43話 9匹のネコ
それから数分後、リリムさんの魔法のような魔法によって、俺たち4人は安全に国へと帰還した
なにかさらなる問題が起こるのではないかと心配していたが、それも杞憂だったようだ
そういえば、この丸一日はなかなかショッキングな時間だった
俺が一昨年に見た異世界冒険ファンタジー小説主人公にでもなった気分だ
実際に体験してみると、彼の勇気には心底驚かされる
生き返れるからこそ死の恐怖が薄いとはいえ、恐怖が微塵もないわけではない
それに対して彼といえば、他人のために自らの命も差し出そうとしている
……まあ存在しない、誰かに作られた命であるが故にやすやすと命を投げ出しているのかもしれないが
もしくは命を創った誰かに、投げだすことを強要されているのか
「どういうことか説明してもらえますか」
初めましてと挨拶をすることもなく、ぷりぷりと頬をかわいらしく膨らませ、幼女の姿をしたルススが机をたたいた
「どういうことと聞かれても、私はただ君の相棒君の救助要請を呑んだだけさ。まさか幼女に退化しているとは思わなかったけどね」
対して魔王さんもといトラスさんは彼女の年甲斐のない姿を見て腹を抱えている
「そういうことじゃないです。なぜわかっていながら彼女を救助に向かわせたんですか!」
「魔王に何かあったとなれば、できる限り迅速な対応ができる方がいいだろう?それに彼女が適任だったってだけさ」
そう言うトラスさんの顔にはさっきよりも深いしわができている
「しかししかし、400年も前のことを根に持って……。変わらないのは姿かたちだけにしてくれよ。……おっと、姿もかたちも、今は変わってるんだったっけ」
気が抜けていたからか、口からよだれが噴き出した
「……何笑ってるんですか」
「すまん、呆けてた」
返事の代わりにルススはジト目を向けてきた
「それで、ルススの呪いというか病気というか、俺としてはなんとも言い難いんだが、この症状は治るのか?」
それを無視するのは男としてはなんとも心苦しいが、今回ばかりは仕方ないだろう
「そのことに関してだが、その呪いを完全に解除するのはほぼ不可能だ。かけた本人が直接解呪するしかない。君も、それはわかっているだろう?」
「ええ、残念ながら。私が解呪できない時点でただ物でないことはわかってましたし」
誇らしげに言う彼女だったが、どうにも格好がつかないのは見た目が幼女だからだろうか
「それでも、呪いの効果を薄めることはできるだろう。君や彼がやったみたいにね」
「それは大体どのくらいまで?」
「そうだね……、大体全盛期二歩手前くらいかな」
かなりの前進じゃないか
「というわけでルスス君、しばらくの間監禁させてもらうよ。君の相棒には許可ももらってるから」
「はぁ⁉どういうことですか⁉」
驚きの余り、ルススの体が大きく跳ねる
「そのままの意味さ。うちの優秀な奴ら何人かでグループを作って、君の呪いを研究するんだよ。大体2~3ヶ月でさっき言った状態まで戻れる予定だ」
「嫌ですよ!そんな実験動物みたいな」
「良いのかい?そんな貧弱な体じゃ、一週間と生き残れないよ。これは君の保護も兼ねているんだ。そう考えると、悪いことではないだろう?」
「確かにそうですが……。でも、シンが守ってくれます!ですよね、シン?」
「急にこっちに振ってくるなよ……」
雨空の下、段ボールに入れられた子犬のような目でこちらを見てくるルススをしり目に、俺は首を振る
「悪いが俺もトラスさんの言うことには賛成だ。呪いの研究とかは、本職の方が手練れてるだろうしな」
「と、いうことだ。安心してくれよ。痛くするつもりはないし、並程度だがストレスなく生活できるスペースも用意できる。」
「…………わかりました」
不満そうな表情を見せたが、折れてくれたようだ
「それじゃあヤクス。彼女を連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
背後から突然、ヤクスさんの声が聞こえる―――この部屋には俺を含めて3人しかいなかったはずだが一体どこから……
彼女は後ろに構える扉を開き、ルススの手を握りエスコートする
それに反抗する様子はない―――悲しそうな顔もしていない
ふと、思い出したかのようにヤクスさんが振りむいた
「頭の方、大丈夫ですか?」
簡単なジェスチャーとともに心配を投げかける
「おかげさまで」
それに俺は皮肉を込めて、両手を広げた
そうですか、と彼女が呟くとそこにはもう彼女らの姿はなかった
「彼女と会ったのはこれで二回目だが、全然変わっていない。可愛らしい少女のままだ」
何かを懐かしむように、トラスさんは呟いた
「あれ、前に会ったことがあるのか?トラスさんの名前を聞いて首傾げてたから、てっきり会ったことがないと思ってたんだが」
「ああそれは、私が名前を変えたせいだよ。過去に、400年ほど前に彼女とは一度だけね」
なるほど
だから、『ああ、剣ですか』か
「それでそれで。二人きりになったわけだが、私としては君の話が聞きたいね」
「俺の話か?別に俺は面白い人生なんざ歩いてないぞ」
そうじゃないとでも言いたげに、トラスさんは大きく首を振る
「勿論君の人生もだが、君のいた世界のことを教えてほしいんだ」
そう言う彼女の目はとても輝いていた
まるで初めてテーマパークに連れてこられたこどものようだ
「……わかった。簡単なことしか話せないが、それでも良ければ」
「そうかそうか……。ありがとう、良いことを聞けたよ」
そう言って彼女は、端までビッチリと文字で埋め尽くされているメモを閉じた
いったい何時間くらい話しただろうか
窓か時計でもあれば、今の時刻ぐらいはわかるだろうに
「喜んでもらえて嬉しいよ。それじゃ」
胡坐を崩し、膝をはたきつつ立ち上がる
脚に少し電流が走ったが、立ち止まるほどではない
「ああ、それじゃあ。…………そういえば少し聞きたいことがあるんだが―――君、人殺したりしてないよね」
その言葉は、俺の体を硬直させるのに十分な力を持っていた
1年間で10本も投稿しないド畜生がいるらしいですね。
私のことです。
毎度のことながらお待たせしてしまい申し訳ありません。
次もまた月単位の投稿になるかもしれませんが、長い目で見ていただければ嬉しいです。