に任せておけば大丈夫デス。タブン」


 半ば強引な話の進め方でポンたぬきさん捜索へと乗り出す俺達。

さて、俺の鼻が正しければ……むむっ! コッチだ!

この方角は……海の方か?


「ソッチは断崖絶壁ガ……サスペンス物のクライマックスの定番デスガ……」


嫌な予感しかしない。

まあ行くしかない!



 ※



 真夜中の海、断崖絶壁。

その月明かりの下、二つの人影が。


「ポンたぬきさん!」


俺の鼻を頼りに到着したそこには、ポンたぬきさんを後ろから拘束する……見慣れない男が。

ぐぐ、やっぱり新しい登場人物か! なんて強引な!


「そこまでだ! DJシロクマ!」


ポンたぬきさんを拘束している男は、何かのスイッチを俺達にみせつける。

なんだ、アレ。押したらどうなるんだ?


「橋を落とした物……と言えば想像がつくだろう? 探偵君」


「マサカ……爆弾デスカ」


なにぃ! そ、そういえば橋ってわざわざ時限式の爆弾が……

あれ? なんで時限式なん? 普通にポチっとやれば……


「それは作者に言え! 最初はワシも登場する筈だったんだ! しかし途中で「めんどい」という理由で外されたのだ! ワシはその恨みを晴らすべく、吊り橋を落とし電話線を切り、お前達を恐怖のどん底に堕としてやろうと画策していたのだ!」


「ナントモ……凄まじい後付け設定デス。ここまでくると清々しいデスネ。トコロで貴方は誰デスカ?」


そうだ、お前は誰だ! もしかして……お前も俺のラジオのリスナーか?!


「ワシは……ポンたぬきの父親の友人の友人の、それまた友人の友人の……とりあえず知り合いだ!」


まったくの他人やん!

その時、自力で猿轡を外したポンたぬきさんが叫んだ!


「た、助けてだす! こんな人知らないだす! 小畑くん!」


「ポンたぬき!」


崖っぷちに立つ自称知り合いの男とポンたぬきさん。

それと対面する俺達。どうなってんだ。どうしてこうなった?!


「デ、ポンたぬきさんの知り合いサン。貴方の要求は何ですカ?」


ぁ、そうだ。そうしてポンたぬきさんを人質にしている以上、何か要求がある筈だ!


「ワシの望みはただ一つ……。キャラ設定だ!」


キャラ設定?


「そうだ! ワシの名前はコンきつね! どう考えてもパクリだろう! ポンたぬきの!」


た、たしかに……と言う事は、お前も人間の姿をしているが……正体はキツネか!


「その通り。俺は耳かきをする事で人間の姿になる。キツネがどうやって耳かきをするのかなど知らんが、とりあえずそういう設定だったのだ! しかし適当すぎる! もっとちゃんとキャラ設定をしろ! それが俺の要求だ!」


んな事俺達に言われても! それこそ作者に言ってくれ!


「ダメだ! あの作者、ノリで書くのが楽しすぎて当初の目的も忘れているのだ! この連載を始めた理由は何だ! 日頃お世話になっているお気に入りユーザー様の方々への恩返しだった筈だ! しかしどうだ。蓋を開けてみれば意味の分からん推理物に……もはやコメディとしても怪しい代物になってしまったのだ!」


確かにそうだが……しかしそれとポンたぬきさんとは関係ない!

彼女を放せ!


「それは出来んな。もはやここまで来たら悪役を貫くのみ。要求が飲めんというなら仕方ない。この爆弾はお前らの足元に仕掛けてある。そしてそれが爆発すればワシもポンたぬきも爆風で海に落ちる! さあ、ワシを楽しませろ!」


っく、意味が分からんくなってきたぞ!

楽しませろと言われても……何をどうすれば……


「シロクマさん……僕に考えが」


その時、小畑君が俺の肩によじ登り耳打ちしてくる。

なんだ、どうすればいい?


「ポンたぬきを狸の姿に戻しましょう。そうすれば……一瞬ですがスキが出来る筈です」


「そ、そうか……それでいこう。で? どうすればポンたぬきさんは狸になるの?」


「それは……ゴニョゴニョ……ポメラニアンマルチーズシバイヌ……」


なんだと……分かった……。


「相談は終わったか? さあ! 俺を楽しませろ! そして共に天国に旅立つのだ!」


「ま、待て!」


俺はとりあえず時間を稼ごうと話かける!

そう、こういう時は……相手の情に訴えかけるのが定番だ!


「お前の……お前の家族はどう思うだろうな……今のお前を見て! きっと悲しむに違いない!」


「フッ。何を言うかと思えば。俺の家族は……こともあろうに大阪でキツネうどん専門店を経営している! 知ってるか? きつねうどん発祥の地は大阪なのだ!」


それは初耳だった……きつねうどんって、ど〇兵衛でしか食べた事なかったし……


「だからどうしたって話だが、とりあえず俺に家族の話をフッても無駄だ! 俺は動じない!」


しかし時間は稼げた。

今の会話の間に……小畑君はその小さな体を頼りに夜の闇に紛れて……


「とう!」


ポンたぬきさんににじり寄っていた! そのまま男の手へと噛みつき、スイッチを地面へと落とさせる!


「なっ! いつのまに! こ、この狸ふぜいが!」


男は小畑君の尻尾を掴むと……そのまま海へと……って! マジか! ちょ、待て待て待て待て! それは不味い! シリアス展開好きな作者の前でそんな事したら!


「海の藻屑になれぃ!」


海へと投げ込まれる小畑君!

走る俺達! あぁ、ダメだ……間に合わな……


「小畑君!」


その時、ポンたぬきさんが崖から飛び、そのまま小畑君を抱きしめて……


崖の下へと……


「な、なんて事をするんじゃ! もう観念ならん! イチゴ伯爵! その男を北極まで吹き飛ばせ!」


了解(ラジャー)


その時、夜の空へ輝く巨大な飛行物体が現れた!

な、なんだあれは……UFO? デカいイチゴの形をしている。


そのままUFOから射出される淡い光。

しかしその光はだんだんと強烈な……レーザーに……!


「な、ま、まさか……ワシこのまま退場?! ちょ、待……」


「黙れ! 妾の友人を崖の下へ落とすとは……この外道め! 吹き飛べ!」


そのままUFOから射出された巨大な光で……コンきつねは吹き飛ばされてしまう。

なんて奴だ。しかし今後も出てくるような気がする。


いや、それよりも……ポンたぬきさん達を助けないと!


「……その必要はないミタイデス」


その時、崖の下を覗きこんだ探偵が呟いた。

何……まさか……


 そっと、俺も崖の下を覗きこむ。

そこには……氷の舞台が。二人はその上で抱き合っていた。


「た、助かっただす? 一体何が……起きただす?」


そしていつの間にか、小畑君は人間モードに。

二人は氷の舞台の上で……ゆっくりと立ち上がった。

そのまま舞台はせり上がり、まるで月明かりの下で踊る王子と王女のように……。


「す、すごい綺麗だす……」


この氷は……まさかオレンジティー大好きさんが?

何処に居るんだ。俺にはオレンジティー大好きさんの姿は見えぬ。

探偵には見えているんだろうか。


 二人を乗せた氷の舞台は俺達がいる崖より上にせり上がり……ちょうど月がバックになる位置で止まった。オレンジティー大好きさんめ……なかなかロマンチックな事を……。


「お、小畑君……怪我はないだす?」


「それはこっちのセリフだ。バカ……」


小畑君は人間モードでポンたぬきさんを抱きしめた。

月をバックに。キラキラ光る氷の舞台の上で。

月明かりのせいで、舞台は眩しいほどに輝いている。幻想的というのは……こういう事を言うのか。

まるで王子と再会したシンデレラのようだ……。


「ポンたぬき……お前のサクランボ……貰っていいか」


「へ? ぁ、サクランボなら部屋に……」


「違う……」


じっと見つめ合う二人。

ポンたぬきさんは……その意味が分かったのか、そっと目を伏せた。


ゆっくり、唇を重ね合う二人。

まるで祝福するように、氷の舞台は二人を俺達の居る所まで運び、キラキラと舞い散る桜のように霧散していく。



月は、まるで二人を祝福するかのように……輝き続けていた。


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