42話 {発言を撤回しようか}
お久しぶりです
言いたいことはありますが、それは長くなりそうなので活動報告にて……
お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした
「珍妙な助っ人ねぇ。その子は何?貴女を助けてくれるのかしら」
「……少なくとも、俺の親友よりは役に立つよ」
戯れ言を吐いて立ち上がる
立ち上がって、改めて対面する
見れば彼女も炎の影響を受けたのか、その派手な衣服が数ヶ所焦げていた
あれだけの火力だ―――付近にいる以上損害は免れられないのだろう
もっとも、それがアドバンテージになるかは不明だが
なんせこちらはまだ傷の癒えていないほぼ全裸の手負いが一人に、ろくに戦えない小動物が一匹
たいしてあちらはほぼ無傷―――どころか武器さえ装備して、本格的に戦闘態勢のお方
数的有利は得ているにしても、勝率は酷く落ちている
〖……バトルドレスの修復は完了しました。熱に対する耐性も加えておいたので、同じ轍を踏むことはないでしょう〗
と、0.1%ほど上がったか
{使える物品を得た割に、勝率は伸び悩むのな}
そりゃまあ、地のレベルが違うからな
装備がいくら強かろうと、結局は実力がものをいう―――聞きなれた言葉だ
中学時代にマネージャーから、耳のたこがすり減るほど聞かされた
……今あいつどうしてるかな
{こんな状況なのに気になるか?}
ふと思っただけだ
それに知ろうとしなくても、きっと三年後くらいには誰かが教えてくれるだろうよ
{えらく具体的な数字だな。まるで練りに練った計画を暴露してるみたいに具体的だ}
計画は具体的でないと、それがなあなあになって終わるだけだろ
{『なあなあ』か……。ところで、勝率のパーセンテージはどれくらいなんだ?}
勝率は……、まあ低く見積もって一割弱ってところだ―――もちろんバトルドレスを含めてな
{おいおい一割とは。一体どこで計算を間違えてんだ?}
間違い?おいおいダグラス、ジョークもいい加減にしようぜ
{誰がダグラスだ。誰が歴史上の偉人だ。歴史に名前を刻まれるのは一回限りで十分だよ}
その言い方だと、歴史に一度名を残したみたいに聞こえるな
{ちげーよ、根本がちげーよ。……あくまでその確率は、お前ひとりで戦う時の確立だろ?なら忘れんな、お前には俺と『善意』もいるってことを}
…………
珍しく、黙らされた
俺からすれば、そんなことは想定の範囲内だったが
{全くもってたりねーよ。俺らはサポートすることしか能がねーんだから、もっと働かせろ}
〖そうですよ、私たちをこき使うくらいでちょうどいいんですよ〗
そうかそ―――――れはさすがに言いすぎだろ!!
そんだけ働く意欲があんのなら、どっかの会社にでも派遣されたら成績伸びると思うぜ、お前ら
{会社に行けたらの話だろ。つーか会社にでも働きに行くくらいなら、ゲーセンに入り浸って遊び呆けるわ}
〖私たちは主のためにしか働きませんからね。勘違いしないでくださいよ!!〗
『善意』さん、そんな風に思っててくれたのか……
{俺に対しては何もないのかよ}
お前はいつもの言動からして怪しいんだよ―――なにか企んでんじゃないだろうな?
{そんなことあるわけないだろ。最初にできた相棒を、まさか信用しないなんてことはないよな?}
最初にできた相棒、ねぇ……
その言い訳文句でさえ、どこか臭かった
そういえば話題がずれてたが、俺とお前らが合わされば勝率は大体何パーセントぐらいになるんだ?
{ああ、そんな話もしてたな。まあはっきり言ってしまえばそれは――――}
そして俺は再び黙らされた
{0%だ。あきらか勝てない敵と戦うなんて、愚策中の愚策だろ。お前は少年誌の主人公か}
それもまた正しい意見だが、しかしそれも愚策に他ならない
直観的にわかる―――逃げられない
大陸と大陸を横断するレベルのワープならばまだしも、先程の短距離ワープでは到底追いつかれる
いや大陸間と言わないまでも、せめて国と国を一瞬で移動できるほどの長さは求められる
それほどの移動は、可能か?
〖不可能ですね。どうも相手の力量を見誤りすぎたようです。どうも慢心が少し芽生えてみたいですね、すみません主〗
いいってこった、運のいいことにそこまでまずい状況ではないし
{今ならまだ頭を下げるだけで何とかなりそうだ。それだけで許される可能性はある。――――だが死んでやり直すという選択肢もあるんだぞ?}
死んで、上手くやり直すっていう選択肢もな
―――――今回に限っては必要ないだろ
俺は少年誌の主人公ではないし、仮にそれをしても結果は変わらないだろう
そう思うと途端に体が軽くなった
これなら、大丈夫なんじゃないか?
{悪くない。特別良いってわけでも、ベターでもベストでもないが、悪くはない}
その保証があれば十分だ
「その仮面、おもしれーよな。服は数ヶ所ほど焦げてるけど、その仮面にはほんの少しも傷がない。それどころか、新品みたいにピカピカだ。明らかに普通の物ではないよな」
「……シン?」
猫が不安そうに首を傾ける
「まあ、そうね――――」
仮面の女は、そう言った
それがトリガー―――拳銃しかりカメラしかり、一度だけのアクションで物事を終わらせることは容易ではない
とはいえ戦闘において全く同じことがいえるとは思わない(事実武士などはほんの一刀で斬りあいを終わらせることがざらだったというし)が、まあそこはケースバイケースとでも言うべきか
すぐさま姿勢を整えて、右足を踏み切る
彼女との距離はほんの十数メートル
脚力を信じて今度は左足で地面を蹴り、真正面から彼女の首元に宛がえるように手刀を流し込んだ
彼女はまだ動こうとしない―――策でもあるのか、単に間に合わないだけなのか
まあ、おそらく後者だったのだろう
特に何にも邪魔されることなく、俺の手刀は見事彼女に命中した
首を先端として彼女は勢いよく左方向に吹っ飛び―――はしなかったが、その場に膝をつかせることは成功した
膝をつかせた
つまりは、頭の位置が地面に近くなった
ここでとるべき行動は大体三種類ほどに分けられるだろう
一に地面を蹴り上げ(もしくは毒霧でも浴びせ)て視界を奪う
二に頭を地面にたたきつける
ちなみに俺が選んだのは三だった
正直俺もこんな選択をしたくはなかったが、彼女が仮面をつけている以上しょうがないのだ
これは誰のせいでもなく、誰が悪いわけでもない
そうしなければならないという、神が俺に与えた運命なのだ
そう思いながら、躊躇いなく彼女の頭を顎の付け根から蹴り上げた
ここまでしても壊れないというのは、もはや流石というべきか
蹴った衝撃により彼女と一緒にあらぬ方向へ吹っ飛んでいった面を持ち上げる
案外重かった―――拳二つはあるコンクリートの塊ほどだろうか
が、傷は依然として一つすらついていない
手で表面をなぞり、軽く拳で叩いてみる
手触りはガラスに似ているが、音は金属に近いか
向こうにはない物質で出来ているのか、それともこういったものを作る技術が存在しているのか……
あと、もう一つ
もっとも、これは興味本位などではなくただの自己防衛のために行ったことだが、彼女の持っていた(ダガーかナイフか。その辺りの詳しい見分け方は知らない)刃渡りがそこそこ短い得物を拾い上げた
これはまた見事な業物……のように見えるが、あいにく刃物を見定める目は持っていない
とりあえずこれは懐にしまい、彼女のもとに向かう
「立てますか?」
先ほどから指一本動かそうとしない仮面の女―――否、リリムさんに手を伸ばす
「見てのとおりよ。しかし酷いじゃない。こんな美人の顔を遠慮もなく蹴り上げるなんて」
「鏡でも見てきたらどうですか?絶世の美熟女が、平気な顔して笑ってますよ」
「あら、それは誉め言葉かしら?」
「捉え方にもよるでしょうね」
なら、悪口として記憶しておくわ、と彼女は体を重そうにしながらも立ち上がる
「ところでその子猫ちゃんどうしたのよ。拾うなり飼うなりはあなたの自由だけど、面倒見きれるの?」
「ああそうだ。すっかり忘れてたけど、それがここに来た目的でしたっけ」
そう言って、なぜか嫌がっているルススを膝に乗せ―――逃げようとするんじゃねぇよ!
「おい!ちょっとでいいからじっとしてろ!!」
「嫌です!なんでこの女と仲良く話してるんですか!!放してください!」
背中を押さえつけてなお、彼女は両手足をじたばたと激しく動かして、酷く抵抗した
「ちょっと、話聞いてるの?」
「いや、こいつがそうなんですよ」
「そうって―――まさか……」
察してくれたようで、彼女の顔に初めて焦りが見えた気がした
「なら、そうやって暴れてるのも無理ないわね」
「無理ないって、何か理由でもあるんですか?」
それに対し、無情そうに彼女は言った
「嫌われてるもの。昔のかなり大きないざこざ以来、ね」
「…………」
気付けば、ちょうど太陽が真上に佇んでいた
「そういえば、お前の確立見事に外れたな」
{違う違う。あれはお前が戦わなかった場合の確立だ。本当は信じてたぜ?お前が10割0分0厘0毛、勝利を収めてくれるってな}
それはただの言い逃れだろ
自然と口元が緩んだ気がした