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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
失われし憤り編
63/68

41話 「『憤怒』じゃなかったか?」「さあ、知りませんね」

はい約一か月、遅れてしまい申し訳ございませんでした

なんで受験という制度がこの世にはあるんでしょうかね…

トラウマになるとは言いませんが、もう勉強が嫌になりそうです

まあいつかは誰もが通る道、文句ばっかり言ってても仕方ないですね、久しぶりの投稿ですし明るく行きましょう(もとい明るく生きましょう)

今後も投稿ペースは落ちると思われます(受験の結果によっては、早くて一月下旬に終わりそうですが)

それまでは気長に待っていただけると幸いです

 氷塊が我先にとばかりに射出される

 それは空気を切り裂いて―――様々な音を奏でて俺に向かって飛んできた

 いや、正確に俺を追尾してきているのは、射出された三分の一ほどだ

 残りはと言えば、全く誰の影もない、明後日どころか明々後日の方向へと打ち出されていた

 何かのミスか、それとも回避を困難にさせるための巧妙な捨て石か

 これは考えるまでもなく後者だろう

 こんなの、誰だって思いつくであろう戦法で、誰だって行うであろう戦法だ

 ただ、一つ誤算だったのがその捨て石の量――――明らかに多すぎる

 弾幕だと聞いてシューティングゲームを思い浮かべた俺であったが、こんなのをシューティングゲームと呼ぶにはかなり無理がある

 無理があるというか、無理である

 俺を追尾している氷塊の数は、およそ500個ほどだった―――もしかしたら数え間違いで、実際は一千個だったかもしれない。もしくは一桁飛ばして一万個だったかもしれない。それをしっかり確認できない程、俺はこの時焦っていた

 だから仮に、追尾弾で500個だ

 三分の一で500個だ

 では残りの約1000個ほどが捨て石ということになる――――もし本当に一千個一万個だったとしたら、それはもうお察しだ

 しかし、その風貌を石と呼ぶには小さかろう

 それはまさに岩のごとき巨体だった

 もっというなれば、それは壁だった

 壁、同じくシューティングゲームで例えるとするならば、画面ほぼ全体に敵の弾幕を飛ばすような暴挙に彼女は出たのだった

 


 しかしまあ、遅い

 その氷塊たちは、目で起動が捉えられるほどに遅かった

 速さは大体一キロ毎秒と言ったところか

 つまりは俺の元に攻撃が届くまでに、約三秒もかかるわけだ

 約三秒、しかし遅い

 勿論、『思考加速』を用いて初めて言える話だが

 これを使っていなければ、おおよそ三秒後には体中の筋繊維が粘土のようにズタズタにされていたことだろう

 もしかすれば二次被害として、遠くに置いてきたはずのルススにも何らかの影響が出るかもしれないが

 なんせこの勢いだ、家を一つ二つ破壊した程度じゃ止まりはしないだろう

 周辺か、もしくは外壁に届くまで進み続けるかもしれない(だからといって対処ができるわけもないが)

 俺はもう、彼女を倒してこの魔法が消えることを望むしかないのだ

 そういうことだから、頼むぜ『善意ジキル』さん

〖お任せください。『空間転移』、開始します〗

 とたん視界が揺れ、脳漿が揺らぎ、重力が逆転した―――――気がした

 気がしただけで、それはほとんど気のせいである

 実際には重力が働いたうえで、俺は上空に引っ張られた

 吊り上げられる魚のように、上空に向かって

 もしくはそれも気のせいで、俺はただ単に横に引っ張られただけなのかもしれない

 わからない

 状況を理解したのはあくまで主観的な視覚――――自分自身であるがゆえ、実際にどんな大移動を行ったのかはわからない

 縦に引っ張られてここまで来たのか、横に引っ張られてここに来たのか、はたまた引っ張られたのではなく、分子レベルにまで細分化されてこの場所で再構築されたのか

 理解しがたい、したくない

 ただまあ、成功はした

 見事彼女の背後に回り込むことに、成功した

 



 背後とは、ありていに言ってしまえば死角である

 そりゃそうだ、どれだけ警戒することができても、鎌鼬のように見えていなければ防御などできないし、そもそも武器など持ち合わせていなければ背後に向けて攻撃をするのは難しい

 まあ難しいというだけで、技術さえ多少持ち合わせていれば例えば裏拳打ちなど攻撃を加えることが可能だが……

 しかし、彼女がそのような技術を持ち合わせているとは到底思えない

 どちらかといえばそれは、彼女の背後で待機している金髪紅目ボーイこと、彼の分野だろう

 彼は彼女と違い、魔法を使わず肉弾戦で勝負を仕掛けてきた

 つまりは近接戦闘においては負けないという自信をもって、俺に勝負を挑んできたということだ

 自分の技術を磨くに磨き上げ、それに絶大な信頼を寄せていた、ということになるのだろう―――いや、もしかしたらただ油断していただけかもしれない。たしかあの時、彼は俺のことを人間と見下していたのだ

 まあそんなこと、終わった今となってはどうでもいい

 過去のことだ

 こぼしてしまった水は二度と盆には帰らないように、終わったことを覆すのは今となっては不可能だ

 俺のように世界線が違うながら過去に戻ることのできる技能スキルでも、その世界線で起こった出来事は変えることが出来ないように、行ったことは、覆らない

 だからこそ俺も成功を信じて、拳を彼女に向けた

 背後に回っての一撃、よく言うところの不意打ちだ

 不意打ちとして、掌底一発を彼女の腰に叩き込む、それだけの事

 それに、都合のいいことに彼女の背後には氷塊がなかった

 おそらく彼に攻撃が当たらないための配慮だったのだろうけど、しかしそれが裏目に出たらしい

 またシューティングゲームで例えるとするならば、ボスより後ろの場所が安置だった

 ただこれは、ゲームと違って現実では案外気づきにくいのかもしれない

 ゲームなら画面全体を見て行動し、相手に攻撃することが出来る

 しかし現実では敵との一対一の勝負であり、相手から目を離そうものなら、即死ぬといっても過言ではない

 そんな状態で、わざわざ相手の背後なんかを気にしたりはしない

 相手の目を見て、腕を見て、足を見て、相手の動きを予想して戦うことだろう

 俺も最初はそのつもりだった

 正確には、そのつもりで『善意ジキル』さんの話を聞いていた

 その心情とは裏腹にこんな方法を提案してきたのだから、彼女も人が悪い

 そして今に至る、と

 こぶしを握り締め、同時に地に足を付ける

 姿勢を安定させ、視界を安定させた

 彼女はまだ振り返らない

 後ろに回られたことに気づいていないのか―――首すら動かそうとしない

 ただ一点、どこかを見つめているようだった

 まさに、俺の存在なぞ眼中になし、といわんばかりに

 まあいいだろう、そういうことならこっちだって痛い目を食らわせてやる

 落ち着いて、息を吸い込んで落ち着いて――――

「くたば――――」


 と、ここで一つ気づいたことがある

 この一コマ、一瞬、一秒に

 気づいたことというか、見落としていたこと

『背後とはありていに言ってしまえば死角である』

 俺は先程そう言った

 それは撤回しない、これ自体は間違っていない

 確かに背後は死角だ――――だからこそ、背後に気が回らないからこそ、事前に対策を取らないだろうか?

 ……………

 こんな状況を比喩するならば、『土に埋まってもいない地雷を踏んでしまった』だろうか

 もし一言で表すならこんな感じだ


 “爆発した”

 

 

 

 もう少し正確な情報をお届けしようか

 まずご存知の通り、俺は彼女の腰にパンチを食らわせた

 ん?「くたばれ」?

 おいおい、誰がそんな汚い言葉を使ったんだ?

 そんな奴軽めに言って死んでもいいと思うね

 まったく見てみたいよ、そう言ったやつの間抜け面を

 ……ともかく、たしかに俺の拳は彼女の骨盤を捉えた

 そして爆発した

 正しくは、火柱が出現した(,,,,,,,)

 ―――いやいやいやいや

 自分でも何を言っているかわからなくなってくる

 だって火柱って、ねぇ?

 『あまりのスピードに、空気の摩擦で火花が散った』というのならまだ許容できるが、火柱は次元を超えすぎている

 まあそりゃ異世界なのだから、ファンタジーなのだから、一線ぐらい超えないといけない場面もあることだろう

 だからって、火柱はあきらかにやりすぎだ

 なんだ、彼女は腰辺りに炎で形成された尻尾でも生えてるのか?

 ……それはそれで不可解なファンタジーだが

 『事実は小説より奇なり』とどっかの誰かは言ってたが、どうやらそれを肯定せざるを得ないようだ

 いや、『真実は小説より奇なり』と言い換える方が、この場合は正しいのかもしれないが


 そしてどうなったか

 『どうなった』というのは、つまりその火柱を受けて俺はどうなったかということで、端的にいえば死にかけた

 炎が一瞬で体を覆い、皮膚を焦がし、肉を刺し、血液を蒸発させ、骨を溶かし、内臓を炭になるまで焼かれ――――そして死ななかった

 よく不死身の代償として取り上げられる一つ、『痛みの連鎖』というやつだ

 普通の人間ならば痛みさえ感じることなく死ねるような状況でも、不死身の何かは死ぬことが出来ず延々と苦しみ続けるという、まさにあれ

 今回の場合は、皮膚が消えるたびに再生し、肉が刺されるたびに復活し、血液が蒸発するたびに凝結し、骨が溶かされるたびに一新し、内臓が炭になるたびに再現された

 何度も何度も、負の連鎖が続いていく

 

 

 

 

 何十時間たった気もするし、実際はほんの数秒しかまだすぎていない気もするが、どちらにせよ地獄を垣間見たような気分だ

 まさに、生きた心地がしなかった

 先ほどまでかなり熱かったものだから、外気がとても涼しく感じる

 土が冷たい、太陽の光さえ冷たい

 うわ、仮面が溶けてら

 この仮面を溶かすほどの熱量ならば、服もぼろぼろに焦げているかもしれないな

 もっと言えば少年漫画でよくあるお色気シーンっぽく、規制が入らない程度に破れているのかもしれないな

 体が疲弊しきっているせいで首が回らないが、なんとなく予想を付けてみる

〖すみませんマスター、防御が間に合いませんでした……〗

 彼女が、『善意ジキル』さんが申し訳なさそうに言う

 それは別によかった

 ダメージなんて無いようなものだし、服も破れたところでさほど気にはしないし

 先ほどはあんなことを言ってはいたが、やはり中身は元男子―――同性に全裸姿を見られたところで恥辱なんて感じないのだ

「だから、責任を感じる必要はない」

 息も絶え絶えに、何とか言葉を発する

〖そう、ですか…………………〗

 が、どうやら本人的にはこのミスは納得できないらしい

 セリフの後の三点リーダーの長さがそれを物語っている

{一体どんな心情の汲み取り方法をしてるんだよ。お前の目には近未来のコンタクトレンズでもはまってんのか?}

 その台詞の意味が俺には理解できねーよ

 もしかして、ウェ〇サの多機能コンタクトレンズのことでも言ってるのか?

{たぶんお前がさっきやったことは、そのコンタクトより凄いことだろうよ。いいか、会話はちゃんと耳で聞け。目で見ようとするな}

 でも、『音楽は耳と目と心で聴け』って教えられないか?

{それはあくまで音楽の指導の一つ。俺が言ってる『きく』は、『聴く(,,)』じゃなく『聞く(,,)』だ。間違った上げ足を取ろうとするんじゃねーよ}

 なんか、髪と帽子が一体化した海洋学者みたいなこと言ってるな

{全く真逆のことだけどな、言ってんのは}

 きっと彼も、こんなところでネタにされるなんぞ思わなかっただろうな

{それどころか、原作者様に直接殺されそうだな。その気になれば世界そのものを破壊する幽波紋スタンドとか出してきそうじゃないか?}

 それはわかりかねるが、まあ時が止まった世界に入門してきてもおかしくはないな

{そうだな。でも、お前も止まった世界の認識くらいはできるだろ?}

 なんでそう思うんだよ

 仮にも、時空を超える技能スキルを持ってるからか?

{おいおい。それぐらいできてくれなきゃ、神様にはなれないぜ?}

 おいおい、何言ってんだ

 別に神になる気はねーよ

{そんなこと言って、またお迎えが来ても知らねーぞ?}

 死ぬ気もねー!

 それで本当に死神とかが迎えに来たらどうするんだよ

〖いえ、迎えに来たのは魔女のようですよ?正確には、その使い魔でしょうか〗

 魔女?

 聞き覚えのない言葉に、俺は目を開け、手を動かし脚を動かす

 ふむ、駆動に問題はない

 現在状況を確認したうえで、俺は起き上がった

 起き上がって、初めて『善意ジキル』さんの言葉を理解する

 そこに居たのは、一匹の黒猫だった

 子供がいたずらと称してペンキを頭からかぶらせたかのような黒い体

 毛並みはつい先ほどブラッシングされたかのように整っていて、家から脱走でもしてきたのか赤い首輪が巻かれていた

 その小動物が、いつの間にやら刃物を取り出している彼女と対峙していた

 

 

 

 

「――――来るなって言わなかったか?」

「すみませんね。私、これでも傲慢なんですよ」

 悪魔のような少女は、子猫のような笑みを浮かべた

 

※誤字脱字、また『面白くない』などありましたら、ぜひ感想なりメッセージなりTwitterDMのなりで教えてください。シャーペン放り投げてでも対応したいと思っています。

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