表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
失われし憤り編
60/68

38話 NOと言えぬは日本人

「……貴女が、彼を可愛がってくれた人かしら?」

 一発で気取られたッ!!



 あれからおよそ3時間ほどたった今

 この広い街の中でやっと、十万人近い隊列を発見した

 といっても、それは見た目だけで、中身はピーマン並みにスカスカだ

 種もほんの二粒しかないとは、子孫繁栄する気はないのか

 いや、一応男女でセットになっているのだから、可能かもしれないが

 ともかく、彼女がいた

 黒いマントに身を包み、不気味な仮面(石仮面に比べたらましだろうと思うが)を身に着けた、女性が

 彼女がそこに居て、その隣に、昨日あたりにぼこぼこにした彼もいた

 まだ傷が治っていないようで、顔全体が赤くなっている

 ……とまあこういう風に物陰からこっそりと監視していたのだが、先ほどのように察知されてしまったわけだ

 しかも、ルススが以前言っていた『気配探知』でも使ったのか、こちらを見もせずに当てやがった

 どんな強者だよ

 ルススの言っていたことが、ふと脳裏によみがえる

 ……魔王に匹敵する奴、か

「ああ、そうだな」

 意を決して、俺は彼女の前に出てくる

 ルススはちなみに置いてきた

 あの状態でも戦えるとは思うが、もし一撃でも喰らったら即死を免れることは出来ないだろう

「あんたは、敵ってことで良いのか?」

「…………ああ、そういうこと。少なくとも、味方ってわけではないでしょう?」 

 そうだな、そりゃそうだ

「あんたも、ここの魔王を探しにでも来たのか?」

「ええ、彼に頼まれてね」

 そういって、金髪の彼の肩を持つ

 彼が依頼したのか

 とすると何かルススと関わりでも……

「七色の悪魔」

 小さい声で呟いた

「ご存じだったのね。若いのに」

「別にそこまで若かねーよ。これでもまあまあ生きてるっての」

 嘘ですが

「私達にしたら、人の寿命なんて時命と言い換えてもいいくらいに短いものよ」

 時命?

 どっかで聞いたことのあるフレーズだが、もし相手が長命的な種族なら、たしかに的を射ている表現ではあるだろう

「短いわけねーだろ。俺は死なねえ、というか死ねねえ。そんな哀れな奴だからさ」

「哀れというか、愚かなだけじゃないのかしら?」

 言ってくれるぜ

 もうこれ以上、俺らの間に言葉は必要ないだろう

 さてさてさてさてさてさてさて

 俺は剣を取り出した

 


 

 しかし、俺の取り出した剣は、以前の物とは違う

 その形状は、どちらかというと西洋的なものではなく、日本の刀に近い

 刀、日本刀

 重さにより叩き潰すのではなく、刀身を薄くすることで切り裂くことに特化した武器

 明らかな戦闘用

 確実な殺戮用

 どっちだろうと、この場合は同じだ

 さて、以前は[聖剣 エクスカリバー]なんて名前を付けたが、今回だと何かモデルになるようなものでも……

 村正か、村雨か

 実在する刀か、実在しない刀かのどちらかにしようとも考えたが、しかしそれだと面白くない

 …………[月渡]、なんていうのはどうだろうか

 柄頭の近くに月の模様があったから、という安直な理由だが

 しかし、俺に日本刀が扱えるかどうか

 剣道は授業ですらやったことがないし、心得なんて本で読んだことすらない

 前世で一度とさえ、剣道と関わったことがないと言っても、過言ではないだろう

 そういえば、智里がテレビで見ていたような気もするが(智里は何であれ、スポーツを観戦するのが好きだった。本人曰く、頑張っている姿を見ると自分も元気になるから、だそうだ)、それだけで多少なりにも剣が振るえるとは思えない

 知っているだけだ

 知識として、残っているだけだ

 ゲームで出来たことが、現実で出来るとは言えないように

 カンフーラップを真似しようとしても、体がついていかなかったように

 だから俺は、反則の斜め上を行く




<【人格交代】を使用。これより、体の操作権を『善意ジキル』に交代します>

 久しぶりに聞いたこの声に、どこか俺は懐かしさを感じる

 と同時に体の力が抜け、視界が、聴覚が、嗅覚が、触覚が、五感の大半が機能を停止する

 【人格交代】、というよりゲームでよくある、自動戦闘状態オートバトルモードのようなもの

 それを使用してこそ、不慣れなこの武器の真価は発揮される

 というのは建前で、どうあがいたところでこれは他人任せ以上の意味を持ちはしないだろう

 自分は何もせず、ただのんびりと時を待つだけ

 ただのんびりと茶番的な風景を眺めるだけ

 何もできないからこそ、俺は何もしない

 出来ることなんてないのだから、他人にすべてを押し付ける

 それでいい

 彼女がいいと言ってくれているのだから、俺はそれに甘えるだけだ

{それはやっぱり、自虐かい?}

 何も聞こえないはずの暗闇に、しかし聞き覚えのある声が響く

「自虐だよ。お前の言う通りな。それ以上でもそれ以下でもない。ただの下らない戯れ言さ」

 無意味に俺は笑う

 それにつられて、彼も嗤う

 二人の笑声が、和音となって響く

 脳内に反射し続ける

 その振動で、世界さえ崩れ去る

 空が一変して、白く晴れ渡る

 清々しいほどに、白い空

 それは、ペンキでも持ってきてぐちゃぐちゃに汚してしまいたい程に、白かった

 涙が突然溢れる

 それは決して冷たくも、温かくも、しょっぱくも、甘くも、湿ってさえいなかった

 ここは脳内の世界なのだから、それは当然だろう

{あーあ、すっきりしねーな。やっぱりお前、最高だよ}

 隣を見ると、いつの間にか誰かが座っていた

 深黒に染まり、後ろで一つにしばられている長い黒髪

 少しばかり大人びた、しかしまだあどけなさの残る顔立ち

 目は瞳孔が引き込まれてしまいそうなほどに白く、しかい結膜が髪以上に暗闇を帯びていた

 しかしそれは片方だけしか見えず、もう片方の右目は、長く伸びた髪に隠されている

 身長は座っているせいで分からないが、大体生前の俺と同じぐらいだろうか

 顔立ちも、身長も、大体同じくらいだった

「……悪い冗談か?その恰好は」

{いや、まったく。お前にとっては嫌だろうが、これがデフォルトなんだ}

「嫌な設定だな。そりゃ」 

 生前の俺の顔(,,,,,,)をした『悪意ハイド』が、顔を歪ませて再度笑う

 これはまるで、ドッペルゲンガーにでも遭遇したような感覚だ

 確かそれに遭遇してしまったら、七日以内に死ぬんだったか

 …………まあ、その伝説に反して俺は、出会って三日程で死んでしまったのだが

 いや、しかし

 現実時間では確かに三日だったが、『過去移動さかのぼり』で戻ったということを考慮すれば、大体一週間になるのではないだろうか

 実際に姿を見たのは今日が初めてなので、今さらながらそのルールが適応されていたのかは謎だが

{そんな事より、お前『善意ジキル』にばっか頼りすぎじゃないか?}

「んなこと言われてもな、『善意ジキル』がいっつも『やらせてください』『やらせてください』って言ってくるから、気軽に『別にいいとか』言えないんだよ」

{たとえ俺らが技能スキルだからって、疲れないわけではないんだぞ?『物体創生』を連続で使用した時なんか、あの後一言もしゃべらなかったし}

「うっ……。でも、断れないんだよ。断ろうとしても、何度も立ち上がってくるし」

{NOといえない日本人、か}

 もはや笑ってはくれなかった

 呆れられた

 溜息を吐かれた



 しかし、全くその通りだった

 

 

 

実際計算してみると、『悪意ハイド』(『二重人格ジキルとハイド』)を獲得してから約六日で爆☆散したみたいです

まあ誤差ですね誤差 アハハハ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ