魔王目録 『憤怒』の章
さて今回も過去編、的な何かです
今から400年前のこと・・・
彼女は孤独な魔術師だった
彼女はその孤独を打ち消すためにひたすら鍛錬し、己を鍛え上げた
しかし、その強さから人が寄り付かず、恐れられていることを彼女は知らなかった
しかし彼女は強さを欲した
「もっと強くなればみんなから認めてもらえる」
「もっと強くなればこの孤独はなくなる」
そんな希望にかけて、彼女は強くなり続けた
しかしその希望は叶わなかった
彼女はさらに人から寄り付かれなくなった
最終的には「化け物」「冷酷非道の魔女」といった称号までつけられた
そして彼女は、人を信じなくなった
そこから数年後、彼女はある男と出会った
男の名は・・・・わからない
彼女は長い時間の中で彼の名前を忘れていた
そんな彼は彼女の強さには恐れず、興味を示していた
彼は彼女に”名”と己が持つすべての”技術”を彼女に託した
その結果彼女は最強と冷酷の称号を手にした
しかし彼女は、冒険者としてまた孤独に生きていった
彼女は、寂しかった
なんで、なんで私は一人でいなければならないんだろう
そんな思考が頭の中で空回りしていた
そんなとき、ある知らせが入った
『*******が戦いのさなか、敵国の兵士に殺された』と
彼女は唯一の心の拠り所をなくし、その心にはもう敵に対する『怒り』しか残っていなかった
<上位技能『激怒』を獲得しました>
国内最強の騎士が死亡したという知らせから、王国は戦争にあらゆる冒険者を惜しみなく投入した
もちろん、彼女も含めて・・・
彼女の”最強”の名は、もちろん敵国にも伝わっていた
彼女が来るや否や、敵がすべて彼女のほうへ向かい始めた
片や数の暴力で彼女を屠るため
片や全ては最強の称号を手に入れ、富を得るため
それぞれがそれぞれの目的をもって、死ぬ気で彼女へと特攻していった
しかし、その気持ち自体が傲慢である
そんな彼女の心の中はまだ怒りで満ち溢れていた
もうだれにも止められないその烈火のような怒りは、すべて敵のほうへ向かっていった
〘紅蓮燈火〙
彼女の怒りのように燃え盛る火柱が1本2本とどんどん燃え上がり、敵を焼き尽くしていく
もう彼女には、師匠を殺された恨みを晴らすことしか頭になかった
彼女の目の前は真っ赤に染まり、敵を殺していった
多くの悲鳴の中、彼女は大きな笑みさえ浮かべていた
長い間の孤独と、心の拠り所が無くなったことで、彼女の精神は壊れてしまっていた
ただただ目の前にいる敵を殺す、その意識だけを保ったままで敵を殺していった
気づいたら、味方にも攻撃していたらしい
しかし彼女はそんなこと気にすることなく、敵を殺し続けた
気が付いたらそこにはもう何も残っていなかった
敵の死体も、味方の死体も、何もかも
もしかしたらあれは、夢だったんじゃないかと思えるほどだった
<上位技能 『激怒』が進化・・・成功しました。罪『憤怒』を獲得しました・・・>
だが、やはり夢ではなかった
体についたこの血が、それを物語っていた
そして、いつの間にか獲得していた技能は、どうやら罪に変わったらしい
今日、彼女は魔王に成った
<魔王への進化を開始します・・・成功しました。これにより、人体の魔人化を開始します>
優しい女性の声とともに、激しい痛みと眠気が襲った
そのまま彼女は眠りについた
夢の中で、彼女は最愛の師匠のことを夢見ていた・・・
彼女は今日、大切なものを失った
愛していた師匠のことも、人の体も、優しかった心も・・・
彼女の”名”は ルスス・バリウス
3人目にして、『憤怒』の魔王となった
—―――—――アーテス・ミルヴァ著 『魔王目録』より抜粋