32話 人外の屑
さて対峙してみるが、これは対処のしようが果たしてあるだろうか
案外、ここはおとなしく投降した方がよかったのかもしれない
まああんなこと言った手前、ルススにかっこ悪いところ見せられないし、何より許してもらえるとも思えない
さて、そんなこんなで強制戦闘となったわけだが、とりあえず『屈折』は切っておくことにしよう
気づかれている以上発動させ続ける理由はないし、地味な話だがマナの消費も馬鹿にならないのだ
「! お前、女か。だがなぜ見えるようにした。挑発でもしてんのか?」
何もないところから人が現れたというのに、結構余裕そうだな
しかし、挑発なんて滅相もない
そんな自殺行為じみたことなんてしませんって
というか、性別知らなかったのか
てっきり『気配探知』とやらで判ると思ってたんだが
「いやいやまったく。これは挑発、というより防御って感じだな。ああそうだ」
そういうと俺は、彼女を下ろし、
「隠れとけ」
路地裏に追いやった
さすがにこの戦闘で死なれたりしたら困るからな
・・・ところで、彼女がどこか心配そうにしてたけど、俺ってそんなに頼りないか?
泣きそうになりながらも、拳を構える
「先に言っておくぞ。俺は女だろうと子供だろうとさっき逃がした猫だろうと、手加減なく殺す。わかったか?人間」
ん?
なんだ、もしかしてまた・・・
また間違えられてる?
まったく、なんでこの世界の奴らは妖気が出てない=人間って決めつけてんだよ・・・
〖正確には、妖気が少ない=人間ですけどね〗
そんなのどっちも同じだろ・・・
もういいや、いちいち[魔封じの首飾り]の効果封印してるのも手間かかるし、このままやろう
んじゃあまずは、
「お返しからだな」
ちょうどいい場所で留まっていてくれてよかったよ
これでこっちも、本気で殴れる
お返し代わりに一発、腹にぶち込んでやった
さすがに吐血まではしなかったものの、いいところに入ったのか男は腹を抑えながら少し引いた
「・・・お前、本当に人間か?」
全く違いますが何か?
というかそれは、お前が勝手に断定しただけだろ
「えっと、確か吸血姫っていったっけな。少なくとも今は人間ではねーよ」
「そうか、珍しい種族にあったもんだ。これは、少し厄介だな」
珍しい、種族?
全く意識などしてこなかったし、まず教えられたことなどなかったのだが、どうも吸血姫という種族は珍しいらしい
まさか大量絶滅というわけではあるまいし、単に外部との接触を嫌っている種族なのだろうか
少し気になったりもするが、それは今度リリムさんに聞いてみるとしよう
で、殴られた男の次にとった行動は、蹴りだった
蹴り、腕の筋力の3~4倍の力を持つという足で放つ蹴りが、俺の腰に直撃した
パンチでさえかなりのダメージを食らったというのに、さらに威力の強いキックをお見舞いされるとは、とてもではないがたまらなかった
パキッと、骨が折れる音がしたほどだ
本当何度お世話になったことか、『高速再生』にお礼がしたいぐらいだ
これがなかったら、前回も、そして今回も絶対死んでいたよ
まあ、痛かったんですけどね
こればっかりは仕方ないし我慢はできるのだが、それ以上にこいつの強さがひしひしと伝わってくるようで、それが一番怖かった
さて、今のは痛かったぞ?
ならこっちは、頭だ
軽く跳び上がり、そのまま落下の勢いをつけて殴ろうとする
男はそれを腕でガードしたが、あらかたダメージは入ったようで少しふらついていた
そこの隙を逃さず、足をかけ、男を押し倒した
そのまま馬乗りになって、男の顔を殴りまくった
うん、正直に言わせてもらうと、すごくひどい戦い方をしていた気がする
別に悪いとは言っていない
実際、生きるか死ぬかの戦いとなれば、人などどんな卑怯なことをしてでも勝とうとするだろう
でも冷静になった今から見たら、なんというか・・・
自分が屑のように見えてくる
馬乗りが悪いのか、一方的に殴っているのが悪いのか
それは定かではないが、少なくともこれではこっちの方が悪者だ
あっちが先に殴ってきたとしても、それが覆るようなことはないだろう
彼女は、すぐにそれの存在を感じ取った
とても強大な何かを
どこかで感じたことのある、そんな何かを
それはあろうことか、彼女が作り出した幻影に攻撃してきた
それは多分、分かってやっているのだろうが、だとしてもかなりの恐れ知らずだ
なぜなら、これを作り出した者が相当の手練れであることぐらい、すぐにわかるはずなのだから
少し気になって様子を見てみると、そこには強大な力を持った猫と、貧弱そうな人間の姿があった
さすがに容姿などはわからないが、胸部に膨らみがあることから人間の方は女だろう
それよりなんだ、あの猫は
下手すると、私以上
いや、魔王様に匹敵する力を秘めている
何かの実験動物だろうか
だとしても、そんな化け物みたいな存在が生み出されたことなど聞いたことがない
なんだろうか、何か嫌な予感がする
「ねえ、バニサス」
「なんでしょうか、姉御」
「ちょっと、後ろにいる人を連れてきてくれない?」
「後ろ、ですか?ああ、了解しました!」
そういうと彼は、幻影を通り抜け私たちの進行方向とは逆の、殿へと向かった
「それにしても遅いわね。まったく、さっき出発したって連絡が着たはずなのに」
怪しく光る水晶を手にしながら、少し怒り気味に彼女はつぶやいた
さって、少し早いですがテスト勉強のため一週間ほどお休みします