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さんクマ

 福井県の温泉旅館……いや、民宿にやって来た俺達。

小畑君ができた人間だった為、安心した俺は露天風呂を堪能しようと赴いたが……そこで待っていたのは、DJシロクマのラジオ番組にお便りをくれた、イチゴ星出身のミルクプリンさんだった。


「ところでシロクマ、今日はワイルドベリーも大量に持ってきたんじゃ、あとで食うじゃろ?」


「あぁ……じゃあ貰おうかな……」


今俺は、欧米風の大人の美女と、あろうことか混浴している。

ちなみに一度外に出て確認した所、ここは男湯で間違いない。もちろんミルクプリンさんにも「ここ男湯!」と忠告したが、帰ってきた言葉は「で?」だった。器の大きさが違いすぎる。俺ももっと精進せねば。


「あー、それにしても……地球の風呂という文化もいいもんじゃな。妾の星には、入浴という文化が無いからの」


「そうなの? じゃあ体洗う時どうすんの」


「体なんぞ洗う必要ないじゃろ。妾の星の者は地球人と違って老廃物など出ん」


マジか。すげえ。それって汗すらかかないって事?

いや、まあシロクマも人間みたいにダラダラ汗はかかんが。


「ときにシロクマ。今日は妾のフィアンセも一緒なんじゃが……」


「……フィアンセ?! え、それって例の……一緒にワイルドベリーやろうって人?」


「そうじゃ。で、そのフィアンセに……その、なんじゃ、楽しんでほしいのじゃ」


何いってんの、この人。

楽しむも何も……楽しいに決まってるじゃない。アンタみたいな美人と一緒に温泉旅行出来てんだから。


「地球人は何が好きなんじゃ? 妾はどうすればいいと思う?」


「ラジオ外でも相談か……まあ美味しい料理食べて、ミルクプリンさんが楽しめれば彼も楽しいと思うけど……」


「そういうのはいいんじゃ! 妾が何かしたいのじゃ!」


あぁ、まあ……そんな理由で納得するような性格じゃないよな、この人。

といってもなぁ……彼の好きな事なんぞ俺は知らんし……あぁ、しかし万国共通で男の夢がある。


「じゃあ……膝枕で耳かきとか……」


「……なんじゃそれは。そんなん喜ぶわけ……」


「いやいやいやいやいやいや! これで喜ばない男は居ない! 居たら俺がぶっ飛ばすわ!」


「そ、そんなものかの……じゃあ試してみるとする……」


うむ、その意気だ……と、その時ガララ……と誰かが入ってきた音が。

そのまま露天風呂の方に歩いてくる! やばい! 


「ちょ! ミルクプリンさん! もぐって!」


「はぁ? なんでじゃ」


「いいから! ここ男湯なの! アンタが居たら色々と不味い事が起こりそうだから……」


「しかし潜れって……中々熱いぞ、この水。どんな拷問……」


「だってそれ以外に手段が……」


と、その時……露天風呂の扉が開かれた! 

ぎゃー! ち、ちがうのよ! 俺が連れ込んだワケじゃ……


「……ん?」


「お、主も来たか。宗太……」


ん? 宗太? って、もしかして……この男……


「み、ミルクプリンさん……なんで男湯に……」


「シロクマと同じ事言うの。妾の国に男も女も無いわ。あるのはイチゴを愛する心のみ……」


「だ、ダメですー!!!!!!!!!!!!!!」


その時、俺の鼓膜を破らんと大声を出す宗太君!

ぎゃぁぁぁぁ! 耳が! シロクマの結構聴力高い耳が!


「ここは地球なんです! 地球の規則守ってください!」


「相変わらず固いの。良いではないか。いずれ……妾がこの星の王者となって、第二のイチゴ星とするのじゃからな!」


えぇ! やっぱりこの人侵略者?!


「そ、そうはさせません!」


むむっ、宗太君が立ちはだかるのか!

フィアンセである彼が、ミルクプリンを倒せるのか?!


「もしミルクプリンさんが地球を侵略するというのなら……アレしますよ!」


アレってなんだ!


「ひぃ! そ、それは勘弁してたもれ……」


ミルクプリンが凄い怯えている! アレってなんだ?!


「じゃあ、地球の規則に従ってください。分かりましたね」


「わ、分かったから……アレだけは勘弁してほしいのじゃ……」


だからアレってなんだ! ミルクプリンをここまで怯えさせる「アレ」……すごい気になるんだけど。


この宗太という青年……ミリクプリンに何を……。


 そのままトボトボと露天風呂から出ていくミルクプリン。

マジか、しっかり手綱握ってるじゃないか、宗太君。


「失礼しました……えっと、DJシロクマさん……ですよね?」


「ほほぅ、名前も聞いてないのに……良く分かったな、若造」


「初対面で若造って初めて言われました。それはさておき……人語を話して露天風呂に入ってるシロクマなんて……他にはそうそう居ないんで」


そうか……寂しい世の中だぜ。


「あぁ、そうだ……シロクマさんにはお礼を言っておかないと……」


「ん?」


「ラジオで勧めてくれたじゃないですか、温泉旅行行けって……そのおかげで……ミルクプリンとさんと来れたんです。ありがとうございました……」


ふふぅ、礼には及ばんぞ。


「ところで……大変でしたね。今日は……例のポンたぬきさんを愛でる人と一緒なんですよね?」


「あぁ、うん。でもなんとか許してもらえたよ。中々いい男で安心したよー」


「それは良かったです……」


その後、宗太君と他愛のない話をしつつ、小一時間温泉に浸かった俺。

ふふぅ、小畑君に許してもらえた安心感と合わせて日ごろの疲れも吹っ飛んだぜ……。




 ※




 それから旅館内を適当に散策しつつ、部屋に戻るとポンたぬきさんと小畑君が仲良く布団で眠っていた。なんか癒されるな……まだ食事まで時間もあるし……このまま放っておくか。目が覚めたら温泉に入って貰えれば……


「……ん?」


その時、部屋に飾ってある絵画が微妙に傾いている事に気が付いた。

俺はこういうの放っておけない。傾いているのなら直すべきだ! と、そっと静かに絵画の角度を直そうと一度取り外す俺……って……


「……お、お札?」


絵画の後ろ……壁になんか仰々しいお札が貼ってあった。

いや、待て……なにこれ、怖すぎるんですけど……。

え? こ、この宿って……まさか出るの?! いやいやいや! 幽霊なんて、そんなもん居るわけ……


「見つけてしまわれたのですね……」


「え? ぎゃー!」


その時! いつのまにか後ろに中居さんが!

俺の叫び声で小畑君とポンたぬきさんも起きてしまう!


な、何アンタ!


「何と言われても……中居ですが」


「そういう意味じゃなくて! っていうか……ちょ、こっち来て!」


小畑君とポンたぬきさんにお札の事を知られるわけには行かん!

二人には楽しんでもらわねばならんのだ!


 そのまま中居さんと一緒に廊下へと出て、お札の事について問いただす俺。


「実は……この旅館は数年前まで、ごく普通の……民宿だったんです。ところがある日、宝くじが当たってしまって……二億円」


マジか。すげえ。

いや、で? お札の話を聞きたいんだけども。


「はい、今のはただの自慢です。それでお札の事なんですが……実は、度々お客様からクレームがあって……夜、寝ているとどこからともなく……女の泣き声のような物が聞こえると……」


いやいやいやいや、マジで怖いんだけど……。

お祓いとかしたの?!


「勿論しました。しかし、だんだん女の泣き声から子供の泣き声……お父さん、お母さん、お爺さん、おばあさんの泣き声まで聞こえるとクレームが多くなって……」


それって、その人の家族が泣いてたんじゃない?


「バリエーションは時と共に増えていく一方で……最近ではライオン、ゴリラ、マントヒヒ、ゾウ、キリン、ナマケモノ、エリマキトカゲ、ヤンバルクイナの泣き声まで聞こえると、お子様を中心に動物園みたいだと楽しんで頂いて……」


「凄いマニアックな泣き声混ざってるんだけど……いや、ちょっと待って……何の話してるんだっけ……」


「え? 動物園を増設してカップルを呼び込もうって話ですよね? 君の方が可愛いよ……っ」


んな話してねえよ! 主旨変わりすぎだろ!

俺がいつそんな提案したよ!


「でもご安心ください。実は本日、その筋では最強のゴーストバスターと名高い方をお招きしていますので」


「主旨分かってんじゃねえか! って、ゴーストバスター? そんな人居るの?」


「はい、噂では数々の難事件を解決した方々だとか……もうそろそろお見えになられると思いますよ」


マジか……そんな連中マジでいるの?

かなり胡散臭いんだけど……。


 その時、玄関の方から「ごめんくださーい」と声が。


「ぁ、噂をすれば何とやら……お見えになられたんじゃないんですか?」


「マジか……。というか、泣き声だけだよね? 実害無いんだよね?」


「勿論ですよ。宿の関係者が次々と季節外れのインフルエンザに感染してるなんて事は秘密です」


「地味に嫌な実害あるじゃねえか。っていうか秘密なら言わないで欲しいんだけど」


「申し訳ありません。言いたくて言いたくて仕方なかったんです」


なら仕方ない。ゴルァ。


 


 ※




 そんなこんなで、中居さんの事情聴取を終えた俺は部屋に戻り、小畑君とポンたぬきさんには「何も無いよ!」と言いつつ「温泉に行っといで!」と無理やりに部屋から追い出した。


「……お札……剥がすか」


俺は見た事もない物を信じるタチではない。

幽霊なんぞ見た事ないし、何かあったとしても……泣き声とインフルくらいなら最悪……死にはせん。

それよりも、この楽しい旅行がお札一枚で台無しになる方が問題だ。でもインフルにかかるのは嫌だな……。


「……まあ、大丈夫だろ……」


と、お札に手を掛けた、その時


「オヤ、何気に本物のお札じゃないデスカ。剥がすのはオススメ出来ませんネ」


って、ギャー! また真後ろに誰か居る!

今度は誰だ! 


「フフ、どうも。いつもラジオ楽しませて頂いてマス。私こういう者デス」


「え? ぁ、はい……どうもご丁寧に……」


と、名刺を手渡してくる女性。っていうか俺にプライバシーは無いのか。身元バレバレやん。まあ別に問題ないけど……。


というか、また欧米人……? いや、どちらかと言えばロシア人っぽい。ミルクプリンとは別タイプの美人だ。とりあえずと名刺を受け取る俺。


名刺には、探偵派遣会社……真祖の森……クリスランデルンシェルスモラクサン……と書いてある。なんだ、この長ったるい意味不な名前は……。


【注意:同作家の《真祖の森》という絶賛エタ中の作品の登場人物ですが、別にそっち読まなくても大丈夫です。これは宣伝ではありません】


「長いのでクリスで結構デス。ところでシロクマさん、お札を剥がすのはオススメしません、そのお札、ちゃんとした人が張ったみたいナンデ」


「そ、そうなんすか……」


「ハイ、魑魅魍魎の類が出る出ないは別として、専門職が貼ったお札を下手に剥がすと想定外の事が起きる事もアルノデ……シカシ、同じ部屋の男性と狸が気味悪がられると剥がそうとしてたんですヨネ?」


よく分かるな。


「これでも一応探偵ですのデ。そこで折衷案(せっちゅうあん)デス。このお札に……こう……」


そのままマジックでお札にラクガキしだす自称探偵。

いや、剥がすより罰当たりな事してねえ?


「大丈夫デス。これで何かあっても私の部屋じゃないのデ」


ゴルァ


「冗談デス。これで見つかっても安心ですヨネ?」


チラ……とお札を確認。

気味の悪いお札にラクガキされたのは、カー〇ルおじさんの似顔絵。

いや、意味わからん上に更に怖いのだが。


「カー〇ルおじさんに謝ってクダサイ。彼は最高のフライドチキンを作り上げた英雄デス」


まあ、それについては全面的に肯定するが……。


「なら万事解決デス。では私はコレで。何か困った事があれバ言ってくだサイ」


そのまま部屋から去っていく自称探偵。むむ、他にも連れが居る様だ。子供に柴犬……って、犬連れてきていいのか? こっちはシロクマと狸居るが。


「まあいいか……気にしたら負けだ」


そのままカー〇ルおじさんがラクガキされたお札に絵画を掛けなおす俺。

これで……大丈夫……なのか?


まあいい。今回は楽しい楽しい温泉旅行なのだから!


さて……じゃあ飯まで……海でも眺めながらビールでも飲むか……。




この時、俺はまだ知る由もない。


あの……恐ろしい事件を……。




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