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『さよなら』なんて言わせない。  作者: 夢月桜
第一章 日常の終わり、非日常の始まり
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いつも通りの日常。

 あっ、まただ。

 また、この人は私とは違う何かを見ている。


「ねえ、ねえったら!乃亜瑠のある?私の話聞いてるの?」

「…ごめん、ぼ~っとしてた。何の話をしていたんだっけ?」

「も~、また~?」

「なにかあったんですか?乃亜瑠さん」

「ううん、何でもないよ。ただ、ぼ~っとしてただけ。ほんと、それだけ」


 この人は白羽乃亜瑠しらはねのある

 学校一の美人さんで、つねに学力も一位。

 要するに才色兼備というあれだ。

 唯一の欠点…といえば、こうして人の話をあまり聞かず、マイペースなところだろうか…。


「今度みんなと集まる約束したでしょ?『あの場所』で!」

「え?そうだっけ?土曜?日曜?」

「そこもさっき言ったじゃん!日曜!朝の十時に迎えに行くからね。ねっ?美環みかんちゃん?」

「そうね」

「で?なんのために集まるんだっけ?」

「もう…」


 黄巣美環こうそうみかんちゃん。

 この人は乃亜瑠のことをものすごく尊敬というか…まあ、なにか特別なものを向けている。

 どんなびっくりするようなことが起きても、乃亜瑠と美環ちゃんだけはいっつも冷静なんだ。

 でも彼女、昔の事とか言われるとものすごく殺気を放ったり、物理的何かを放ったりするから滅茶苦茶怖い。

 

「たまにはあの場所、掃除とかした方がいいでしょ?そのために」

「あー、そうか。いろいろ忙しかったもんね」

「そうそう、みんな自分の事で忙しくてなかなかそろう機会なかったもん」


 そう、私たちは忙しい。

 もう大人に近づいてきている。

 

「あの場所、壊されていないといいけど…」

「み、美環ちゃん…そんなマイナスなこと言わないでよ…」

「だってもう何か月も行ってないでしょ?今の時代の子どもに取られてるか、ボロボロになっているか…まあいろんな可能性があるわね」

「私、ホームレスの居場所にされてる方に一票ね」

「乃亜瑠さんがそういうなら私も」

「も~、なにその組織票!?」


 さっきから私たちが言っている『あの場所』、それは私たちはまだ小学生のころ裏山で作った秘密基地の事だ。

 中学時代の後半…つまりは受験シーズン前までは使ってたんだけど、いざ受験シーズンが始まると一気に来るペースが減ってしまった。

 まあ、中学生となると部活とかが相まって全員揃うなんてことが珍しくなったんだけど。

 そして無事私たちは受験を終え、さあ秘密基地の方はどうなっているか確かめようということになったのだ。

 なかなかみんなのタイミングが合わなくて結構時間が経ってしまったけど…。


「じゃあ、私はボロボロの方に一票でいい?だから掃除道具持参!服の方は動きやすい且つ汚れてもいい服を着ること!以上!」

「「おお…」」


 私の言ったことに二人とも声を漏らしながらパラパラと疎らな拍手した。


「ちょっと二人とも、私の事馬鹿にしてない?」

「いんや?全く?ねえ?」

「そうですね、乃亜瑠さんの言う通りです」

「乃亜瑠に話を振った私がばかでした…」


 私は肩をガタっと落とす。


「し、白羽さん。あのちょっといい?」

「乃亜瑠さんに何の用なの?」


 乃亜瑠に話しかけてきたクラスメイトに美環ちゃんは圧をかけてきた。


「ひぃ…!」

「み、美環ちゃん!圧がすごいよ⁉」

「美環、あんたそんなんじゃ嫌われちゃうよ?」

「クラスメイトに嫌われても、乃亜瑠さんに嫌われなければ平気です」

「わあ、鋼のメンタル!」

「『わあ~!』じゃないでしょ⁉注意しなよ⁉」

「はいはい美環、圧をかけるのやめようね~。…で、私に何か用かな?江井日子さん?」


 乃亜瑠は私と美環ちゃんそれとあとでいう幼馴染たち以外の人の事をフルネームで呼ぶ癖がある。

 もちろん、先生の事さえも…。


「あ、あの…ここわからないところがあって…教えてほしいの」

「どれどれ?…ああ、ここはね…をこうするといいよ」

「…本当だ。わかりやすい…!ありがとう、白羽さん」

「いいよ、このくらい。また聞きにおいで」


 こういうとこを見ていると本当に頭いいんだなって思う。

 なんで、私と同じ学校に行こうとしたんだろう?

 もっと上の高校生けたと思うんだけど…。

 例えば、海李くんの通っている『東里寺高等学院』とか…。

 でもあそこはお坊ちゃまお嬢様の方が多いのかな?

学費もそれなりにかかっちゃうし、乃亜瑠なりの親孝行だったりするのかも。

 美環ちゃんはまあ、乃亜瑠の行くところならどこまでもっていうスタイルだから何となく…。

 乃亜瑠が東大行く行くって言ったら本気で着いていきそうなところが怖い。

 

「と、とにかく!私が言ったこと忘れないでね?」

「うん、わかった。みんなと会えるのも楽しみだよ」

「私は…そうでもないです」

「なんで?柚希お兄ちゃんに会えるじゃない」

「やめてください、その言い方。それが嫌なんです。あと海李、あいつは絶対乃亜瑠さんのこと、いやらしい目で見ています。違いありません。あとあのスポーツバカも」

「スポーツバカってそれ陽翔のこと?超ウケる」

「ウケるとかではなくて…、私はあなたの事を心配して…!」


 そりゃまあ、乃亜瑠めっちゃ美人さんだからね。

 テレビで見る女優さんやアイドルよりもきれいだって思うもん、私。

 それに優しいところもあるし…。

 私が男性だったら、即プロポーズしちゃいそうな気がする。


「たぶん、それ思い込み激しすぎると思うよ」


 いやいや、海李君は割とマジで本気で乃亜瑠のこと想っているからね!?

 ちょっと鈍感なところあるんだよね…。

 柚希君のほうはどうだろう?

 美環ちゃんとおんなじ感じなのかな?

 でも、違う学校にいるんだよね。

 両親の事もあるんだけど…。


「それじゃあ、私部活行くね」

「あー、クレア美術部だっけ?絵得意だもんね」


 ああ、遅くなりました。

 私は桃石ももいしクレアって言います。

 名まえでお察しいただけるように、私はハーフなんだ、ついでに言うとヨーロッパ系の。


「頑張ってね」

「うん、乃亜瑠はまだ部活決めてないの?」

「うーん、勧誘はされているんだけど…迷ってんだよね~」


 そういって、乃亜瑠はどこから出してきたのだろうか、どさっと大量の勧誘の紙を出した。


「うわっ⁉何この量…」


 吹奏楽、演劇、放送、文学などの文化部と弓道、テニスなどの運動部…本当にいっぱいきてる…。


「私は乃亜瑠さんが行くところならどこまでも」

「いや、あんたは自分の好きなことしなよ」

「私の好きなことはあなたを支えることなので」

「これだよ…」

「ハハハ…。早く決まるといいね、それじゃあまた明日」

「うん、また明日…じゃなくって明日は土曜日だよ!」

「じゃあ、言い直そう。また日曜日に」

「うん、忘れないでね?」

「大丈夫だよ、たぶん」


 こういう時の乃亜瑠は信用できないんだよな…。 

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