第二話 弟の恋 1
『…明日、彼女と会うんだ』
そう弟の総介が言った次の日の土曜日、俺と兄の京一は、
朝から自転車で出かける総介を尾行した。
やはり弟に彼女がいるということが気になり、
兄に言ってしまった。
兄はとても面白がり、その彼女を一目見たいと言い出し、今に至る。
今日の部活の朝練は俺も兄も休んだ。
「本当なんだろうな? 龍」
総介に気付かれないように走りながら、兄は俺に聞く。
「総に彼女がいるなんて」
「総介自身が、そう言ったから…」
やはり、俺と兄には弟に彼女がいるというのが、意外過ぎた。
弟は家族の中で一番真面目で女っ気がなく、
あまり喋らない。
しかしそれを、俺に言うとは…
「まあ、着けば分かるな」
「総はどこ行くんだろうな?」
「こっちの方には確か…」
大型スーパーがある。
買い物か…?
自転車置き場に自転車を停める、総介。
スーパーに入り、エスカレーターで二階に上がる。
俺と兄もしばらく待ってから、エスカレーターにのる。
二階に着くと、文房具も売っている本屋さんの前のベンチに総介は座っていた。
俺と兄は離れた通路から見張る。
「まだ来てないようだな」
「! あれじゃねぇか?」
一人の女性が総介に近づく。
というか、彼女は…
「おはよう! 総ちゃん。 待った?」
「…おはよう。 いや、大丈夫だ」
「ぶっは! おいおい! 龍! まさかの年上だぜ? マジかよwww
総ちゃんって呼ばれて… ぶっ!」
「…彼女は…」
俺は総介の彼女をよく見る。
お嬢様のような長い髪。
間違いない。
「…渡辺だ」
「え?」
「俺と同級生だった、渡辺桃子だと思う」
「高一?」
「ああ」
「まさかの知り合い!?」
「中学は一緒で、高校は…どこだっけな…」
俺達が少し混乱しながら話している間に、二人は文房具を見始める。
「あっ、あった。 新しい筆が欲しかったんだ」
「…また新しい絵を描いているのか?」
「うん。 …ごめんね。 本当にこんなのに付き合わせて…」
「…いや、俺も楽しいから」
「…よかった」
その後は、本と雑誌を見る。
「あっ! この本、新刊が出たんだ!」
「…面白いのか」
「うん! 今度、貸してあげるね」
「…楽しみにしている」
彼女は筆と本の会計をすませる。
「お待たせ。 次、どこ行く」
「…俺はどこでも…」
本屋さんから出て来る二人を俺と兄貴は見つけた。
「…フッ ダメだな 総は。 男が優しくリードしなきゃ、彼女は退屈してしまうぜ?」
「…はいはい」
少し色々なお店を見て歩いて、二人がゲーセンとペットショップに行ったのが分かった。
見終わり、一階のフードコートに行く。
「俺達は昼どうしようか?」
「兄貴。 もう帰らねえか? 見てて、虚しくなってきた」
「…そうだな。 いつもと違う総が見れたから、もういいか!」
俺達はスーパーを出る。
「いやー。 何で、俺には彼女出来ないんだろうな? 野球部のエースなのに」
「男子校だからなー」
「くそー」
俺達は家に帰る。
総介達はお昼ご飯を食べた後、最後に雑貨屋さんを見た。
「こういうお店だと総ちゃん、居づらいんじゃない?
もう帰ろうか」
「…いや、そんなことはないから…
それより、あの中でどれが好き?」
ヘアゴムの棚を指さす。
「わぁー。 どれも可愛い… でも、私はこれが好きかも」
ピンクのリボンがついたゴムを取る。
「…確かに桃子に似合うと思う。
これをプレゼントにあげる」
「えっ。 悪いよ、そんな…」
「…ただ、俺がつけて欲しいだけだから…」
総介の顔は少し赤くなっていた。
「…総ちゃん…」
総介はヘアゴムをレジに持って行く。
しばらくして、小さな袋に入ったヘアゴムを彼女に渡す。
「…つけてくれたら、嬉しい…」
「ありがとう。 大事に使うね」
弟が大人の階段を一歩進んだことも知らずに、俺と兄貴は帰る途中にコンビニで買った
アイスを家で食べていた。