第一話 プリン事件
俺達三兄弟は小さい時に約束した
「父ちゃんと母ちゃんがいない分、俺達は協力し合おう!」
昔から、父親は単身赴任で母親もフルタイムで働いていた。
そんな家庭だったから、俺達は協力することにした。
……小さい時はそのはずだったんだ。 なのに、今は……
高一 春
俺は「高木 龍二」。
この春から地元の公立の男子高校に入学。
小学校からの親友と新しい友達もできた。
勉強はあまりできないが、部活の陸上を頑張っている。
今日も学校の周りを何周かする。
部活動の時間も終わり、自転車で家に帰る。
疲れていたが、俺の気持ちは晴れていた。
(やっぱり、いい汗かいたあとのプリンは最高だな!)
俺はこの前買った、三個入りのプリンを楽しみにしていた。
「ただいまー」
「…おかえり」
二歳年下の弟、つまり中二の「総介」がリビングでスマホをいじっている。
俺は手を洗って、軽い足取りで冷蔵庫に向かう。
「総介もプリン食べるか?」
「…ああ」
冷蔵庫を開ける。
「…ないな」
総介の冷たい発言の通り、確かにプリンはなかった。
「どういうことだ…? まさか…」
「おーす。 ただいまーっと」
(…兄貴か?)
俺の一歳年上の兄、高二の「京一」がチャラチャラと帰って来る。
こうみえて何故か、同じ高校の野球部のエースだ。
「あん? 二人してどうした?」
「兄貴… 俺の買ったプリン食べたか?」
「ああ」
俺は苦しいが質問を続ける。
「三個も食べたのか?」
「まさか。 母さんも食べたんだよ」
「俺は食ってないぞ」
総介は反論する。
「二個食べただけだって」
兄貴は笑いながら手を振る。
俺はブチ切れる。
「二個も食べるな! 家族の分も考えろ! 元々、俺が買ったんだ!!」
文句を立て続けに言う。
「あっはっは。 夜、腹が減ってな。 今度また買って来てやるよ」
兄貴は笑ってリビングを出る。
「…プリンすら、取り合いか…」
この家はもはや戦場か…?
「…プリンは簡単に作れるらしいぞ」
総介はスマホをいじって見て、冷蔵庫を開ける。
「卵と牛乳があるから作れるな… 今から作るか?」
「……総介」
この戦場にも味方はいたらしい。
二人で台所に並ぶ。
総介は今日は俺が当番だった、夕飯を作るのも手伝ってくれた。
「悪いな。 総介」
「…いや」
いつもよりも明るい弟に違和感を覚える。
「なんかいい事でもあったのか?」
「…明日、彼女と会うんだ」
俺は固まる。
やはり俺は戦場で孤立していた。
「…京兄には言うなよ。 口が軽いから」
残念。俺の口も軽かった。