33話 奇跡を起こす程度の能――― あ、違ったか・・・
朝
俺を起こそうと、小鳥はさえずり、木々は風に靡き
だが、俺は起きるわけにはいかない
なんせ昨日も夜遅くまで飲んでいて、眠いのだ
だから、今日ばっかりは俺を起こさないでk――――
「しゅーん!朝よ起きなさい!!」
そんなとても騒がしい騒音のせいで、俺は泣く泣く目を覚ますことになった
昨日飲みすぎたせいか、騒音が頭で反響してガンガンとなっている
「今日は任務の日でしょうが!!早くいかないと、私まで怒られるのよ!!」
嫌嫌目を開けると、そこには仁王立ち(比喩ではなく実際に)をしたガネーラがいた
そこにいて、俺から布団を引っぺがそうとしていた
「任務ぅ?なんの任務だったっけ……」
「今日は共同任務の日でしょうが!ほら、早く着替える!」
そういうと今度は、手に持っていた杖で殴ってきた
貴重なものじゃないのか、それは
しかし、共同任務か……
ああ、たしかテラトリウス王国、だったか
内戦が起きた国への、派遣任務をやるんだったな
……?
ふと、背中に冷汗が垂れる
何か、いやな予感がするのは気のせいだろうか
結局遅れることとなり、俺とガネーラは駆け足気味で王城に向かった
そこには王とタライトたちともう一組
おそらく別の国の仲間が、そこにいた
「……遅かったな」
呆れたように、王はつぶやいた
というか、心なしかみんなの視線が痛いのだが、何かまずいことでもしただろうか
寝ぐせは直したし、目もパッチリだ
あとは……
なぜかガネーラが赤くなっていること、ぐらいだろうか
あのネックレスの一件以来、会うたびこんな感じなのだが、もしかしたら気に障ることをしてしまったのかもしれない
あれだろうか
『似合わね~』と言う心の声が漏れてしまっていたのだろうか
いや、それとも……
と、ここで気づいた
トサチスさんの、楽しそうな眼を
なんですか、その眼は
なんで楽しそうなんですか
まさかガネーラだけでなく、トサチスさんもおかしくなっているとは
それか、あれですか
小悪魔系女子ってやつですか
そうだとしても、こんな急に対応が変化するとは思えない
と、我慢がならなかったのか、この空気を払拭するかのように、向こう側の女性が口を開いた
「ぷっ……」
といっても、笑いを堪えられなかっただけのようだったが
「ああ、失礼失礼。君が噂の勇者君でよかったんだよね。今日はよろしく」
背は高いとは言えない
だが、とても存在感のある、そんな女性だった
「どうも。俺は如月 瞬って言います。貴女は……」
「私かい?私は、早苗―――」
早、苗?
彼女はそう言ったのだろうか
確かにその名前は、なんといってもありきたりで、よく耳にするようなありふれたものだった
しかし、それは向こうの世界での話だ
そういえば俺がこっちに来てから半年ほどして、こんな話を聞いたことがある
どうも、俺以外にも渦に巻き込まれ、こっちにきたいわゆる転移者がいたらしい
確認されているだけで5人
それが3年前だったか4年前だったかは知らないが、たしかその中で俺を除いて2人、人間族に保護された人がいたらしい
もしかして、いや、確実にそうなのだろう
「松村 早苗だ。一応、このチームのリーダーを務めている。同郷同士、仲良くしてくれ」
同郷……
やっぱりと言うべきか、良かったと言うべきか
実際良かったといえば良かったのだ
もし相手が言葉の通じない外国人だった場合、俺はさらに言語を覚える羽目になるのだから
この世界の言語を約半年で覚えさせられた苦労が頭に浮かぶ
「ええ、こちらこそ」
これで2人目
いや、一人と、一匹か……
この呼び方はとても心苦しいし嫌なのだが、けど、それを認識してしまっている自分がいる、というのも確かだ
……一体、俺はどうしたいのだろうか
何かを救いたいのか、真司に会いたいのか
「二人とも、挨拶もいいがそろそろ本題に入ってもよいか」
と、王は割り込んできた
それもそうだ
こんな自己紹介をさせるためだけに、わざわざ招集をかけた訳では無いのだから
「さて、今日集まってもらったのはほかでもない、『憤怒』の国、テラトリウスで起こっておる内戦についてじゃ。普段なら干渉すらしないのじゃが、とある問題が起こっての」
「問題、というのは?」
「うむ、実はな……。奴が、現れたんじゃよ」
「奴、とはだれのことでしょうか?プラネリ王」
……?
もしかして、聞いていないのか?早苗さんは
「……お主ならわかってるじゃろう?瞬」
「ええ。『あいつ』ですよね」
この場にいる全員が、首を横に傾げた。
それもそうだ
この中でやつの復活を知っているのは、俺と王だけなのだから
「ちょっと、シュン!誰のことよ!?」
皆が頭上に?を浮かべている中、ガネーラだけは我慢ができなかったようで、俺に泣きついてきた
それを見てトサチスさんはまたにやけ始める
何だこの悪循環
「言っていいんですか?」
「構わん。ただし口外は禁ずるがな」
そうか、なら――――
「龍王。『傲慢』の魔王のことだ」
それを聞くと、俺と王と何も知らない早苗さんを除いた全員の顔色が、サーっと抜け落ちていった。
この後の言葉は、大体予想できる
俺も一緒だったのだから
「「「「「「「「「どういうことだ(ですか)!!!!!!」」」」」」」」」
全員一致の大合唱
必要ではないが、いただきました
ちなみに今の時系列ですが、
17話→18話→23~32話→33話
となっています。