28話 違う、そうじゃない
〖主、もしかして勘違いしてません?私が言っているのはバトルドレスですよ?〗
だからバトルドレスっていうのは、女性らしい服ながらも戦いやすさを追求した服のことじゃないのか?
〖違いますよ!それならミニスカートでも履いとけって話ですよ。だからバトルドレスですって!!〗
だからバトルドレスって言っても何g・・・
あー、そういえばBattle Dress Uniformを和訳すると戦闘服だったって覚えがある
つまりは、バトルドレスはドレスではない、と?
〖そうですよ。さっきから言ってるじゃないですか〗
わかるか!!
そういえばMGSVにもバトルドレスって迷彩服あったな・・・
〖あ、ちなみにそれを参考にして創ったんですよ〗
そうなのか?
だとしても相変わらず器用だな・・・
〖いえいえそんな。ああ、効果とかは原作とほとんど同じにしていますので安心してください〗
・・・・・・おっけー
ふと、遠くの方から多くの足音が聞こえた
先のこともあったし、さすがに逃げないとやばそうだ
すっと立ち上がると、路地裏に逃げ込・・・
胸が邪魔で入れない・・・
仕方ないので、敵が来る方向の反対側に向かって逃げるとしよう
・・・どこかで、猫が鳴いた気がした
さて、先ほどまでは愚痴をたらたらと述べていたが、実際使ってみると前まで着ていた服との差が実感できた
まさに雲泥の差、という奴だろう
まず挙げるとするならば軽いのだ
まるで何も着ていないと勘違いしてしまうほど、体への負担が全くない
それだけ聞くなら、「軽くても重要な防御面は紙耐久なんだろ?」なんて思うかもしれないが、違う、そうじゃない
そこがこれの凄いところと言えるだろう
なんせ軽いに加えて堅いのだから
機動力を損なうことなく防御力を大幅に上げるなど、まさに軍事的革命だ
ゲーム内ではカモフラージュ率が低く、足音もするのであまり使えないと思っていたが、なるほど現実ではこれほどまでに便利な装備となるのか
ただ、一つだけ文句が言えるならば、この服のデザインを変えてほしい
少し個人的な趣味が混ざるが、なんというかこのデザインは好みではないのだ
これについて『善意』さんに直接示談してみると、
〖ならまた裸になりますか?〗
と言われたので、さすがに引くことになった
これでも健全な男子高校生だ
往来で全裸というのはさすがにご免被りたい
というわけで今この状況、とても見つかりやすい迷彩服で内戦地帯に潜入中なのである
潜入というと、というかここまでの話とつなげるとやはりメタルギアシリーズを思い出すわけだが、ゲームと明らかに違うことを上げるとするならば、銃がないこと、敵の視界が通常なこと、あとはGAME OVER、というかGAME CLEARがないということだろうか
しかし、俺の初めての潜入任務がリリムさんと合流して、この国の奴らとドンパチやるという・・・
全く、ステルスとは何だったのかと疑いたくなるが、そういえば俺はそんな任務を受けてなどはいないな
危うく、別の世界に飛びそうになっていた
さて、文句をやっと言い終わったところではあるが、リリムさんはどこだろうか
一応、そこらを適当に走り回ってみたが、見つからなかった
どれだけ広いんだ、とまた愚痴を言いたくなる
そのくせして高い建造物は見当たらない
おやおや何だ?
ファイナルのようなファンタジーのような国の次は、一周回って日本・京都に行きついたとでもいうのか?
それなら喜ばしきことだろうが、ごつごつとした茶色の空が俺の頭上を覆っているところを見るに、そんな奇跡的なことは起きていないらしい
しかし何か目印でもほしいところだが、そういうのはわからないか?
〖さすがに無理です〗
{自分の足で探せ}
冷たいな~二人とも
しょうがない、もう少し範囲でも広げてみ―――
この時の俺は、たぶん油断していたのだろう
・・・いや、これはただの言い訳だ
俺はこの時、少しの隙も作らないほど油断していなかった
だからこそ恥ずかしいのだ
こんな結果が、こんな真実が
まだ人ならましだっただろう
そいつさえ殺せば、その事実を俺は墓の中まで持っていけるのだから
ただ俺は、そいつを殺すことができなかった
「にゃおーん」
そこにいたのは、俺の背後にいたのは人ではなかったからだ
気配を消して、存在を消して、俺の後ろにいたのは一匹の黒猫だった
ね、猫か・・・
全く、変な汗かいたじゃんかよ
しかしこっちにもまともな動物っているんだな
動物=魔獣って考えてたから意外だった
魔獣がうまいのかは知らないが
そういえば黒猫は現代日本で不吉の象徴とされていると噂で聞いたことがあるが、なぜなのだろうか
別に害があるわけではないだろう
もしあるとしたら黒猫のみならず日本全国の猫が死滅することになるのだから
「ふにゃん!?」
振り返って猫を見ていると、突然顔色を変えて、焦りだした
なんだなんだ、俺の顔に何かついていたか?
「にゃん、ふにゃ、にゃんにゃん!!」
おそらく何かを伝えたいのであろうが、生憎前世の9年間の学校生活の中で一度も猫語を習ったことはないのだ
せめて日本教育の中に猫語を学ぶ授業があったならば、この状況でも対応できるだろうけど
どうしたものかと考えてみるが、結局いい案が浮かぶことはなかった
聞き続けたら少し位理解できるかと思ったが、英語のLとRの発音の違いさえ分からない俺には無理だ
そうだな・・・あ
もしかしてだけど、『言語理解』をうまく使えば言葉解ったりとか・・・
〖可能ですよ。というか余裕です〗
さすが『善意』さん、いや『善意』様
じゃあちゃっちゃとやっちゃってくd、
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突然、激しい頭痛がおこった
何かが大量に入り込んでくるような、そんな痛みだった
何が、急に何が・・・
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
あっれ、おかしいな
ここには誰もいないはずなのに人の、それも少女の声が聞こえた
これはもう、いろいろな意味で末期なようだ
やっべ、吐き気まで出てきた・・・
もはや軽く日常的な状態となった、頭痛と吐き気の2コンボ
<確認しました 耐性『精神損傷耐性』を獲得しました>
その2コンボも、その声が聞こえると幾分か楽になった
「ミル!ミル!!何か言ってくださいよ!」
っち、誰だよさっきから俺に向かって話しかけてんのは
顔を上げるとそこには、
そこには、今度は心配そうな顔をした黒猫が首をかしげていた
ああそうか
成功、したのか
「・・・俺の言葉、解るか?」
一応の確認を、ということで話しかけてみた
猫は何も言わずただ首を縦に振った
それは解った、という意味でとらえていいのだろうか
確かインド辺りでは「承諾」を表すとき、首を横に振ると聞いたことがある
そう考えると、解らないと言っているのかもしれない
・・・いや天邪鬼か!!
聞こえてるならそもそも首なんて振るわけがないだろうな
ならいっそのこと、もっと深くまで聞いてよう
「ミルってなんだ?」
「はぁ!?貴女自分の名前も忘れたんですか!!」
おおっと、予想外の返答が返ってきた
「いや、俺は猫に名のったこともないし、猫の知り合いもいないんだが」
「そりゃ私だってなりたくてなったわけじゃないですよ!というか本当に大丈夫ですか?貴女少しおかしいですよ」
おかしいとはずいぶんとひどいな
というかなりたくてなったわけじゃない?
もしかしてこいつ・・・
「お前も転生者なのか?」
「テンセイシャ?って何ですかそれ」
違うのかい
じゃあもう心当たりとかないぞ
「じゃあお前、名前は?」
「・・・もしかして貴女、記憶喪失ってやつですか?」
何か心配されたよ急に
いや、もしかしてそれが名前だとはいわないよな
もしそうならどんだけユニークな名前だよって話だが
「悪いが、記憶をなくしたことはこの人生で一度もないんでな」
「そうですか。じゃあもう一度名のりますね」
もう一度?
もしかしてあのにゃーにゃ―言っていたのは名のっていたのか?
「私は、『憤怒』の魔女」
かっと、目の奥が熱くなった気がした
悲しいのだろうか
いいえ、興奮しているのです
なるほど、そりゃ見つからないわけですな
まさか、猫になっているとは誰も思わないだろうから
「またの名を、ルスス・バリウス」
まさか、目の前にいる汚らしい猫が魔王だとは誰も思わないだろうから




