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ろくクマ

 さて、と言うわけでミルクプリンとミキサーを貸りてきた。

とりあえず自室へとミルクプリンと共に戻ると、ポンたぬきさんと小畑君が不安そうな顔で……人生ゲームをプレイしていた。


「ぁ、やっただす~。わだす、子供四人目だす~」


「……子供四人……たぬ吉……たぬ子……たぬ太……」


二人で人生ゲームって……というか小畑君、子供の名前考えるのは少し早くはないだろうか。


「ぁ、シロクマさん~、どうしたんだす? その後ろの方は誰だす?」


「あぁ、こっちの方は……」


冒頭の、不安そうな顔……は何処に行ってしまったのかは分からないが、とりあえず俺は二人にミルクプリンを紹介。


「妾はミルクプリン! イチゴ星、第21代目の女王にしてグレイナイツのグランディスターバーを治める者なり!」


ふむぅ、後半は良く分からんが仲良くしてあげてね。


「よろしくだすー。っていうか、シロクマさん、それ何もってるだす?」


「あぁ、これ? ミキサーさ!」


人生ゲームの横にミキサーを置く俺。

さてさて、美味しいスムージーを作ろうじゃないか!


「スムージー? って、何だす?」


「要はミックスジュースみたいなもんだけど……って、あ……肝心な事を忘れてた……」


そう、スムージーとは通常凍らせたフルーツなどをミキサーにかけて作る物。

当然ミルクプリンの持っているワイルドベリーは凍ってなど居ない。


「早速問題が……ミルクプリンさん。ベリー凍らせて来て」


「簡単に言いよるの。凍らせろと言われても……時間が掛るぞ」


むむぅ、まともな事を言いおって!

どうしよう、凍らせなければ……おいしいスムージーが出来ない!


「シロクマさん」


その時、小畑君が何やら話しかけてきた。

ちなみにまだタヌキモード。


「さっきの男の子、大丈夫だったんですか?」


「あぁ、うん。体には得に問題ないみたいだけど……ぁ、そうだ。おいしいスムージーを作って持って行ってあげよう!」


「それはいい考えだすな! ところでどうやって凍らせるだす?」


ふむ、そこなんだよなぁ。

今から冷凍庫にぶち込んでも時間がかかる。

現在時刻は……なんだかんだ言って夜の八時過ぎ。下手をしたら明日の朝までかかる。

それじゃあダメだ。俺は今……スムージーを飲みたいんだ!


「なら、こういうのどうだす? わだすの実家の近所にもいたんだすけど……雪女さんに頼むっていうのは……」


ああん? 何を言っているんだね、ポンたぬきさん。

雪女なんてそんなエキセントリックな存在が居るわけ……と、思った時、目の前に並んでいるメンツを見つめる。


人語を話す狸、しかも人間に変身できる能力を持っている。

そしてイチゴ星のお姫様。当然ながら地球外知的生命体。


こんなヤツらがここに揃ってるんだ……。

雪女の一人や二人、この近辺に居てもおかしくはない……よな?


「この中ではシロクマが一番特殊じゃと思うがの。お主は本来ホッキョクに居る筈じゃろ」


「おおぅ、ミルクプリンさん、突っ込みありがとう」


よし、じゃあ雪女を捜索して、果物を凍らせてもらおう!


「ぁ、それ楽しそうだすな~わだすも行きたいだす~」


「じゃあ俺も」


おおぅ、ポンたぬきさんと小畑君がノッてきた。

しかし雪女と一言で言っても……何処に居るんだろ。


「なら中居にでも聞いてみればどうじゃ? この辺りなら一番詳しい筈じゃろ」


「ふむぅ、そうだな」


よし、じゃあ中居さんの所に話を聞きに行こう!

美味しいスムージーを作る為に!




 ※




 俺とミルクプリン、そして小畑君とポンたぬきさんは中居さんの元へと向かう。

その途中、ミルクプリンは小畑君に興味深々だった。ひょこひょこ目の前を歩く小畑君の揺れるシッポに合わせて、ミルクプリンの首も左右に動いている。


「いいのぅ、その尻尾……のう、小畑とやら。ちょっといいかえ?」


「……?」


そっと小畑君を抱っこするミルクプリン! そのまま尻尾に頬ずりし始めた!


「ほほぅ、いいぞいいぞ、この感触……なかなかじゃ! 気に入った!」


気に入られてしまったか。可哀想に……小畑君。

だが、あからさまに頬を膨らませている人物が一人。

言うまでもないがポンたぬきさんだ。小畑君が抱っこされて大人しく尻尾をモフられているのを見て、なんか明らかに焼き餅焼いてる。


「も、もうだめだす! 小畑君の尻尾はもふもふ禁止だす!」


ガバっと小畑君を取り返すポンたぬきさん!

そのまま自分の胸元に小畑君を押し付け、ミルクプリンから守ろうとしている!


「ほほぅ……」


その時、俺は見た。ミルクプリンの目がいやらしく光るのを。


「ちょっとちょっと、ミルクプリンさん……あんまり弄らないであげて……」


「なんじゃ、まだ何も言うとらんじゃろ」


「いいや! 今絶対、新しいおもちゃ見つけたっていう目してたし!」


「しとらんわ。失礼な奴……って、シロクマの尻尾も中々可愛いのぅ」


そのままムギュっと尻尾を鷲掴みにされる俺!

ほんぎゃぁ! よ、よさんか!


「なんじゃ、しっぽを掴まれると……どんな感じなんじゃ? くすぐったいのか?」


「そ、そんなセクハラ発言にはこたえる義理は無い……! というかミルクプリンさん、フィアンセはいいの? 宗太さんだっけ?」


「あぁ、もう飯食ったらすぐに寝てしもうたわ。襲ってやろうと思ったらこの騒ぎじゃろ? いい迷惑じゃ」


ふむぅ、でもいいではないか。美味しいスムージー、飲みたいでしょ?


「まあの。ぉ、中居がおるぞ」


中居さんが疲れ切った顔で、受付の所の椅子に座り込んでいる。

きっとビタミンが足りないんだ。だが問題ない。ベリー系はビタミンも豊富なはずだ!


「中居さん、度々申し訳ないんだけど……この辺りに雪女っている?」


ミルクプリンは疲れ切った顔の中居にワイルドベリーを一つ譲渡。


「あ、どうも……。って、雪女? いるも何も、この辺りの伝承は雪女に纏わる物が多いですね」


なんだと。

それはちょっと聞きたいかも。何か手がかりがあるかもしれん。

 中居さんはミルクプリンから受け取ったワイルドベリーを一口で食べると、目を見開き美味しいと感想を述べる。


「お、美味しいですね……私ベリーって酸っぱい物ばかりだと思ってたんですが……」


「そんな事はないぞ。まあ酸味はある程度あったほうが美味いんじゃがの」


「……良かったら茶菓子でも食べながら……どうですか? 雪女の伝承に興味がおありなら、ちょうどいい物もありますし」


中居さんはそのまま受付の奥、こじんまりとした和室へと俺達を案内してくれる。

そこには古い資料や掛け軸などが保管してあった。なんか白黒の古そうな写真も額縁に入れて飾ってある。


「お茶、淹れてきますね」


「ありがとうございます」


和室の中、畳の上へと座る俺達。

すると小畑君が古い資料へ興味を示しだした。ふむ、こういうの好きなの?


「ええ。学生時代は歴史が好きだったんで……」


小畑君は一冊のアルバムのような物を棚から出すと、畳の上に置いて広げる。

どうやらこの民宿が建て替えられる前の写真のようだ。白黒の物が多いな。相当に古そうだ。


「昔は普通の民宿だったんですね。今は立派な旅館ですが」


あぁ、そういえば……ここの人、なんかここを「旅館」とは呼ばないんだよな。頑なに「民宿」と呼んでいる気がする。別に民宿を見下しているわけでは無いが、俺の中の民宿といえば……アットホームな雰囲気で美味しい料理を出してくれる……そう、まるで実家を思わせるような宿泊施設……


「シロクマさんの言い分だと、まるで旅館は他人行儀で美味しい料理を出してくれない宿泊施設に聞こえますけど」


「そ、そんな事ないぞ。旅館はアレじゃん、なんていうか……贅沢な一日を送る的な……」


「民宿だって贅沢な一日送れると思いますけど。まあ呼び方なんて特に意味は無いんでしょう。何か拘りはあるかもしれませんが」


ふむぅ。拘りねぇ……

すると中居さんがお茶と茶菓子を持ってきてくれる。

むむ、このいい香りのお茶は……なんだ。緑茶の銘柄なんぞ分からん……。


「お待たせしましたー。玉露ですー」


ふむぅ、さすが作者。有名な緑茶出してればいいと踏んだな!


「あら、タヌキさん、早速見てるんですね。古い写真で申し訳ないですけど……」


「いえいえ、とても興味深いです。ところで中居さん、今もシロクマさんと話してたんですけど……ここを民宿と呼ぶのは何か拘りがあるんですか?」


すると中居さんはニコニコしながら小畑君にもお茶を勧める。


「それは……私の思い出話を混ぜて……ご説明しますね」


ふむぅ、小さいころ……。


「元々、ここに民宿を立てたのは私の曽祖父に当たる人物なんです。シロクマさんにはお話しましたが、九年程前に叔父が宝くじを当てて……ここを今の形に建て直したんです」


ほほぅ、ここを建て直したのは中居さんの叔父さんなのか。


「最初は皆反対してたんですけどね……」


ふむぅ、そうなんや。


「叔父は民宿では食べていけない、折角いい土地があるんだから、もっと生かすべきだって……それはもう、私の父と大喧嘩してました」


ほほぅ、確かに土地はいいよな。

吊り橋一本で閉じ込められるのはどうかと思うが、逆に言えば静かでいいところだし……。


「最後は父が折れたんですが、条件を出したんです。どんなに大きな建物になっても、民宿と名乗らせて欲しいと」


ふむぅ、でも旅館業法でも定められてるよね。こんだけ大きかったら旅館って名乗らないといけないんじゃ……。


「勿論書類上では旅館となってますが、私達は民宿と呼ぶようにしてるんです。今は亡き父の遺言ですので……」


「え?! お父さん……亡くなっていらっしゃる……?」


「はい。ここを建て直して……しばらくして病で……」


そうなのか……。

ここを民宿と呼ぶのにはそんな理由があったんだな。


「それで、雪女の伝承に興味がおありなんですよね?」


うむぅ、その通りよ。


「この辺りでは有名な話なんですが……昔、蛇の神様が人間の嫁を欲しがったという所から物語は始まります」


蛇の神様?

なんか雪女と関係なさげな神様出てきたな。


「しかし村人達は、若い娘を生贄に出す事を当然ながら拒みました。すると、蛇の神様は一人、また一人と村人達を丸呑みにしていったそうです」


こわっ! こわい!

ちょ、この小説コメディだから!


「そんな時、一人の少女が名乗りを上げました。その少女は心を自分で閉ざし、氷のような表情で神様の元へと嫁に行きました」


なんという……悲しいお話じゃないか。


「しかし、蛇の神様は……笑いもしない少女をつまらないと言い、池に沈めて殺してしまいました」


うおぉぉぉい! 日本昔話って大抵エグいの多いけど!

まさかこんな所で聴く事になろうとは……。


「でもその瞬間、少女が沈められた池は一瞬で凍り付きました。蛇の神様も池と一緒に凍ってしまい……死んでしまったそうです」


ふ、ふむぅ……


「それから毎年、冬になると吹雪の向こうに……白い着物を着た少女が彷徨っているという噂が立ち始め、村人たちは恐らくその少女は蛇の神様の嫁になった子に違いないと、祠を立てて供養する事にしました」


なるほど……それが……雪女だったと。


「本当かどうかは知りませんが、実際にその子を見たって人も昔居たんですよ。なんでも吹雪の中、遭難していた所を助けられたって……まあ、その人も今はどっか行っちゃいましたけど」


ふむぅ、これは本当に雪女居るかもな!

こっちには宇宙人や喋る狸も居るんだ。雪女の一人や二人……居るはずだ!

そしてワイルドベリーとトマトを凍らせてもらおう。


「トマトでしたら売店で売ってますよ」


ふふ、商売上手め!

あとで買っていくぞ。


「ありがとうございます」


さて、非常に興味深い話が聞けたわけですが……

ってー! 他の連中寝てる! 妙に静かだと思ったら!


「はっ、すまんすまん。ついウトウトと……」


まあ、もういい時間だしな。

寝た方が良くない? 


「うむぅ、では雪女の捜索はシロクマに任せるとするか……」


「だす……わだすも眠くて……」


いいよいいよ、元々スムージーは俺が作りたいとか言い出したんだし……。

明日の朝、美味しいスムージー飲ませてやるからな!


「おねがいだす……」


そのままポンたぬきさんは小畑君も抱っこして出ていく。

ミルクプリンも自室へ。


さてさて、じゃあ俺は雪女を探しに……でも何処を探せば……


「シロクマさん。もし雪女を探すなら、まず祠に行ってみては如何でしょうか」


あぁ、供養するためのがあるんだっけ。

うむぅ、では行ってみよう。それって何処にあるの?


「ここから北に進んだ所に、小さな池がありますので……そこにいけばすぐに分かると思いますよ。でも気をつけて下さいね。夜ですし、池に落ちたら……」


「大丈夫大丈夫。シロクマは泳ぎも上手いから」


よし、では行くぞ!

雪女を探しに!




 ※




 売店でトマトを購入し、更に中居さんから懐中電灯を借りて民宿から出ようとした時、例の探偵が話しかけてきた。

むむ、何かようか。


「何か用カっていうか……危険だから外には出るなって言われたでしょウ? シロクマさんなら大丈夫だとは思いますガ……何処に行くんデス?」


「あぁ、雪女を探してワイルドベリーとトマトを凍らせてもらおうと思って」


「そんな理由で雪女を探す人……クマは初めてデス。面白そうデスネ。私もお供してイイデスカ?」


別に構わんが……アンタはアンタで仕事あるんじゃないの?


「例の泣き声がするっていう心霊現象ですカ? 大方の予想は付いてまス」


そうなのか。まあいいや。

じゃあいくぞ、探偵! 


「お供しまショウ。イザ、シロクマ探検隊の出動デス」


意気揚々と民宿から雪女を探す旅にでる俺達。


さて、物語の主旨からだいぶズレた行動をしているか、このままで大丈夫なのか。


とてつもない不安に襲われつつも、俺達は民宿の北にあるという池を目指して歩き続けた。




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